toolboxのアイテムを使って空間づくりをした事例を、実際に取材してきました。ご紹介するのは、築31年、約82㎡のマンションをリベーションしたO邸。
コンクリート躯体現しの天井やタイルといった無機質な素材と、塗装壁や明るい色調の木、グリーンという有機的な素材で織り成されたLDKには、心地よいリラックス感が漂います。
『無機と有機の融合』というテーマをもとに空間づくりをしたというO邸。このテーマが導き出されるきっかけになったのは、設計初期の打合せにOさんご夫妻が持参した一冊のファイルでした。
ファイルに綴られていたのは、Oさんご夫妻が「暮らしの中で大切にしたいこと」を抽出したマインドマップと、さまざまなインテリア事例写真に「ここが好き」「ここはもっとこうしたい」「こういうところは好きではない」というコメントを添えたシート。
中古リノベーションに取り組むにあたり、物件探しの段階から株式会社リビタのコンサルティングサービス『リノサポ』を利用していたOさんご夫妻。設計はリノサポの紹介で出会った、リノベーションを得意とする設計事務所、キャンプサイトの勝又みづきさんに依頼しました。
「Oさんご夫妻からは“有機的な素材と無機質な素材でリズムがつくられた空間”とリクエストされたのですが、ファイルを見て納得。理想のライフスタイルと関連付けてインテリアの好みや苦手を理解することができるこのファイルは、設計を進める際の大きな指針になりました」(勝又さん)
Oさんご夫妻のこの取り組みはとても有効なやり方だと思いました。特に「なるほど!」と思ったのは、“好みではないもの”も伝えること。
大部分は好みの内容だったとしても、たった一箇所でも“受け入れられないもの”があったら、空間に対する心象が大きく変わってしまうかもしれません。言語化しにくい“理想の空間”のイメージをつくり手と共有するための方法として、これから空間づくりに臨もうと思っている方には、ぜひ参考にしてもらいたい取り組み方です。
そうして出来上がったO邸は、素材使いが本当に秀逸!特に興味を引かれたのが、壁の素材で空間に個性やリズムを生むテクニックです。
その例のひとつが、斜めに貼られた板壁とモルタルの土間床がガレージのような雰囲気を漂わせる“セカンドリビング”。ここは「休日はアクティブな遊びもしたいけど家にも居たい」という多忙なご主人のリクエストから生まれた、趣味を楽しむための場所。
貼ったのは幅90mmのパイン材で、縦貼りや横貼りだと間延びした印象になるので、斜めにしたのだそう。カジュアルだけどラフすぎない、スマートな仕上がりになっています。
グレー壁で塗装された壁は、Oさんご夫妻がDIYで塗装。塗料のざらっとした質感とムラ感が活きていますね。O邸のキーカラーであるグレーは、「グリーンが映える」「昼夜それぞれの光の当たり方で見え方が変わる」ということで決定したそう。
ユニークなのが、LDKの壁に貼られた鏡! 映り込みによって空間に奥行きが生まれています。
「最初は室内窓を設置しようと思っていたんですが、設計途中でこの壁がコンクリート壁で簡単には壊せないことが判明して。そこで、鏡を使って抜け感をつくることにしました」(勝又さん)
一方『フロストタイル』艶あり二丁掛を貼ったダイニングの壁は、キリっと端正な雰囲気。目地も白にして、さわやかに仕上げています。
オープン棚の棚受けは『棚受け金物』鉄150で、カウンター収納の取っ手にも『把手の金物』6φステンレス100をお使いいただきました。
「カウンター収納の面材は木目模様のメラミン化粧板で、これは勝又さんからの提案。見た目は同じ木でも、無垢の木で作ると空間の雰囲気が甘くなり過ぎるという理由でした」(ご主人)
色はフローリングに合わせていて、オープン棚の棚板もオイル塗料で塗って色を揃えたのだそう。
こうしたディテールの統一感が空間全体の見栄えを決めるんでしょうね。
「ダイニングの壁にオープン棚を作ったのは、空間からゆとりが感じられて良かったですね。ものが取り出しやすいし、お気に入りを飾ることもできて、気に入っています」(奥様)
