以前に、「レトロ戸建ての良さを引き出すプチリノベ」という記事でご紹介もしている、戸建てをプチリノベされたお家。
前回の記事が公開されたのは、住み始めた直後のタイミング。キッチンを中心にビフォーの様子もお見せしつつ、その具体的な改装の様子をお伝えしましたが、今回は、住み始めてから3年経った、いまの暮らしぶりを改めて取材させてもらいました。
貝の家がモチーフの青い表紙のtoolboxカタログ2021-2022年版の冒頭にある「妄想を実現した人たちの家」にも掲載中。その暮らしぶりやアップデートされた様子をお届けしています。
この家の気持ち良さは前の住まい手が一番よく知っている
中村晃さん・ゆかりさんは、現在、小学校4年生の息子さんとの3人暮らし。結婚してから、仕事やライフスタイルの変化にあわせて、実に4回目の引越しになるんだそう。今回はお子さんの就学のタイミングに合わせて、築45年になる現在の住まいの3代目の住民となりました。
「最初に内見した時は、この家の2代目オーナーの家具などが入った状態。でも、それがすごくいい感じで、丁寧に暮らしている様子に触発されたんです。
既存の生活導線は悪いんだけど、こういう暮らしがしたいというのが伝わってきました。それまでいろんな家を見てきたけど、ここならちょっと変えるだけでいい感じになる予感がしたんです。」
と、ゆかりさん。内見を重ね、目が肥えてきたタイミングでの出会いでした。
がらんどうの家を内見するより、前の方の家具があると、暮らしぶりがイメージしやすいもの。ごちゃっと暮らしていると、マイナスな印象になるところですが、前の住まい手が気持ちよく暮らしていたことで、そのいいところを継承しつつ自分たちのスタイルを足していこうと決断されました。
建具が語る、こういう家にしたいという思いを継承
一般的に、中古を買ってリノベーションをする場合、前の居住者の痕跡は丸っと消すことが多いと思うのですが、この家は、真逆。
DIY好きだった2代目住人によるユニークな痕跡を大切に、間取りもほぼ変えず引き継いでいます。
特に、ご夫婦が気に入ったのは、45年前に建てられた木造家屋ながら、マンションのような洋風の雰囲気をつくりあげていたというルーバー建具たちでした。
玄関は、床もタイルもレンガ貼り。壁面のレンガは、2代目オーナーが手を加えたのか、立体的なデザインに仕上げられていました。レンガ横には、白いルーバー扉の収納が。レンガとセットで和洋折衷な昭和レトロ感が出ています。
この玄関は手を加えず既存のままなのですが、白い壁の下に、簡単な箱をDIYして、ポスターとグリーンを飾っていました。このさりげなさがいい感じです。
こちらは、ダイニング側から玄関を見たところ。手前のカーテンが掛かっている部分は、元々建具がついていましたが、取り払ってオープンにしています。
気に入ったルーバー扉も、壁一面となると重い印象で軽さを出したかったことと、両開きの扉は使い勝手が悪く、開ける時にダイニグテーブルに干渉するため、思いきって取り外したのだとか。
いまは、その中にガラスの食器棚を置き、上の隙間も棚板を渡して活用しています。
冷蔵庫前の奥のリビングへ向かう扉も、内見時から導線的にいらないと思っていた部分。大胆に扉だけ取り外しています。
リビング側から見たところ。
扉が外された門型のゲートの隣、天井にうっすら何かの跡のような線が入っているのが分かりますか?実はここ、キッチン側から使える吊り戸棚が天井付近にあったのをごっそり取り払っているのです。
壁や天井は、全て壁紙の上から自分たちでDIY塗装しました。壁のあった痕跡がうっすら残っているのもご愛嬌。
「予算の都合もあるのですが、柱に子供の身長を記すように、壁のあった痕跡やドア枠を残すのも、この家の時間の経過が感じられる良さがあると思うんです。」と晃さん。中村さん家族のこの家への向き合い方が伝わってきます。
キッチン横の茶色のルーバー扉の収納は、フルに残しています。こうして見ると、ルーバーの建具が、古いけれど、ちゃんとつくられた家という印象をつくりだしているのが分かりますね。
終の住処のキッチンはオープンと決めていた
この家で、住み始める際に、唯一まるっと手を加えたところはキッチン。タイルの壁で一部埋まっていた窓も全面オープンにしました。
キッチン本体は、天板にコンロとシンクがはまっただけの『オーダーキッチン天板』を入れ、下部収納はなしに。
実はこれ、ゆかりさんがこの家を決める前から、「終の住処のキッチンは絶対に扉付き収納にしない」と決めていたこだわり。
