施主が自分で建材を購入して、施工会社に渡して取り付けてもらう「施主支給」。施工会社が提案する建材の枠に縛られず、自分が気に入った建材を使うことができたり、自分でお得な建材を見つけることもできる方法として興味を持つ方が多いやり方です。また、施主が使いたいと思った建材を採用する方法には、建材を指定して施工会社に仕入れてもらう「施主指定」という方法もあります。
施主支給を取り入れて家づくりをした人たちは、どうしてその方法を選んだのでしょう? 経験者たちに、なぜ施主支給をしたのか、どのように施主支給を進めたのか、やってみての感想を伺いました。
Case:「自分で選んだもの」で思い描いた家をつくる
toolboxスタッフ・竹沢邸(新築戸建て・注文住宅)
設計・施工:NASU CLUB
ーどんなものを施主支給したのですか?
仕上げや設備機器、パーツのほとんどを自分たちで選びました。施主支給したものは、フローリング、洗面カウンターや洗面水栓、ハンガーパイプ、キッチンのパネルやレンジフード、階段の手摺、照明器具。扉の把手や棚受け、ドアハンドル、スイッチ、直付け照明のいくつかはこちらで指定して、施工会社経由で手配してもらいました。
ーどうして施主支給をしたのですか?
toolboxの商品を使いたいというのが、まず最初にあったんですね。販売している立場として、実際に使ってみて使用感や経年変化を確認したかったんです。toolboxはワンプライス販売なので、プロが買っても施主が買っても値段が変わらないし、買うところから自分でやってみようと思いました。
家づくりを依頼したNASU CLUBは、那須エリアで別荘やお店を多く手がけていて、窓や建具の収まり、巾木の細さなど、施主があまり指示しないような細かいところのデザインまで気が利いていたことと、施主が自分で建材を選ぶことに寛容で、施主支給にも慣れていたことが依頼を決めた理由でした。
ー施主支給するものは、どうやって決めていったのですか?
toolboxのものは基本的に施主支給しています。それ以外の「これを使いたい」という建材については、作家さんが作った一点ものなど、私が買った方がスムーズなものは施主支給、どちらで買っても値段が変わらないものや、施工会社経由で買うほうが安心なものは施主指定、と判断していきました。施工会社経由で手配したものは施工会社の保証範囲なので、建材にトラブルがあった時は施工会社が対応してくれるからです。NASU CLUBは大手ではない建材メーカーやブランドにも詳しかったので、使いたいものがNASU CLUBも知っているものだったら、施主指定にしました。
ー施主支給品の発注や受け取り、現場への支給はどのように進めましたか?
電話だと会話の履歴が残せないし、メールだとどのメールに何が書いてあるかわからなくなりがちなので、スプレッドシートをつくって施工会社と共有して、細かい仕様をどうするかや、どの材をいつまでに現場に支給すればいいのかといった情報をまとめていきました。
建材の受け取りと現場への支給は、小物は自宅で保管して、タイミングが来たら現場に持っていきました。フローリングや洗面カウンターなど大きいものは、施工会社に相談して現場直送にさせてもらって、受け取りと検品をお願いしました。
ー施主支給品にトラブルが起きた場合については、どう考えていましたか?
「施主支給品は施工会社の保証の範囲外になる」とは説明を受けました。私は建材や家づくりについての知識があるので、もし何か不具合があっても自分で対処することができますが、不安がある方は施主指定にして施工会社に手配してもらったほうが安心だと思います。
我が家の場合、目立ったトラブルと言えば、間違って商品が多く届いたこと。返品の手間は生まれたけど、商品が足りなかったり、違う商品が届いたのではなくてほっとしました。
ー大変だったのはどんなことですか?
発注管理ですね。仕事と家のことをしながら、プランを決めたり仕上げや設備機器を決めていくだけでも大変なのに、工事スケジュールに合わせて発注と受け取りの手配をしていくのは本当に大変でした。あと、工事が遅れた時の調整にも苦労しました。支給品を現場に届けるのが早くなってもいけないので、発注や配達日を遅らせるなどの対応をしていきました。大まかな工事スケジュールは最初に提示されますが、あくまで予定。現場の状況によって変動があるので、施工会社と密に連絡をとって状況確認をするのが大事だと思いました。
ー施主支給に取り組んでみて、どうでしたか?
