復刻した4種の照明器具
2022年、笠松電機製作所の照明事業撤退のニュースを受けて、衝撃を受けた私たち。toolboxでは、長年に渡り、笠松電機製作所の照明を取り扱ってきました。
2024年2月に、中でも人気商品だった『工業系レセップ』を復刻。復刻版の「工業系レセップ」も、たくさんの方に使っていただいています。
第1弾の復刻、笠松電機製作所の事業撤退については、こちらのコラムから。
今回、第2弾として復刻するのは、『レトロブラケットライト』『レトロペンダントライト』『ボールアームライト』『ガラスボール照明』の4種です。
どれも、工場や作業場で使用することを想定してつくられた、実直なデザインが魅力。レトロでノスタルジックな空間演出が叶うと、人気を集めていた商品です。
第2弾を担当したのは「工業系レセップ」の復刻も担当した、商品開発チームの大迫と仙波。引き続き、大迫が主にデザイン面を、仙波は工場探しや、PSE絡みの技術面、コスト面の調整を担当しました。
今回は、2人に復刻の背景や変更点などをインタビュー。
「工業系レセップ」の復刻が後押しに
- 仙波
最初は、「レトロブラケットライト」「レトロペンダントライト」の2種類から後継品の選定・開発が始まり、後に「ボールアームライト」「ガラスボール照明」も同時並行で進めることになりました。
- 大迫
当初から、取り扱っていた笠松製品の全ての完全復刻を目指していたわけではなかったんです。
第1弾の「工業系レセップ」は明らかに他にない形状でしたし、社内でも思い入れが強かったので復刻という形をとりましたが、笠松電機製作所からセレクトしていた他の照明は、他メーカーからセレクトして後継品としたものもあります。
ただ、この4種に関しては探しても、似た形はあっても代替となるものが見つけられず、図面を起こしてtoolboxとして製造することになりました。
- 大迫
「工業系レセップ」はありがたいことに、たくさんの反響をいただいて、後押しになりましたね。
- 仙波
せっかく自分たちでつくるなら、よりよくしようという気持ちが強かったです。
デザインは可能な限りそのままに、現代の基準に合わせて
- 大迫
今回一番苦戦したのは、「レトロブラケットライト」「レトロペンダントライト」のシェードとソケットの噛み合わせの部分です。
- 仙波
特に「レトロブラケットライト」の防雨対応ですね。玄関灯など外壁で使っていただきたいブラケットライトなので、つくり直すとなると改めて現行の防雨試験をクリアする必要がありました。
- 大迫
シェードもソケット部分も新しくする必要があったので、防雨試験をクリアできるようにわずかに形を変更しました。社内からは、ブラックシェードのサビが気になるという声があったので、笠松の時代はスチールだったのですが、サビにくいアルミに素材を変えて、噛み合わせ部分やネジの微調整を繰り返しました。
後ほどお話ししますが、台座部分などいくつかのパーツの製造方法を、ダイカストからへら絞りに変更しています。台座が少し薄めになったので、それに合わせてアームも少し細くしてバランスを取っています。
- 大迫
「レトロペンダントライト」は、ソケットやシェードは「レトロブラケットライト」と同様で、コードの長さをオーダーできる仕様にしました。笠松製品は元々工場用につくられていたためか、標準が1.5mとかなり長かったのですが、住宅スケールでも使いやすい1mを基準として最長4mまで対応可能にしました。「ガラスボール照明」もコードの長さについては同様ですね。
- 仙波
「ボールアームライト」「ガラスボール照明」はディテールを再現できたと思います。ガラスボールを支えるベースの部分が特殊な形状をしていることもあり、へら絞りなど他の製法では再現できず、オリジナル商品と同じダイカストで製造しています。生産ロットが比較的少なくても製造を請け負ってくれる工場と巡り合えたので、商品化を進めることができました。
- 大迫
ガラスボールは笠松時代と同じものを使っているので、ガラスの分厚さや乳白ガラスの透け感などはそのまま。昭和のものづくりの懐かしさを感じられます。
少し変えると成り立たない、絶妙な笠松デザイン
- 大迫
「工業系レセップ」のときもそうだったのですが、笠松製品の凄さを改めて痛感しましたね。
「レトロブラケットライト」は防雨対応にするため、やむをえなかったのですが、ほんの少しでも形状を変えると他のところが納まらなくなったり、バランスが悪くなったりということが今回もありました。
「ボールアームライト」「ガラスボール照明」のベース部分については、社内で「もう少しコンパクトにしたほうが使いやすい」という声もあり実際にCGを起こしてみたのですが、うまく納まらず、結果笠松時代の形をそのまま採用しました。空間に取り入れてみると、やっぱりこの大きめなベースがあることで空間と馴染みが良いと感じますし、ミニマムにすればするほどありきたりなデザインになってしまう。笠松製品のデザインには全てに意味がある、と改めて感じました。
笠松製品と同じく、広くたくさんの方に届けたい
- 仙波
笠松製品の凄さの一つに価格もあります。様々な商品のパーツを共通化することで、手頃な価格帯を実現していたのだと思います。
気をつけたのは、復刻版だからと言って高級品にはしないこと。広くたくさんの方に使ってもらっていた笠松時代と同じくらいの価格帯で手に取っていただきたいと考えました。
- 大迫
笠松電機製作所ほどの大量生産はできないので、どうしても値上がりしてしまった部分はあるのですが、高くても1万円台前半に抑えました。
- 仙波
コスト面と再現度のバランスは悩みましたね。笠松製品は工業用としてつくられていたので、ダイカスト製のパーツを多用し丈夫に作られていました。ただ、ダイカスト金型のコストと生産ロットの大きさがハードルになる。全てのパーツをダイカストでつくっては、今までと同じような価格帯では提供できないので、ブラケットライトの台座部分など一部は、へら絞りを用いてコストを抑えました。
- 大迫
今後お客様からの反応や販売個数実績などを踏まえながら、コストを据え置きつつも、さらに笠松時代に近づけられるようにアップデートを重ねていく予定です。
- 仙波
比べて見ると笠松製品との違いはありますが、現状でできる最善の状態だと思っています。ただし、まだできることはあるので、今後もチャレンジして行きたいです。
笠松電機製作所への敬意と悔い
- 仙波
改めて感じたことは、笠松電機製作所の商品の素晴らしさと、こういったものづくりをしている会社の事業撤退はとても残念に思います。決断された後に連絡を頂き、どうしようもできず、こうして商品の復刻という形で携わっていますが、これは本当に悔しいですね。
- 大迫
第1弾の復刻を笠松さんのご家族はとても喜んでくださいました。私たちもとても嬉しいと同時に、もしもう少し早く手を打っていれば、何か別の形で存続できたのではないかと悔やまれる部分もあります。それが、このプロジェクトを進める上での原動力になっています。
まだ、後継品が出せていない商品もあるので、笠松電機製作所へのリスペクトを大切に、今後もリニューアルや復刻に取り組んでいきたいです。
近年、後継者不足や職人の高齢化により事業撤退や商品の廃盤が相次いでいます。原価高騰や情勢の変化など、ものづくりを取り巻く環境はとても厳しいものです。
ですが、より良い住空間を提供するため、これからも全国約200社の多様なパートナーとともに、ものづくりを続けていきます。