何度訪れても心地よい、宇都宮家の暮らしを深堀り
軽やかな薄い天板のみのキッチンと洗面台が並ぶ壁面、それらをつなぐくすんだブルーの『古窯70角タイル』。2022年8月現在、toolboxの「spaces つくる」のコーナートップを飾る動画の舞台となっている宇都宮家。
2018年にパッケージリノベーションサービス「ASSY」で94.7㎡の団地の一室をリノベーション。住み始めた頃の様子をコラム「自分で答えを出すリノベーションパッケージ」や2019年版のカタログでご紹介。その印象的な空間は、toolboxメンバーはじめ、多くの方に刺激を与えてくれました。
宇都宮さんの家は、なぜ良く見えるんだろう?たびたびお伺いしているけれど、毎度居心地が良く感じるのはなぜなんだろう。
躯体現しの表情、ラワンや塗装の白壁といった素材の組み合わせが、宇都宮家のベースとなってはいるのですが……今回、ちょっと突っ込んだお話を聞く中で、会話の節々から見えてきたのは、宇都宮家の「暮らし方」というか、「暮らしに対するスタンス」。
「美意識」と聞くと、玄関に季節の花を飾るとか、そういった「日常+αなハレへの意識」という概念があるかもしれませんが、日常のあらゆる場面で「美しさをとる」というスタンスがすごく印象的だったのです。
夫の雄輝(ゆうき)さん、妻の美紀(みき)さんに、住み始めて4年目となるこの家の、いまのありよう、暮らし方についてお話を聞いてきました。
露出配線していい壁とダメな壁の自分ルール。コンセント設置にもこだわりが
定額制パッケージリノベーション「ASSY」は、空間の印象を決める壁・天井を、部屋ごとに躯体現し、ラワン、白塗装の3種の素材の中から選択できます。
宇都宮邸の場合、印象的なブルーのタイルはオプション対応ですが、それ以外の空間は、「ASSY」ルールに乗っ取り、床壁天井の素材が決められています。当然ながら、躯体現しの部分は電気設備の配線も露出になるのですが、コンセントの設置にも宇都宮家のこだわりがありました。
リビングとキッチンの間にある、壁構造ゆえに壊せなかったゲートのような開口部のある壁。躯体現しのワイルドな表情に露出の配管とトグルスイッチが印象的なシーンをつくりだしています。雄輝さんもお気に入りだという景色です。
実はこのゲートのような壁は、リビング側とキッチン側で壁の両面の仕上げを変えているんです。
「断熱材を入れるところは、物理的に躯体現しに出来ないなどの制限もありましたが、どこを躯体現しにするか、白壁にするかの棲み分けは、感覚的に判断していた記憶がありますね」
キッチン側からみた先ほどのゲートの壁は、白く塗装してすっきりした印象に。窓からの光がさわやかに反射して明るい印象です。
キッチン側の空間は、奥の窓際に丸テーブルを置き、手前のステンレステーブルは作業台として利用しています。
「キッチンは海外のインテリア本に出てくる、部屋の延長のような場所にしたかったんです。わたしは、キッチン家電が好きではなくて。スタイリッシュなキッチン家電も増えてますけど、それらを並べると、キッチンの雰囲気が家電にもっていかれてしまうなと……電子レンジは元々使わない生活でしたし、炊飯器もこの家にくる時に断捨離しちゃいました」と美紀さん。
「!!!」(思わぬ回答に自分の目が見開かれた瞬間を、いまでも覚えています)
ステンレスの作業台の下には、唯一ある家電のオーブンが置かれています。毎日フル稼働で、パンを焼いたり、たまにグラタンやお菓子を作ったりと活躍中。使うたびにコンセントを抜き差ししているそう。
そこでふと、作業台の後ろの白い壁にコンセントがないことに気づきました。私なら、近くの壁に利便性重視でコンセントを用意しておきたくなるなぁと思い、そのことをふとつぶやくと
「この躯体壁にコンセントを付けようと思うと、壁に露出配管を這わせることになる。キレイに塗装した白い壁に露出配管というのは、自分的にありえなかったんですよね」と雄輝さん。
「!!!」(2度目の……)
現在、小学校2年生になる男の子がいる宇都宮家。
私にも同じ歳の子どもがいるのですが、働きながらの子育ては大変です。なので私は、楽できるところは積極的に機械に頼って楽をしたいと思っているので、「ひと手間が増えても美しさをとる」という宇都宮さん夫妻の発想には驚きました。
この夫婦らしくて、すごく興味深い!と出だしから前のめりに。
雰囲気がもっていかれるからと使わないことにした家電たちは、見た目も心地よい代替品をチョイス。ごはんを土鍋で炊いて、おひつに移したり。冷めたものは、せいろで蒸したり。
「元々いわゆる自然派思考が強いってことではないのですが、土鍋とかの道具を使ってみたらその生活も心地よく、キッチンに炊飯器が置いてあるより、土鍋がある風景の方がしっくりくる。そんな風にちょっとずつ、使うアイテムもシフトしてきたって感じですかね」と美紀さん。
家族が使うキッチンは、急にルールが変わっても戸惑うもの。夫婦お2人とも料理をする宇都宮家は、いつも話し合いながら、新しい習慣を取り入れていったそうです。
「とりあえず」で収納はつくらない。余白を残したキッチンのその後
住み始めた当初、「今後収納が欲しくなったら、お気に入りを探し出すか作るかしてアレンジしていくつもり」と宇都宮さんが語っていたキッチン。今回、あのキッチン下の余白の部分がどうなっているのかも、自称「オープンなキッチンの収納ウォッチャー」な私としては、注目ポイントでした。
この4年間の変化を写真でプレイバック。
