床の素材、壁の色、設備機器、パーツに家具。もちろんそれらは空間づくりに大切な要素。でも、そうしてできた空間の雰囲気を最終的に仕上げるのは「照明」なんです。
照明器具の色や形選びはもちろん大切ですが、秘訣は「あかりのつくり方」。
空間のどこに、どんなあかりを取り入れるのか。明るさはどのぐらいにするのか、あかりの色はどうするのか。「◯帖=何W(何lm)」という既成概念を捨て、自分の望む雰囲気と暮らしにぴったりな照明計画の仕方をお伝えします。
前職では設計事務所でインテリアデザインに携わっていた、ライティングにはこだわりのあるtoolboxのリーダー。
事例で学ぶ|「多灯分散」によるあかりのつくり方
リビングの照明というと、UFOのような天井付の丸い照明が思い浮かぶ方もいるのではないでしょうか。一灯で部屋全体を照らすことができるシーリングライトは便利なアイテムではあるのですが、空間がのっぺりとした印象になりがち。
雰囲気のあるリビングづくりに大切なのは、照らしたい箇所や目的に合わせてあかりを分散して取り入れる「多灯分散」という方法。複数のあかりを使うことで空間に陰影が生まれ、奥行きが演出できます。
今回は4つのリビング事例をもとに「多灯分散」のポイントを説明していきます。
case1 照らす場所を絞って、空間にメリハリを演出
マンションによくある、キッチン・ダイニング・リビングがバルコニーに向かって縦長につながる間取り。幅の狭い細長い空間は一見、照明計画が難しそうですが、実は「多灯分散」による演出がしやすいんです。
こちらのT邸では、ダイニングはテーブルの真上にペンダントライトを吊るし、家族が集う食卓を一番明るい場所に。一方、奥のリビングはソケットに取り付けた裸電球だけで照らし、暗めの雰囲気に。
ソファ横にはスタンドライトを置いて、手元まわりの明るさを確保しつつ、くつろぎの空間を演出しています。
スタンドライトからのあかりは壁を照らし、空間のアクセントにも。あかりの位置や照らし方を変えることで、LDK全体にメリハリがつき、奥行きも生まれています。
MEMO
太陽の光が、昼間は爽やかな白い光、夕方はオレンジ色の光になり、日が沈み夜へと変化していくように、家の中のあかりも、生活リズムに合わせて日中と夜のあかりを使い分けるのが理想的です。
特に一日の活動を終えて夜、帰宅した後、昼間のオフィスと同じように煌々としたあかりの下では気持ちも体も休まりません。
リラックスできるような落ち着いた雰囲気をつくるには、あたたかい「電球色」の電球を使うのがおすすめです。
Check! ほしい雰囲気に合わせて選ぶ、あかりの「色」
あかりには「色」があり、温かみのあるあかり、太陽光のようなクリアーなあかり、青みがかったあかりなど、いくつか種類があります。部屋での過ごし方や求める雰囲気に合わせて、あかりの色を選んでください。
一体型のLDKなど、ひとつの空間に複数のあかりを使う場合は、同じ色のあかりを使うこともポイント。
ワークスペースやキッチンなど、部分的に異なる色のあかりを使う場合は、「スイッチを分ける」「そのあかりがほしいところだけ照らす」などして、他の空間に影響しないように工夫をして。
※K(ケルビン):色温度を表す単位です。
電球色(でんきゅうしょく)2700~3200K
暖色系の温かみのある光。リラックスできる。
※一口に「電球色」と言っても、メーカーごとに差があります。電球によって、オレンジ色が強い、黄色っぽいと差があるのはそのためです。
温白色(おんぱくしょく)3500K
電球色と昼白色の中間。温かみとさわやかを併せ持つ。
昼白色(ちゅうはくしょく)5000K
白に近い光。最も太陽光に近い。日中のような爽やかさ。
昼光色(ちゅうこうしょく)6000K
青味がかったすっきりした光。細かい文字も見やすいので勉強部屋やオフィスに向いている。
case2「全体を照らす」と「目的別に照らす」
正方形に近い形のリビングダイニング。こちらの事例では、スケルトン天井に直付け照明を均等に配置して、部屋全体を照らすベースのあかりに。調光器を付けており、シーンに応じて部屋全体の明るさを調整できるようにしています。
さらにライティングレールも取り付け、スポットライトで本棚を照らしたり、ペンダントライトを吊るしてダイニングゾーンを照らしたりと、目的に合わせて照らす場所や照明器具を変えることができるようにしています。
MEMO
リビングの直付け照明
『工業系レセップ』 ソケットフラット(※販売終了しました)×9灯(Φ50の40Wと60Wの白熱ボール球を混合)
小上がり側ライティングレール
