記念すべき第一回は、悩ましきVEの末から生れる「下地で仕上げ」
予算の都合上、本来仕上をすべきところがまさかの減額対象に…でも、もうお財布は限界!しょうがないから、しばらくはこのままで….なんて事ありますよね。ただ、そんなに卑屈になることはありません。これは今に始まった事ではなく歴史的にも、そうした例は繰り返されているのです。
古民家に見られる梁剥き出しの空間は今でこそ壮観で迫力満点ですが、客をもてなす床の間以外の部屋はただ天井を貼るコストを省いただけ。武家屋敷やお城に板間が多いのは、本当は畳を敷きたかったところを殿様以外の空間はコストダウンの対象になった結果の下地と言えます。
身近なものを使い、それに手を加えることによって、美の世界を追求しようと下地の世界を世に引き出して有名なのが、かの千利休ですが、当時は豪華絢爛を目指し、過度な装飾による権力誇示を目指した桃山文化への反抗として生まれた側面が多くあります。
そして現代、バブル期を経て、世の中も不安定ないま、我々は、どこか現代版の「わび・さび」を求め始めたようにも思えます。
コスト調整の意味合いも去る事ながら、下地に新たな表現の場を求める事は、扱う建材こそ変われど昔も今も変わらない文化なのかもしれません。
下地を仕上げに?中塗り仕上げの可能性
左官の世界には、荒塗り・中塗り・仕上げという3工程がある中、「中塗り仕上げ」または「中塗りじまい」と呼ばれる、中塗りの状態で止めてそれを仕上げとして見せる手法があります。
かつて左官の、それも上級になるほどツルリと平滑にする漆喰仕上げがあたり前だった時代。利休が「荒壁」をおもしろいと見立て、洗練された茶室に使ったように、センスある数奇者たちは、ラフな表情を意識的によしとして取り入れた歴史もあると聞きます。まさに、漫画「へうげもの」の世界!それは、どこか、RCのマンションを解体して、一部露出したコンクリートの躯体をそのまま見せて住むような現代のリノベーションの暮らしにも通じるものを感じます。
左官というと、このようについつい歴史ネタが多くなってしまうのですが、これを現代の空間にうまく取り入れることは出来るのか?下地で仕上げる名人がいると聞き、コンフォルト編集長の多田さん、toolboxからは建築家の宮部と私 来生が、東京板橋区にある左官職人 河西栄さんの工房を訪れました。
話せる左官職人 河西栄さん
工房は、住宅街の中、遠くからでもあそこだろうと分かるキラリ目立つ漆喰仕上げの白い建物。お隣のブロック塀を岩風仕上げにしてみたり、お向かいの家の花壇をかわいくしてみたりと、気がつけばご近所にも河西ワールドが増殖中。左官職人さんは、まじめでストイックな方が多そうだと勝手に想像していましたが、色々丁寧に教えてくださり、フットワークが軽そうで気さくな人柄にほっ。
河西さんは、伝統建築はもちろん、建築家と組んで現代的な建築にも左官仕上げを施すお仕事をしています。
工房の中には、大量の粉の袋に、藁や、石。出番を待つ色々な素材であふれていました。
さっそくいくつか事前に用意いただいたサンプルを拝見。配合する土の配合に応じて、ほんのり黄色味をおびたり、白っぽかったり。砂をまぜてつぶつぶ感をだしたり、最後に塗る時のコテさばきでも、また変化が生れます。自然光の下でみると、一つ一つ表情が異なり、見飽きません。
「左官って、自由なんですよ。いつも一緒じゃ面白くないからね。」
と、軽やかに言いきった河西さん。ものづくりの職人さんはかっこいい!こういう瞬間、本当にほれぼれします。
これに藁を混ぜることも出来ますか?とのリクエストにも、「おっ、やったことないけど、いま材料あるからやる?」とその場で実演していただくことに。(材料の配合など、詳しい内容は、雑誌コンフォルトの記事をご覧ください。)
後日、河西さんが施工した実例が見れるということで、銀座の商業ビルエントランスを見に行ってきました。
所在地:東京都中央区銀座5-3-12 壹番館ビル1F(HP) 設計:木村優
エレベータ枠などの黒い硬質な素材と、光の当り具合により表情が異なる壁。自然光が差し込む部分は、本当になんとも言えない表情に。
これは、ぜひ実際の空間に塗ってみたい!どこか実際に塗れる現場はないのか?そして、サンプルを混ぜたサンプルの出来具合はいかに?急激に野望が膨らんだところで、後編へ(つづく)
専門的な切り口で今回の特集記事が掲載されています。ぜひ合わせてご覧下さい。