Pinterestより、取材時住み始めて1年後のtokosieさん取材時の様子。縦4段のキャビネットは上2段は引き出しをなくしてオープンに。その隣に、美紀さんのリクエストで、2×2段の棚を作り足し、上にオーブンを置いていました。
DIYした棚は、進化を遂げ第3形態に。横長2段の上に、コンロに立ちながらオイルやザルをちょい取り出来るゾーンが出来ていました。
デザインは当初から変わらないのですが、使いながら引き出しを取り除いてオープン棚にしてみたり、横に2×2段の棚を増築をしてみたものの、「見た目のバランスが悪い」と、結局全部つくり直したのだとか。さすがなこだわりです。
右下の引き出しは、最初につくったものをそのまま使い回しているので一番色が濃くなっていました。そんな変化を写真で見比べるのも楽しいですね。
リノベーション時に造作してもらったお鍋などが並ぶキッチン左脇のオープン棚。その下に、浅い箱が増えていたのも私は見逃しませんでした。
工務店さんが作ったのと同じラワン合板で自作したキャスター付きの箱。作り足しても、同材で揃えられるのも、合板の魅力でもあります。
こうして、実際に使いながら、自分たちの暮らし、使い勝手に合わせて、棚の位置などを変化させていけるのも、余白を持たせたオープンキッチンの魅力の一つですね。
「小物たちを飾る"壁"」がもっとあればよかった リビング本棚
毎回取材に訪れるたびに、「あ!これかわいい」と、置いてある小物やオブジェたちに目が留まり、それぞれのエピソードを聞いていくだけで、あっという間に時間が過ぎていく宇都宮家。夫婦ともに、週末は家具屋さんやアンティークショップ巡りが好きということで、どんどんお気に入りのモノが増えていきます。
住み始めた頃、リビングの白壁の一角に自作した本棚も、お子さんの成長と小物たちの増加とともに、成長を遂げていました。
バルコニーに繋がる2ヶ所の大きな掃き出し窓。すごく開放的で、気持ちが良い景色が広がっているのですが、雄輝さんとしてはここに不満が……。
「元々、リビングは窓をはさんで2部屋に別れていたところ、壁を取り払って広い一つの空間にしたんです。真ん中に大きなダイニングテーブルを置くというのがこだわりだったんで。ただ、そのせいで、やっぱり壁が足りなくて(笑)掃き出し窓のどちらかが、せめて腰窓だったら!そこの前にもモノを置けたのになと思いますね」
飾る壁がもっと欲しくなる問題は、モノ好きなみなさんに共通するあるあるのお悩み。宇都宮家がどんな解決策を見いだしていくのか、今後の変化も楽しみです。
変化を受け止める床と壁は、メンテナンスを楽しみながら
リビングの自作本棚の後ろの白壁は、躯体壁を白く塗装。逆側の白壁が唯一、ピンなど刺して気軽にモノを取り付け付けられる場所になっています。ここにも、4年前にはなかったお気に入りのモノたちが、飾られていました。
「白壁部分は下地がボードなので、全面合板の下地にしておいたら、もっと気軽にいろいろ打てたのにと、そこだけちょっと後悔してますね。どこに何を飾るかも、思考錯誤しながら、ピンを打ち変えていっているので、よく見ると細かい穴がところどころに。ここは年1で、全面塗り替えてメンテナンスしています」
「床の『ラスオークフローリング』は、無塗装品に『オスモカラー クリアのツヤ消し』で仕上げたので、ここも年1で塗り直しています。ウレタンクリア仕上げのものって、ツルっとした質感が嫌だと思ってたんですが、toolboxのウレタンクリア仕上げは見た目がオイル仕上げとほぼ変わらなかったから、そっちでもよかったかなとはひそかに思ってます(苦笑)。でもまぁ、メンテナンスするのも楽しいですよ」と勇輝さんは笑顔で語ってくれました。
手間の集積が居心地をつくりだす
昔着ていた古着などを縫い合わせてキルティングのベッドカバーをつくるような文化がありますが、暮らしに合わせて手を動かし、使える材を使い回し、壊れたお気に入りも用途を変えて愛で続ける。そんなことが日常的に行われている宇都宮家。
使う度に、いちいちコンセントを抜き差しするのは、手間がかかります。
キッチン収納も、最初から大きいものを作った方が手間が減りますし、本棚も然り。
キレイな壁も、味のある床も、手間を惜しまず、年イチで向き合っているから、いい状態がキープ出来る。
その手間の集積が、この家の「居心地のよさの正体」なんだなと、取材を終えてしみじみ感じました。
「”自分たちの暮らし“が主役になる風景をつくる」
これは、2019年のtoolboxカタログの<妄想を実現した人たちの家づくり>のコーナーでこの家を紹介した時につけた宇都宮家のタイトルなんですが、その時の将来への予感のままに、心地よいありようを模索しつづけているのがすごく印象的でした。
すっきりしたオープンなキッチン。ラワン素材とのつきあい方。写真を見て、ただかっこいいとその姿カタチをマネするのは簡単ですが、それが日常的に使われている様子も含め、どこを切り取っても絵になるのは、宇都宮家の日々の生活、家との向き合い方があってこそ。
空間、視覚的な強い美意識と生活スタイル、自分は何をどのバランスでとるのが心地よいと思うのか。やはり、写真だけでは伝わらないこだわり、生活の在り方含め、妄想を深め、自分の理想を突き詰めなければと、深く考えさせられる取材となりました。ありがとうございました。
ASSYでリノベーションした他の家についてもコラムで紹介しています。是非のぞいてみてください。
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