京都・西京極に「イハウズビル」をかまえる2002年創業のアトリエイハウズ。土地・物件探しから、注文住宅やリノベーションの設計・施工を行う工務店です。しかし驚くことに、工務店の事務所であるはずのビルには、大きなコーヒー豆の焙煎機が。工務店でありながら、焙煎士が淹れる本格コーヒーを提供するコーヒーショップも運営しているんです。

最寄りの阪急京都線「西京極」駅を降り、西京極総合運動公園を抜けていくと、このビルが正面に見えてきます。

イハウズビルを案内してくれたのは、アトリエイハウズを束ねる社長の大池義和さん。物腰が柔らかく、フレンドリーで、スタッフからも愛されキャラ。スタッフ曰く、「何をするにでも子供のようにワクワクしていて、待ち合わせも、集合時間の1時間前には必ずいるんですよ。その場所で起こるかもしれない偶然の出来事を楽しみたくて」。アトリエイハウズとtoolboxで一緒にイベントをやった際も、誰よりも先に現地に来ていたのは大池さんでした。

焙煎機の説明をしてくれる社長の大池さん。

そんな、何事も楽しむことがモットーな大池さんに、コーヒーショップを始めた経緯や会社の取り組みなどお話を聞かせていただきました。

きっかけは、家づくり後も長くつながっていたいという思い

「コーヒーショップを始めたかったというより、自分たちの事務所だけじゃなく、人が集まったり立ち寄れる場もある場所をつくりたかったというのがきっかけでした」と話す大池さん。

工務店というと、家づくりをしない限り接点がない存在と思われがち。家づくりも長くても1年半ほどで終わってしまい、打ち合わせを重ねる中で家族みんなと仲良くなったのに、引き渡した瞬間に関係が途切れてしまうのが寂しかったそう。そこで、家づくり中だけでなく、その後も長くつながれる場として、複合ビルをつくることを決意。その中のコンテンツのひとつがコーヒーでした。

最初は、別の珈琲店で焙煎士として働いていた店主の岩田知也さんが、縁あって不定期にイハウズビルでコーヒーを淹れてくれていたのが始まりでした。岩田さんの人柄や、豆の美味しさを引き出したコーヒーが人気になり、自然と人が集まる場所に。その後、岩田さんを社員に迎えイハウズが運営する「WESTEND COFFEE ROASTERS」としてオープンしました。

看板焙煎士の岩田さん。岩田さんとの会話を目当てに来られる方も多いそう。

毎日飲んでも飽きない飲みやすいものから高品質なものまで、厳選したコーヒー生豆を焙煎。1杯1杯ハンドドリップで提供している。

「みんながこの場所を必要としてくれて、結果として今のようなコーヒーショップができたと思ってます」と話す大池さん。

今では、アトリエイハウズが工務店ということを知らない地域の人たちに愛されるまでになったWESTEND COFFEE ROASTERS」ですが、お客さんを楽しませるイハウズビルのコンテンツはまだまだあります。

グリーンショップの横にある階段から2階へと続きます。

コーヒーショップと同じ1階の敷地には、譲り受けたという貨物用コンテナを改築したグリーンショップ「grow」が併設されています。

さまざまな国と地域から選りすぐった植物が縦横無尽にファサードを埋め尽くしていて、その圧巻の緑に出迎えられると、元気をもらえます。

2階の踊り場や通路にたくさんのモノが並び、ついつい足が止まってしまう。

2階にはアンティーク品のガレージセールコーナーや、「レスキュー品」と呼んでいる、解体現場などから引き上げてきたものたちや家具の修理工房があり、ついつい掘り出し物を探したい欲を駆り立てられてしまいます。

ここは、以前は社長室だった場所。大池さんが学生時代から集めてきた、80年代の雑貨や洋楽のコレクションが並び、そのままお客さんに開放していました。現在この場所には、スタッフの友人だったご縁で、古着屋「24HOUSE」がお店を構えていて、土日限定で営業しています。

