インテリア素材としての金属
雑誌コンフォルトとの連載企画vol.3。
今回は、「肌理(きめ)のある金属」がテーマ。toolboxでは、「真鍮金物」「真鍮立方体つまみ」など小粒で粋なものから、「ハンガーバー」「棚受け金物」といったアノニマスなパーツまで、経年変化する金属素材を積極的に扱っていますが、一般的には、工業的、性能重視な反面冷たく無機質、他の素材に比べそんな印象の強い素材です。ただ、プロダクトになる過程でそれをつくり出しているのは当然「人」。人の手によるアイデアや技術が施され、そこに経年劣化という自然の性質が加わることで、実はいろいろな表情が楽しめるのです。
今回は金属製造の現場を見てみたいと、東京台東区の「田代合金所」を訪ねました。お話を伺ったのは三代目の田邊 豊博さんと奥様の晴代さん。
大正3年創業時は、活版印刷用の活字をつくる会社としてスタート。漢字の細かい形を再現する中で精度の高い鋳物の技術を構築。昭和40年代に活版からオフセット印刷へと時代が移り変わると、二代目はハンドバックやベルト、指輪、キーホルダーなど服飾品の金物製作へとシフトします。しかし、それらも樹脂製品や中国輸入品の台頭で出荷量が減少…そこで、三代目はさらなる商品展開を模索し、これまでの技術を生かした精密なフィギュアなどの鋳造をはじめ、独自ブランドのインテリア素材の開発にたどり着きました。
自分の土俵で戦うということ
「自分の土俵は金属を鋳込むこと。この土俵なら横綱になれると考えた」と田邊さん。
「コンウォール」という写真のパネルは、一枚一枚鋳型に錫(すず)の合金を流し込んでつくるパネルです。流れていく様が固まった模様が作り出す質感は、一枚一枚表情が異なり、壁全体に貼ったときに、絶妙なゆらぎの表情が生れます。
田邊さんがさらにすごいのは、これを積極的に海外の見本市に持ち込み、高い評価を勝ち取ったところ。 壁面アクセントだけでなく、カウンターやフラワーベース、照明など、商業空間などで多く取り入れられ、いまでは世界13カ国に代理店をもち、イギリスの100% Design blue print AWARDも受賞されています。
ただ新しいものを造るだけでなく、その魅力、他のものとの違いを一番分かっている人が直接市場に売り込みにいく。こういう活動をすることで、日本の高い技術は埋れず、日本を乗り越え、目の超えた世界の市場で戦えるのだなと非常に勉強になりました。
錫の鋳型流し入れを体験
お話を伺った後に実際の作業風景を見せていただくことに。事務所の奥にある静かで整理整頓された工房。 ぐつぐつと煮立つ窯の中には、ターミネーター3に出てきたような銀色の液体の錫が。鋳型への流し込み作業を体験させていただきました。
楽しそうに見えますが、この大きなお玉ひとすくい、実は5kgもあります。すくって、型に流し込んでいくと、みるみる固まっていくのですが、コツをつかまないと、端まで届かず中途半端に固まってしまいます。熱を加えると変形し、また新しい形となっていく。頭では分かっていても、実際見る機会の少ない金属の特製を目の前で見る事が出来た貴重な時間でした。
ドイツのメタル技術と古民家のコラボレーション
田邊さんから、木材・ガラス・プラスチック、あらゆるものの表面を金属にしてしまうドイツの特殊処理材があると聞き、進行中の古民家リノベーションの一部に取り入れてみることになりました。
その名も「ミダスメタル」ミダスとは触ったもの全てを黄金に交えるギリシア神話の王の名前。
写真のサンプルのように、まずは下地となるものにスプレーやこて、ローラー、刷毛等で粉末状の材料を塗布します。
12時間以上おいたのち、表面を覆う塗膜を荒さを調整しながら研磨していくと、金属の輝きがでてきます。素材も真鍮、銅、亜鉛、鉄、スチールと、様々。実際に経年変化も起こり、日本でも大きな照明や複雑な造形のカウンターなど、ホテルや高級ブティックなどで採用が始まっているとのこと。
今回は、あえて、ホームセンターでもおなじみのOSB合板を下地に、銅を施してもらいました。縁側に面した床の間の側面 、紺色に仕上げた隣の壁に対し、OSBの荒い素地が鈍く輝きを放つ、不思議な表情がつくりだせました。今後、時が経てば経年劣化により銅特有の緑青がでてくるでしょう。築約80年という長い時間を経た民家が、また新しい技術と出会い、時とともに変化していくのです。
今回ご紹介した素材たちは、決して手頃な値段とは言えませんが、お気に入りの絵画や調度品を飾るような感覚で住空間にも取り入れられていくと、日本の住空間ももっと豊かで個性的になると思いました。
より専門的な切り口で今回の特集記事が掲載されています。ぜひ合わせてご覧下さい。