自分で選んだ素材や設備で、イメージしていた通りの空間をつくることができて、満足しています。また、施主支給や施主指定をした箇所について、施工会社は細部の納まりや関連部材などを細かく確認してくれたので、より納得度の高い家づくりができました。
施主支給に取り組んでみて思ったのは、「施主支給じゃないと叶えられない」なら無理をしてでも頑張ったほうがいいけれど、施主指定でも叶うものなら、施工会社に手配してもらったほうがいいということ。特に、フローリングのような使用面積の広いものや、キッチンなど金額の大きいものは、もし何か不具合があってやり直すことになった時、施主支給だと実費が発生する可能性があります。
我が家では、施工会社が提案してくれたものよりもtoolboxのフローリングの方が安かったことと、何かあっても自分で対処する気持ちがあったので施主支給にしたけれど、施工会社経由で手配するものは保証もしてもらえるから、その点も考えて施主支給にするか施主指定にするか、選択できたらいいんじゃないかなと思いますね。
※竹沢邸の家づくりは、こちらの連載コラムでも詳細をご覧いただけます。
Case:「予算のために諦める」をしないために
M邸(フルオーダーマンションリノベーション)
リノベーションコーディネート・設計:EcoDeco
ーどんなものを施主支給したのですか?
キッチン水栓、食洗機、レンジフード、洗面の設備機器一式に、便器やハンガーパイプ、洗濯機用水栓などの細かいものまで、20点近くを施主支給しました。床のリノリウムやフローリング、壁のタイルは、建材を指定をして施工会社経由で手配してもらいました。
ーどうして施主支給をしたのですか?
各所の仕上げ材や使用する設備機器、パーツは、こちらの希望イメージを伝えて、設計担当の方から提案してもらいながら一緒に決めていきました。そうして施工会社に工事費の見積もりをお願いしたら、予算を100万円ほどオーバーしていたんです。その時に、我が家のリノベーションのコーディネートをしてくれたEcoDecoの担当者から、「施主支給でコストダウンする方法もありますよ」と提案されて。
予算のために何かを諦めるのか、諦めないために施主支給を頑張るのか。大変だとは言われましたが、できることはやってみようと思って、施主支給することにしました。EcoDecoが紹介してくれた施工会社も、施主支給することを受け入れてくれました。
ー施主支給するものは、どうやって決めていったのですか?
施工会社の見積もりを確認しながら、同じ建材をより安く買えるところはないかネットで探していって、自分で買った方が安くなるものは施主支給にしました。ガスコンロなど施工会社経由で買った方が安いものもありましたし、どちらが買ってもあまり値段が変わらないものは、手間のことも考えて施工会社経由にしました。
我が家を工事してくれた施工会社の見積書には、材料費と取り付けの施工費が記載されていました。施工費は施主支給でも施工会社経由でも変わらないけど、材料費は安くできる可能性があるというのがわかりやすかったですね。
ー施主支給品の発注や受け取り、現場への支給はどのように進めましたか?
どの建材をどこのネットショップで買うのか、値段はいくらなのか、現場にいつ支給しなくてはならないのかといった情報をエクセルで表にまとめて、作業を進めていきました。
受け取りと検品については、我が家の場合は基本的に現場に支給品を送って、施工会社の職人さんにお願いしていました。配達の時間指定ができないものもあって、そういう時は施工会社と配送業者の双方と連絡を取り合ってタイミングを調整しました。小さいものは自宅で受け取って現場に届けることもありました。
ー施主支給品にトラブルが起きた場合については、どう考えていましたか?
契約時に、施主支給分については施工会社の保証範囲外になると説明を受けました。我が家の場合は工事中も、入居後一年以上経った現在も、特にトラブルは起きていませんが、施主支給品を決める時にメーカー保証は確認するようにしました。食洗機はドイツのボッシュというメーカーのものなんですが、国内に正規代理店があることと5年保証がついていたので、万が一の時はメーカーに相談できると思い、施主支給することを決めました。
ー大変だったのはどんなことですか?