この先に何があるのかな?とワクワク感に溢れる、敷地内の通路。

イハウズビルは、サクラダファミリアと言わんばかりに、常にアップデートされています。アトリエイハウズが大切にする家づくりの想いや世界観を、まるごと体験できる場所です。

世間話の延長で、家づくりの相談ができたら

そろそろ家づくりを考えたいなと思い始めても、具体的な相談内容がないと工務店には相談しにくい……。そう感じている方も多いのではないでしょうか。何気ない世間話をしていたら、気がつくと、家づくりの話をしてた、そんなふうに、日々の出来事や悩みについて友達や家族に相談するように、気軽に家の話ができる場所があったら、いいですよね。

そんな機会をつくるために、イハウズビルでは、誰でも参加できる「日常を楽しむお祭り」のようなイベントを3ヶ月に1回開催しています。

イハウズで広報を担当する十塚さん。手先が器用でみんなからもセンス抜群と言われてる十塚さんがシルクスクリーン印刷のワークショップを担当。

イベントということで古着屋「24HOUSE」さんがオープンスペースで販売。マニアックなTシャツにお客さんも興味津々。

当日はアトリエイハウズのスタッフがイベントのアテンドをしてるので、ワークショップやお買い物を通じておしゃべりを楽しんだり、家づくりで気になっていることを相談してみたり。普段の生活の中では、家づくりのプロと話ができる機会はなかなかないけれど、こうしたイベントを通じてきっかけが得られるのは、いいですね。

アトリエイハウズでは家づくり相談会も行っていますが、家づくりの有無に関わらず日常的に訪れることができる場をつくり、“ご近所さん”のような関係性を築くことを大切にしています。そうやって関係性を築いた上でなら、いざ家づくりという時にも相談がしやすく、アトリエイハウズとしてもお客さんの人となりを知ることができ、お客さんがなかなか言語化できない潜在的な要望や本音に気づきやすくなったと言います。実際に、コーヒーを飲みに立ち寄ったついでに家の相談をし、そのまま家づくりが始まったケースもあるんだとか。

イベント後、「お疲れ様でした!」のスタッフ集合写真。

アトリエイハウズは社長とスタッフの総勢11名の少数精鋭のチーム。メンバーの経歴もアパレル、不動産、デザイン事務所とさまざまで、メンバー同士が仲が良く、アットホームな雰囲気が特徴です。お客さんとも自然と家族のような距離感になり、イベントを通じて出店者同士や地域の人々とのつながりが生まれることで新たなご縁が広がっていくのも、アトリエイハウズならではの魅力です。

家づくりについても、「注文者と請負人」という関係ではなく、「プロジェクトをともに楽しむチームの一員」のような感覚で進めているというアトリエイハウズ。家づくりを終えた後も続く長いお付き合いを大切にしながら、関係性をつくっていけます。

日々の暮らしに寄り添った、無理のない自分らしい家づくり

大池さん曰く、アトリエハウズがつくる家は、『ごくごく普通の、どこにでもある家族の夢を叶える家づくり』。上質な自然素材にこだわりながらも究極を目指すのではなく、日々の暮らしに寄り添った、その人やその家族に合ったちょうどいいお家づくりを心掛けているそう。

外観の色、サッシ、板張り、玄関ドアに手を加えて、印象を変えました。

例えばこちらのリノベーション事例。建物は築45年の木造2階建で、建坪は23坪と、狭小の部類に入るサイズです。お客さんからの要望は「住まいと仕事場を一緒にして、家族時間を増やす暮らしを実現したい」でした。小さな部屋で区切られ、狭さや暗さが感じられた間取りを、2階に仕事部屋、1階に生活スペースと家族に必要なスペースだけにそぎ落とすことに。

開放的になった2階のご主人の仕事部屋。

2階の仕事部屋は天井を解体、建物の形を活かした勾配天井にして、丸太梁を現しに。開放感を生み出しつつ、壁と天井はラワン合板で仕上げ、最小限のアレンジで空間の居心地を変えました。