そんな、実用性を兼ねた“ゆとり演出テクニック”もO邸の見どころ。アイランド型キッチンの背面は扉付きの収納とはせず、オープン棚に。カウンター収納と同じメラミン化粧板で背板を仕上げて、キッチンと空間の一体感を高めています。
ちなみにこちらのキッチン、奥様がシンクから水栓、コンロ、レンジフードまで選び抜いたオーダーメイドですが、位置を大きく変えると給排水管もやり直す必要が出てコストUPになることから、位置はあまり変えずに配置したそう。こだわりとコストダウンを両立するテクニックですね。
こちらもゆとり演出テクニック。
天井にフックを吊るせるボルトを付けたり、ハンガーパイプを取り付けて、グリーンハンキング。「室内干しにも使えて便利なんです」(奥様)とのこと。
窓辺では『工業系レセップ』がさりげなく存在感を放っていました。
窓台にタイルや板などを貼っているのも、窓辺が「飾る場所」になっていいなと思いました。
素材やパーツを選ぶ際は、まずテーマをもとに勝又さんがいくつか候補を挙げ、Oさんご夫妻と話し合いながら決定していったそう。
「単体で見たときの“好き・嫌い”は判断できるけど、空間全体で見たときにどうなのか、広い面に使ったらどうなるのかというイメージは、僕らのような素人だとなかなかしにくい。toolboxの商品記事は、“こういう使い方は不向き”といったことや、“こういうテイストに向いている”といったことが書かれていて、判断の一助になってとても良いと思いました」(ご主人)
toolboxでは、商品のスペックだけでなく使用イメージもお伝えすることが、設計者さんとお施主さんとの円滑なコミュニケーションにもつながると考えています。今後もみなさんがリアルなイメージを持って空間づくりに臨めるようお手伝いをしていきたいと思います!
O邸の見所はまだまだあります。
天井は、既存天井仕上げを撤去して躯体現しにするという方法に加えて、床も下地からやり直すことで30cm近くも天井高さが上がったと言います。
配線ダクトレールはご主人のリクエスト。スポットライトの可動性やペンダントライトも取り付けられる自由度の高さに惹かれたそう。
玄関(上左写真)の大容量の下足入れは既製品を使いつつ、取り付け高さや左右の壁位置をデザインすることで、造作っぽく仕上げています。
グリーンのアクセントクロスと間接照明でゆとりを演出したトイレ(上右写真)には、『ミニマルペーパーホルダー』シングルと、『把手の金物』6φステンレス100をお使いいただきました。
セカンドリビング入口に設けられた格子扉はスチール製。玄関から家の中へと気持ちを切り替える場所なので、存在感のあるものをと勝又さんがデザインしたオーダーメイド品です。
「以前はとにかく“オーダーメイドのほうがいい”という思い込みがあったのですが、既製品でも良いものがたくさんあり、使い方や組み合わせ次第で素敵にできることを知りました。間仕切り壁が壊せなかったり、工事費削減のための仕様変更などもあったのですが、そうしたネガティブなこともポジティブな形で解決してしまう勝又さんの設計力のおかげで、満足のいく空間づくりができました」(ご主人)
素材やパーツの選び方だけではなく、空間づくりへの取り組み方にも参考にしたい要素が盛りだくさんだったO邸。何より、Oさんご夫妻が心から楽しんで真剣に空間づくりに取り組んだことが伝わってくる取材でした。
Oさんご夫妻にキャンプサイト勝又さん、そしてリビタさん、ご協力ありがとうございました!
(撮影:シブヤ)
株式会社リビタ
「くらし、生活をリノベーションする」をコンセプトに、既存建物の改修・再生を手がける会社として設立。
「次の不動産の常識をつくり続ける」を経営ビジョンに掲げ、一棟、一戸単位のマンションや戸建てのリノベーション分譲事業やリノベーションコンサルティング事業、シェア型賃貸住宅や商業施設の企画・運営、PM・サブリース事業、ホテル事業を手がけています。
株式会社キャンプサイト
「自然とともにあそび、はたらき、くらす。」をコンセプトに、企画、設計、運営の3つの事業を行なっています。
長野県、蓼科湖畔にてキャビンキャンプ場「HYTTER LODGE & CABINS」を運営中。