私の家には「家事室」があります。

物干しバーを天井に設置して、洗濯物を干しっぱなしにできるスペースです。

スギ・ヒノキ・イネ科と一年を通して花粉症の期間が長く、外干しをしたくない、というのが家事室をつくったきっかけでした。

実際使ってみると、急な雨や、冬の寒い日、その日中に汚れ物を洗いたい時など、天気や時間を気にせず洗濯ができるのがとても便利。窓のある部屋で除湿機を併用した室内干しは、生乾き臭に悩まされることもなく快適でした。

それからは「もっと家事室(ランドリースペース)が一般的になれば良いのに」と想い続けています。

最初の家でつくった家事室のハンガーパイプ。銅管を現場造作してもらいました。

物干しってダサい存在

一方で、実際の家づくりの際に、洗濯に使うスペースは後回しにされがち。とくに都心ではなるべくLDKを優先したい気持ちもわかります。
でも、共働きで、子供がいて、休日はお出かけ派な我が家では、正直リビングでくつろぐ時間より、家事の時間の方が圧倒的に多かった。

便利な物干しグッズは数多くあれど、デザインが気に入るものはそう多くありません。どうしても生活感がでてしまう場所。そんなに見た目にこだわったってしょうがない、という作り手側の声が聞こえてきそうです。

そんな状況を打破したのが2017年に発売を開始した『アイアンハンガーパイプ』でした。

あえて見せたいかっこ良さの「アイアンハンガーパイプ」。

次なるハンガーパイプ商品に着手したい

喜ばしいことに、サイズオーダーできる「アイアンハンガーパイプ」の人気はすさまじく、入手困難ということでお客様にはご迷惑をかけていました。

絵になるハンガーパイプを、もっと増やしたい。アイアンハンガーパイプはエルボやフランジのゴツさがかっこいい商品なので、次はもう少しすっきりした印象の商品をつくりたいな、と私は思っていました。

こんな優しいインテリアが好きな人に似合うハンガーパイプをつくりたかった。

素材を変えて、木製か?
真鍮は柔らかいし、高価になりすぎるし、水栓とか他の洗面金物と合わないかも。

そんなことを漠然と思っていたある日、他の商品の件で打ち合わせに来てくれたメーカーさんより「工場に、こんなのを作れる型があって」と提案をいただきました。

正直あんまりピンと来てなかった、試作初期モデル

見せてもらったサンプル品は、無塗装で工業感満載な見た目だったため、最初はあんまりピンと来ませんでした。

「インダストリアルだとアイアンハンガーパイプと被るな」と。

無塗装だとこんなにインダストリアルな印象。

ただ、ローレットネジで下から取り付ける方法は新鮮だし、連結できるというところが興味深い。あとで調べてみたら、直角に連結できる商品というのは他にありませんでした。

「細いし、塗装したら印象変わるかも……」

調べて気づいた、室内干しのよくある配置パターン

プロダクトの試作づくりと平行しながら、いろんな室内干しスペース、家事室を調べていきました。すると、もともと家事動線マニアな私は、あることに違和感を感じたのです。

たくさん事例を見て気づいたのは、II型配置(ニガタハイチ)が多いこと。

なかなか広いスペースを確保できない部屋に、なるべくたくさん洗濯物を掛けたいという要望が多いことは容易に想像ができます。確かに干せる量から考えると、こうなることも納得です。

しかし自宅でハンガーパイプを使っていた私は、「ちょっと使いづらいかも……」と思っていました。

II型のデメリット

狭いスペースのII型のデメリットは「パイプの間に歩くスペースがないこと」です。

干す時、洗濯機から取り出す順番はバラバラですよね。パパ・ママ・こどもの服、それぞれ干す位置をまとめると、乾いたあとにクローゼットへ片付けるのが楽なので、私はそうしています。洗濯ものの乾きは素材や大きさによってさまざまで、乾いたものから片付けたいこともよくあります。

II型だと、上記のような使い方だと、どうしても自分と服が干渉します。
パイプとパイプの間が歩けないとイライラしそうだな〜と、私は思ってしまったのです。

そうした事例を見るたびに、L字配置ができるメリットがどんどん魅力的に見えてきました。

L字配置の動線のほうが、ストレスを感じずに洗濯物を干せて片付けができる。

拡張の可能性

連結拡張ができるということは、部屋の形状に合わせてレイアウトができる。サンルームなど、広めのスペースがあればコの字配置だって可能です。他の商品には無い、新たな可能性を感じました。