お施主さんが取り入れたかった、「青」と「緑」のカラーが空間に映える。

天然木を取り入れて温かみのある上質な空間に。

キッチンには青、寝室壁には緑色と、アクセントになる差し色も取り入れて。お施主さんの理想のイメージを画像や資料で共有してもらい、素材の選定をしていったそう。さらに、そこにラワン天井やオークのフローリングといった天然木の素材をミックスすることで心地よさをプラスしました。

続いてこちらは、「生活感を感じさせない家にしたい」というお施主さんのご要望のもと、ギャラリーのような空間にリノベーションした事例。

この家には、普通の家に見られる空間を仕切るドア、フローリング、玄関の仕切りといった要素がほとんどありません。また、各所に使用されてるモルタルは、お店や施設のような非住居の印象を与えています。また、収納に扉をつけなかったり、部屋と通路の間にもドアを設けずオープンにして、暮らしの道具を隠すのではなくアートのように「見せる」空間に仕立てています。こうした提案は、お施主さんとの会話中の言葉をキャッチしながら形にしていったそう。

幅いっぱいに造作で作られたモルタルの洗面台。

個室の入り口は、籠り感を感じさせるアーチ型の開口が印象的。

また洗面台をモルタルで造作していたり、個室の出入り口にアーチ形状を採用したりと、お施主さんの理想の暮らしを形にするために、手間を惜しまない姿勢がアトリエイハウズの特徴。「既製品を集めただけの家づくりはつまらない」という思いのもと、ないものは作ろう!と作ってしまうところに、職人気質を感じます。

まずはこだわりのコーヒーを飲みに行くことから

「WESTEND COFFEE ROASTERS」カウンター側から見た店内の様子。本棚にはインテリアや建築関連の本が並ぶ。

モデルハウスやショールームに行くと、まだ家づくりが具体的ではないのに、営業されたらどうしよう……と足踏みされる方もいると思いますが、イハウズビルは、気軽に足を運びやすいのが嬉しいところ。

「WESTEND COFFEE ROASTERS」には、アトリエイハウズがおすすめする家づくりに関連したさまざまな書籍も置いてあります。また、店内の内装や家具、インテリアはもちろんアトリエイハウズが手がけたもの。素材の使い方やデザインの工夫など、実際に触れて見ることで、家づくりのイメージも広がりそうです。

イベントが開催されていない時でも、イハウズビルの2階に事務所やショールームが併設されているので、「気軽に声をかけてほしい」と大池さん。さらに2025年3月には、ライブラリーと中古レコードの販売コーナーも新設されるそう。気になった本を1階のカフェに持ち込んで過ごすことも可能です。まずは、こだわりの自家焙煎コーヒーを味わいコーヒーを味わいながら、お友達やご家族、イハウズのスタッフたちと、家づくりの妄想をおしゃべりしてみてください。

アトリエイハウズのイベント情報はこちらよりチェックしてください!

今回ご紹介したプロはこちら

会社名    株式会社アトリエイハウズ
所在地    
京都市右京区西京極浜ノ本町38(MAP
創業     2002年
社員数    11名
サービス概要
注文住宅設計施工/店舗・オフィス・商業施設設計/物件探し/リノベーション設計施工/インテリア提案/コーヒーショップ/雑貨販売/イベント開催
対応エリア  事務所から車で1時間半圏内

「WESTEND COFFEE ROASTERS」の詳細はこちら
住所    
京都市右京区西京極浜ノ本町38   1階(MAP
営業時間  
9:00-17:00(L.O.16:30)
定休日   
水曜日
Instagram  https://www.instagram.com/westend_coffee_roasters/

※アトリエイハウズが手がけた事例は下記の「プロ情報を詳しく見る」から、ご覧いただけます。

株式会社アトリエイハウズ

新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。

テキスト:小尾