扉があると、知らず知らずのにうちに色々なものをため込んでしまい、引越しのたびに開けてびっくりなものが奥から出てくる。だから絶対、次の家では扉なしのキッチンを実現すると決めていたのだとか。
窓を開ければ、目の前に広がる生産緑地の樹木の借景が広がります。気持ちのよい風が吹き抜けていました。
3年の間に、キッチン周りもちょっとずつアップデート。
窓上部分はグリーンに塗装。壁面には2箇所、DIYで棚を増設。3年前に取り付けた『リングの棚受け』の棚に加えて、『棒棚受け』『棚受け金物』でそれぞれ棚を作りました。さらには、天板の高さに板を延長してオーブンレンジも置き場も。3年かけて決まっていった各アイテムの居場所たち。使い勝手がよさそうです。
息子の10歳の誕生日に子供部屋をDIYしてプレゼント
子供が小学生になると考えなければいけないのが、どこで勉強するかと子供部屋問題。中村さん宅では、引越し当初、子供部屋は作りませんでした。勉強デスクコーナーだけ、リビング横に後から新設。帰宅後は、ランドセルをそこに置き、宿題をするスタイルで過ごしてきました。
そして、今年の4月。10歳の誕生日に彼がずっと欲しがっていた個室を与えようと、お父さんは助っ人を呼び寄せ、子供部屋をDIY。2階の個室が、息子くんの子供部屋になりました。
既存のまま使っていた個室の床を『継ぎ無垢フローリング』にDIYで貼り替えました。棚とハンガーパイプを設置することで空中も徹底的に活用し、約4畳強のスペースながら使い勝手がよさそうな空間。
取材時は、息子くん不在だったのですが、こんな部屋をプレゼントされたら絶対に嬉しいはず。お友達にも自慢できるお部屋ですね。
これでいい。ゆるく、ちょっとずつ
2階は、子供部屋の他にもう2部屋個室があります。
こちらは寝室。
そしてご注目いただきたいのが、この床!
実はこれ、シナの合板を既存の床にただ敷いただけの状態なのです。ちなみに、既存の床は3mm厚くらいの合板が敷き詰めてあり、所々板が剥がれたりベコベコになっていたそう。
「いつか、ここにもちゃんとフローリングを貼ろうと思ってたんですけど、結局このままで…(笑)」と晃さんは恐縮していましたが、「え、全然このままでいいじゃないですか」というのが、取材陣の素直な感想。
これはこれで全然ありだなと思わせてくれる、シナ合板敷いただけ仕上げの床(笑)。
家づくりというものは短期決戦で、その時に全てのモノを決めて作らなければいけないという気がしますが、中村さんご家族の家づくりを見ているとそんな価値観に縛られなくてもいいのだという気持ちになります。
2階のもうひと部屋は、晃さんの仕事部屋。元の和室をほぼそのまま使っています。晃さんはプロのカメラマンで、お仕事で使う機材がいっぱい。実はtoolboxのサイト内でも、晃さんが撮影した事例のお写真を多く掲載させていただいているんです。撮影時は、今回中村さん宅を撮影してくれたカメラマンの兼下昌典さんと楽しそうに、マニアックな機材トークをしていました。
最近、趣味で絵を描き始めたという晃さん。手前のデスクは創作スペースになっています。
こちらは、前の住まい手が増築したと思われるサンルーム。キャンプ道具置き場兼ピアノコーナーとして使っています。日当たりがよくて気持ちのいい、不思議なサイズ感のスペース。こういう空間があるところも、古い中古の魅力ですよね。
階段脇の壁には、『ウォールディスプレイパーツ』でオープン棚をDIY。工作や絵をかくことが好きな、息子くんの作品コーナーにもなっていました。
最後に、こちらはトイレのペーパーホルダーとして鎮座する木彫りのゴリラくん。
これも前の住まい手さんが使っていたもので、気に入ったと伝えたら、残していってくれたのだとか。
このエピソードが印象的で、カタログの妄想のイラストでも登場してもらいました。
建物はもちろん、この家を住み繋いできた前の住まい手へのリスペクトを持ちながら、家族の成長に合わせて、ちょっとずつアップデートされていく中村さん宅。ご夫婦が持つおおらかな雰囲気と、家具や小物のセンスも含めた価値観が、この古い家を中村さん家族の家らしく仕立てているのだと思いました。toolboxが大事に思う、理想的な古い家とのつき合い方、暮らしぶりを見せていただきました。ありがとうございます。
株式会社ルーヴィス
古い建物を活用し、既存のいい部分は活かしながら「懐かしい新しさ」に変化させるリノベーションを行っています。
toolboxでも初期からお世話になっている施工パートナーです。
※お住まいになりながらの改修工事はお受けできません。