あえてのライトグレー

最初は、やっぱり白かなと思っていました。
清潔感があって、洗面所に馴染む色。他社でも室内物干しバーと言ったら、白か黒なんですよね。

ただし突っ張り棒や小物収納など、100円均一系の白い商品を見て、逆に生活用品感がでてチープな印象になったら嫌だなとも思っていました。

ショールームで、他のアイテムとのバランスなどを見比べ、最終的に辿り着いたのが白系の背景にも、色がついた背景にも似合いそうな「ライトグレー」。

日塗工で「N75」を色指定。

後日、メーカーさんが塗装したサンプルを持ってきてくれました。

ライトグレーが、工業的な無骨さを中和してニュートラルな雰囲気になっていました。つやを抑えたのも上品な印象で、思った以上の出来栄えに惚れ惚れ。

留め方はどうする?

この時メーカーさんが提案してくれたのは「魅せるハンガーパイプよりも洗面空間の邪魔をしない商品にしたい」という私の意見を反映して、台座なしの1点吊り。

その時のサンプル。根元もすっきりで「おぉ〜しゅっとして、かっこいい〜」と見た瞬間は大盛り上がり。特にアトリエ系の設計事務所出身のスタッフには大好評でした。

しかし、予想はしていたのですが……取り付けてみたら、ぐらっぐら。濡れた洗濯物をびっしり掛けることを想定すると強度が不安すぎます。

そうして儚い夢から覚めた私たちは、安全性を考えて2点止めにすることにしました。

取付けはシンプルに木ビスで止めるだけ。丸座は極力存在感のないよう厚さ3mmと薄くしつつも、直径は「このくらいの穴位置なら真っ直ぐビスが打てる」という大きさで決めました。

当初、天井に取りつける丸座と吊りパイプは別パーツだったのを一体化。右が最終形でビス頭も本体と同色に。

当初は「丸座」と「吊りパイプ」は別パーツでしたが、固定ネジが取り付けづらく「落として見つからなくなりそうだな」と思ったことから、丸座とパイプを一体化。取り付け後の見た目や使い勝手には問題がなくても、現場が困らないように考慮しました。

付属させるビスも、市販のシルバー色では塗装した本体から浮いて見えるため、最終的にビス頭を塗装して出荷することに。

会社での取付確認。写真は改善後の仕様で一部無塗装品。糸を張ってたわみ具合のチェックなどを行っているところ。

東京の下町で1本1本職人の手によって溶接やプレスを行っています。

溶接している様子。

あえての既成サイズ

簡単に注文できて、簡単に取付ができることを考えて、サイズは既成にしました。

当初はサイズオーダーに対応できるようにしたいと考えていましたが、鉄工所で加工した後に塗装工場へ持ち込むとなると納期が長くなってしまいます。塗装後にサイズを変えられないかとあれこれ考えてみたものの、ジョイント式にすると差し込み部分が床と平行にならなかったり、隙間がでてしまったりと綺麗に納まりませんでした。

実際に打ち合わせで使った簡単なイラスト。接合部とパイプを連結する案。

この商品に限ったことではありませんが、実際に取り付けてみてから気付かされることがたくさんあります。結果的に、繋ぎ目のない既成サイズにして、納期1週間で届くほうが、メリットが大きいと判断しました。

既成サイズにするにあたり、いろんな間取りに落とし込んで、どんなシチュエーションでどのサイズが使いやすそうか検証をしてバリエーションを決めました。

本当は自分のためにつくったようなもの

紆余曲折ありましたが、理想通りに出来上がったランドリーハンガーパイプ。いちばん最初に導入したのは、実は私の新居です。本当は自分のためにつくったようなもの、と言ってしまうと身勝手に聞こえるかと思いますが、toolboxのオリジナル商品はみんな、「スタッフが本当に使いたいと思うモノ」を目指して開発しています。

ランドリーパイプは、家が出来上がってきて一番最後に購入するアイテムですが、動線や使い勝手を考えると、取り付ける位置や長さは間取りと一緒に計画をしてください。

使い手目線で開発したtoolbox的解釈の物干し便利グッズ。みなさん思い思いのカタチで使ってもらえたらうれしいです。

商品企画担当

竹沢 愛美

インテリアショップ、カーテンメーカー、インテリアECサイトの経験を経て、 2013年よりtoolboxにて商品企画を行う。

ガーゼカーテン』『帆布カーテン』をはじめとしたカーテン商品、『華奢カーテンレール』の商品開発を担当する。

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