『スポットライト』筒型 LEDミニクリプトン WH、ガラスのペンダントライト(54W)
壁面書庫側ライティングレール
『スポットライト』 筒型 LEDミニクリプトン WH
子供が遊んだり、勉強をしたり、食事をしたり、映画を見ながらくつろいだり。さまざまな活動が行われるLDKのあかりは、調光器で明るさを変えられるようにしておくと便利です。
照明器具は後から変更できても、調光器は電気工事を行わないと付けることができないので、設計の時点で盛り込んでおきたい機能です。
※調光器には、白熱灯専用や、同じメーカーの適合LED専用など、様々なタイプのものがあります。toolboxで扱う調光スイッチセットは、国内の主要メーカーの白熱灯、LED電球に対応しています。詳細は商品ページをご確認ください。
Check! スケルトン天井に取り付けるベースのあかり
ベースのあかりの代表として、天井に埋め込むように設置するダウンライトがありますが、スケルトン天井では埋め込むことができません。
そんな時は、case2のように露出配管に小ぶりのレセップを取り付けたり、ライティングレールを取り付けるのがおすすめです。ライティングレールにはスポットライト以外にも、ソケット型のプラグを使って電球を取り付けることもできます。
※露出配管については、 Vol.3 5章で詳しく紹介しています。
case3 インテリアの主役になる照明器具を選ぶ
広い空間では複数のあかりが必要に。
そこで気をつけたいのは、照明器具同士がケンカしないようにすること。主役になる照明器具を決めて、脇役を配置していきましょう。
約65平米というビッグスケールなLDKがあるこちらの事例。アンティークのデスクをカスタマイズしたキッチンを要に、大きなファクトリーランプを複数灯使い。
ライティングレールは並行するように設置して、スポットライトで各所に必要なあかりを補っています。
壁際のスタンドライトは上向きにして天井と壁面を照らし、間接光で周囲を照らしています。
MEMO
キッチンカウンター上ライティングレール
ヴィンテージのランプ×4灯(60W)
キッチン脇と部屋中央のライティングレール
スポットライト×3灯ずつ(60W)
壁際の天井を照らす間接照明
ビームランプのスタンドライト(300W)
天井から真下を照らすように対象物を直接照らすあかりを「直接照明」。
壁や天井に光を当て反射させて照らすものを「間接照明」と言います。
直接照明に比べ、間接照明は柔らかいあかりになるのが特徴です。間接照明を当てる壁はマットな白い壁が最も反射率が高く効果的。
艶のある素材はランプが写り込んでしまうので、うるさく感じてしまうこともあります。床面も同様で、傷・汚れ防止に艶のあるコーティングがされたフローリングなどの建材が多く出回ってますが、雰囲気づくりという意味では、マットな素材を選ぶと反射する光が柔らかく拡散します。
case4 上級編|天井照明なし!間接照明だけで照明計画
日本では天井から床方向を照らす「直接照明」が主流ですが、欧米では壁に取り付けた直付け照明やスタンドライトによる「間接照明」が好まれています。
こちらの事例は、ポルトガルに暮らした経験がある建築家の住まい。ダイニングテーブルの上以外、天井に付けられた照明器具は一切なく、柱の脇や棚に間接照明が仕込まれています。天井面になにもないので空間がすっきり。空間に陰影も生まれ、落ち着いた雰囲気をつくり出しています。
こちらのお宅は角部屋で、昼間は照明要らず。お子さんが勉強や本を読むときはコンセント式のスタンドライトを使っているそうです。
MEMO
柱脇の間接照明
造作オリジナル(80W相当)
本棚の埋込み照明
造作オリジナル(LED40W相当)
ダイニングテーブル
ペンダントライト(LED100W相当)
Check! 工事不要で取り入れられる間接照明テクニック
間接照明は設計の段階でないと取り入れられないもの、と思っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
棚にスタンドライトを置いてみたり、電球が半分ミラー加工されていて壁や天井を照らすミラー電球のように壁側や天井側を照らす照明器具を使えば、間接照明を取り入れた雰囲気のある空間づくりができます。
内装や家具にこだわってつくりあげた空間。それを活かすのも台無しにしてしまうのも照明です。「多灯分散」は空間に雰囲気をつくり出す照明計画のキホンとも言えるテクニックです。その空間に求める雰囲気や家族に必要なあかりを考えながら、あかりの色や配置を考え、照明器具選びに活かしてください。
Vol.2では、一番身近な照明器具「ペンダントライト」についてお話しします。