EcoDecoの担当者からは、「商品を間違えない」ことと「指定された日までに必ず現場に支給すること」について念を押されました。幸い注文間違いはしなかったけれど、商品ごとに届くまでの日数が違うので、支給タイミングから逆算して発注するのは大変でした。「今日は何を発注しなきゃいけないんだっけ」と毎日エクセルをチェックしていました。もはや仕事でしたね。
便器は、納品が遅れたんですよ。当時はコロナ禍で、いろんな建材の在庫がなくなったり納期が遅れている時期だったんです。ギリギリ間に合いましたが、トイレがないと入居しても生活できないので、ヒヤヒヤしました。ほかに、食洗機や洗面所の壁付け照明もメーカー都合で工期に間に合わなかったのですが、こちらはひとまずなくても生活できるものだったので、施工会社に相談して入居後に取り付けてもらいました。メジャーではないネットショップで購入する際も、本当に届くか不安でしたね。ちゃんと届いてほっとしましたけど。
ー施主支給に取り組んでみて、どうでしたか?
僕たちは施主支給を取り入れたり、EcoDecoからの減額案を採用することで、初回見積りから100万ほどコストダウンでき、予算内に収めることができました。食洗機や便器など、元々の値段が高いものを施主支給で安く仕入れられたことが大きかったです。あとは塵も積もればで、その額まで辿り着くことができました。
お得なものを探す中で、より自分のイメージに合うものを見つけられたのも良かったですね。ワークスペースのカーテンレールは露出配管に似合うものを探していて、見つけたのは工場向けのカーテンレール。住宅用のものより素っ気ないデザインなんです。自分で探したからこそ、値段にも内容にも納得のいくもの選びができました。
※M邸の詳細は、imageboxでもご覧いただけます。
Case:こだわりの先に行き着いた材工セットの施主支給
toolboxスタッフ・大迫邸(新築戸建て・注文住宅)
設計・施工:大手ハウスメーカー(建築中)
ーどんなものを施主支給したのですか?
今まさに家づくり中なのですが、施主支給や施主指定をする箇所は決まりました。タイルと壁紙は施主指定して、洗面水栓と照明器具、寝室に貼る板壁材、キッチンと洗面台を施主支給します。キッチンはデンマークのキッチンメーカーが販売している面材を個人輸入して、国内のオーダー家具屋にキッチンを作ってもらうんです。洗面台もオリジナル造作で、材料も工事も施主支給することにしました。
ーどうして施主支給をしたのですか?
当初から施主支給にこだわっていたわけではありませんでした。Ⅱ型キッチンにしたくて国内メーカーのシステムキッチンを探したんですが、自分のイメージに合うものがなかったんです。それで色々なキッチンを調べていく中で、デンマークのキッチンメーカーを見つけました。面材だけの購入もできることを知り、仕事柄、造作家具屋のツテもあったので、面材を取り寄せて造作でつくろう!と思い至りました。洗面台も、下部にミーレの洗濯機を組み込んだ形にしたくて。
ハウスメーカーにも造作した場合の見積もりをしてもらったのですが、ハウスメーカーを挟んで家具屋にお願いする分、私が直に家具屋にお願いする場合よりも高かったんです。なので、造作工事ごと施主支給することにしました。
我が家は土地が決まっている状態で家づくりを考え始めたので、自ずと選択肢は注文住宅になりました。設計事務所への依頼も考えましたが、好みに合う設計事務所が近場で見つからず、ハウスメーカーとの家づくりを選びました。ハウスメーカーは施主支給をあまり受け入れないと聞いていたし、現在一緒に家づくりをしている会社にも当初は断られていましたが、粘り強く交渉したら、ハウスメーカーの保証範囲に含まないという条件で了承してくれました。
ー施主支給するものは、どうやって決めていったのですか?
キッチンや洗面台以外のものは、使いたいものを施主支給できるのか、施主指定なら採用できるのか、相談しました。標準仕様のラインナップ以外のものでも、普段から取引のある建材メーカーのものであれば施主指定で採用できると言われたので、タイルと壁紙は施主指定にしました。施主支給する洗面水栓と照明器具、板壁材はネットショップで売っているもので、ハウスメーカー経由で手配すると手間賃がかかって自分で買うよりも高くなるので、施主支給にさせてもらいました。本当はドアも使いたいものがあったのですが、こちらは壁の構造に関わってくるので採用できないと言われて、諦めました。
ー施主支給品の発注や受け取り、現場への支給はどのように進めましたか?
