作るプロセスを見ることが出来るという贅沢
自分の部屋の壁が仕上げられていく過程を見た事がある人は、世の中にどれくらいいるのでしょう。そんなこと、そもそも考えた事もないという人が大半だと思います。でも、全てのモノは、それがどんな量産タイプの壁紙であろうと、一つ一つ職人さんの手によって仕上げられているのです。
最近、農作物やプロダクトにおいては、その生産者やストーリーがみえて納得したものを買いたいという傾向が強いように感じます。
モノを買うように簡単には行かないけれど、我々toolboxでも、出来る限り家が造られていくプロセスを知って欲しい、製品にかけるメーカーさんの思い、職人さんの技を見て欲しい。そうしたら、もっともっと自分の部屋にも愛着がわくはず。そんな風に思っているのです。
そんなわけで、前置きが長くなりましたが、雑誌コンフォルトとの連載企画vol1.(後編)。前回、左官職人 河西栄さんの元を訪れ、サンプルを見て盛り上がったtoolboxチームは、さっそくどこか実際の空間に塗られたところを見てみたいと、東京R不動産でもおなじみ?のシェアオフィス「島津山ハウス」の壁一室(約12平米分)を塗っていただくことになりました。
今回はそんな贅沢なプロセスを皆様に変わった堪能してきた様子をお届けします。しかも、なかなかお眼にかかるチャンスのない「左官の中塗り仕上げです」
まずは、イメージをすりあわせ
前回工房を訪れた時につくっていただいたサンプルが後日オフィスに届きました。
サンプルを塗っていた時よりも、藁は少し埋れて色味も落ち着いた印象。あまり、藁が入る感じも、ほっこりしすぎるかと懸念していたのですが、仕上がってみると河西さんが塗りながらもっと藁を増やすか大きいものを入れた方がいいと言ってた通り、、、むむむ、難しい。
でも、こうして職人さんとコニュニケーションを取りながら、理想の仕上げを追求できるのが、職人さんにお願いする醍醐味。左官の魅力のひとつですね。
左官ライブのはじまり
さて、イメージも共有できたところで、さっそく施工スタート。元々は、ボード下地に塗装仕上げだった壁面。時間が経った塗装仕上げのお部屋で気になってくるのがボードの継ぎ目のクラック。そこを処理してから、驚くべき早さで下処理をしていきます。
ちなみに下地処理で使ったのは、GLボンド!RCの壁に直接ボードを貼る時に使う団子状のあいつです。
下塗りを午前中に完成させ、いざ本番!まずは、材料作りから。
写真にあるように吉野石膏Bドライという下塗り材をメインに、中塗土、藁をよく混ぜ合わせます。「この前のサンプルより、もう少し藁が見えるようにしたい!」など、その場イメージをすりあわせ。これぞまさにTHE 現場!(このあたりの調合配分などテクニカルなお話は、コンフォルト本誌でぜひご覧下さい。)
コテ跡は、「ランダム」とお願いし、いざスタート!
スピードとクオリティ、これぞ職人技
….あっという間の30分でした。職人2人で12平米の壁が30分ほど。本当にあ!っという間。
DIYで珪藻土を塗ったことも何度かあるのですが、「コテ返し」といわれる、手元のパレットから材料をすくいあげ、手首を返して壁にのせる動作。そこからささーっとストローク。案外難しいのです。もう本当に、このスピード感が職人の職人たるゆえんだなぁといつも感心してしまいます。
塗りあがった全体をみて、最後に気になるところを微調整。午後の光を受け、壁が本当に生きているように、静かだけど何かを語りかけるような表情をもちだしました。和風でも洋風でもなく、でも、モダンな家具にもあうこの風合い。
さてさて、これで、気になるお値段は、この面積だと平米単価にして5,500円。12平米の壁全体で、約6.6万円。単純な塗装仕上げに比べると、3倍くらい高いけれど、絵を買ったりすることを思えば、手が出せない値段じゃない。完全オーダーメイドなニュアンス壁が出来るんです。これを高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれ。でも、この贅沢な体験は、こういう質感が欲しいと思った方には、ぜひ一度オーダーのプロセス含めて味わっていただきたい。
今回は、本来下地材であるものが、仕上げ材にもなるという特集でしたが、正直うんちくはともかく、パッと見て出来あがったものがステキな否かというところだと思うのです。やはりいいものには、人を納得させるパワーがある。そして、出来てしまえば、見えない部分ではあるけれど、それをつくっている職人さんの素顔を知ると、その壁がよりいとおしく感じられる。そういうことだと思うのです。
これからも、まだ見ぬ素材、仕上げ、そしてそれをつくっている人に焦点をあてて、ご紹介していきたいと思います。お楽しみに。
より専門的な切り口で今回の特集記事が掲載されています。ぜひ合わせてご覧下さい。