キッチンと洗面台の造作については、水まわりでハウスメーカーの工事範囲と絡むこともあり、「この時期に工事をしてください」という指示をもらっています。ハウスメーカー側で取り付けてもらう施主支給品については、「施工に関する資料をください」と言われました。ハウスメーカーの家づくりでは、通常は標準仕様の建材を使うから、標準仕様外のものを扱う場合は取り付け説明書などをあらかじめ確認して、工事段取りをするのだと思います。
ー施主支給品にトラブルが起きた場合については、どう考えていましたか?
施主支給する箇所はハウスメーカーの保証範囲に含まないという条件で契約しましたが、じゃあそのほかのトラブル全てにハウスメーカーが無償で対応してくれるのかというと、そういうわけでもないんですよね。会社によって保証期間も内容も違うとは思いますが、原因によっては建材のメーカーが保証することも、施主が費用負担して直すこともあるでしょう。であれば、自分で責任を持つのも一緒だと思ったんです。ただ、ハウスメーカー住宅の建物性能には信頼を置いていたので、希望した建材を採用できない理由が「構造や性能に関わるから」だった時は、無理を通さず受け入れました。
ー大変だったのはどんなことですか?
キッチン面材の個人輸入は、注文してから届くまでだけでも7ヶ月かかりました。我が家は敷地の整地から始める必要があって、着工まで時間があったので良かったのですが、輸入にはただでさえ時間がかかる上に世界情勢の影響も受けやすいので、無事に届いたことにひとまず安心しています。輸入関係の仕事をしている家族のサポートがなかったら、一人でやるのは難しかったかもしれません。
ー施主支給に取り組んでみて、どうでしたか?
正直、諦めたことも多かったのですが、ハウスメーカーの担当者は、施主支給を受け入れにくい理由や、どうしてもやりたいならこうしてくださいという説明を丁寧にしてくれたので、できないことへの納得もしやすかったです。ハウスメーカーの家づくりは何かひとつが標準仕様から変わるだけでも、調整がとても大変なのだと感じました。建物性能や保証体制など、ハウスメーカー住宅ならではのメリットも尊重したいなら、施主指定でできることを探った方がいいと思います。
施主支給をする「目的」から考えよう
自分の家なのだから、使う建材はもちろん、その手に入れ方も、本来は「自分で選ぶ」自由があります。大切なのは、その「自由」に「責任」を持つこと。ご紹介したケースの施主たちは、支給品が施工会社の保証範囲外になることや工事スケジュールに合わせた手配について、自己責任であることを受け入れて、主体的に家づくりに取り組んでいました。
また、施主支給に取り組む際にまず考えたいのは、その「目的」。コストダウンが目的なら施主支給をする以外にプランで工夫をしたり、希望の建材を使うことが目的なら、「施主指定」にして施工会社で手配できる場合もあります。目的を明確にすることで、施工会社にどのように相談するのかも変わってきます。
そこで気になってくるのは、家づくりの依頼先となる施工会社の対応。ご紹介したケースでも「基本的には施主支給を受け入れていない」会社が出てきましたが、実は施主支給の要望にどこまで対応するかは、施工会社によって異なります。Vol.2では、注文住宅やリノベーションの設計・施工を行っているプロたちに、各社の施主支給へのスタンスとその理由を聞いてみました。
那須倶楽部株式会社|NASU CLUB
リゾート住宅の豊富な経験をもとにした、完全オーダーメイド住宅を手がける設計・施工会社。ひとりひとり異なるくらしへの想いをそっとすくい取り、日常に美しく溶け込ませるすまいづくりを行なっています。宇都宮と那須に拠点を置いています。
EcoDeco(株式会社Style&Deco)/ エコデコ
中古マンションの仲介から資金計画、リノベーションにまつわるあらることをトータルにサポートすることを得意とした会社です。
コーディネーターは、不動産探しから設計まで一貫して担当できる不動産と設計のプロ。