トークセッションは、大阪ショールームが入居する西田ビルB1階部分にある「ハイパー縁側」で行いました。左からtoolbox石田、中津ブルワリー鈴木さん。

大阪ショールームオープン記念トークセッションでは、ビールのコンセプトづくり、仕込み、ラベルデザインまでトータルにチャレンジしたtoolboxディレクター石田勇介が、中津ブルワリー醸造責任者の鈴木悟氏をゲストに迎え、オリジナルビールへの思いや、体験したビール醸造の裏側を語ります。

大阪ショールームオープンを記念してつくった“toolboxオリジナルビール”。“内装建材のWEBショップ”であるtoolboxが、なぜビールづくりに挑戦したのか。きっかけは、ショールームと同じ西田ビルに入居する「中津ブルワリー」との出会いにありました。

toolboxオリジナルビールは、大阪ショールームオープニングイベント限定で販売しました!

登壇者プロフィール

鈴木悟/1992年、大阪生まれ。2014年、大学卒業後、都市緑化を手がける東邦レオ(株)に入社し、建設部門で営業や工事を経験。2018年、ビールの原料に使用されるホップの栽培を通じたコミュニティ形成事業を一般社団法人と共同立上げ。2020年、奈良県に自社ホップファーム開設と大阪市北区中津に醸造所「中津ブルワリー」をオープン。現在はホップの栽培支援、クラフトビール製造を軸に全国のホップコミュニティの輪を広げている。

石田勇介/1981年福島生まれ。映像ディレクター、アパレルブランドを経て、2015年toolboxに入社。リノベーションや新築戸建の企画・内装デザインをはじめ、東京・大阪ショールームのディレクションも務めるtoolboxブランディングディレクター。飲むことから始めたクラフトビールは、そのカルチャーの深度にすっかり溺れている。

駐車場2台分の小さなブルワリー「中津ブルワリー」

石田

ゲストは中津ブルワリーの鈴木さんです。よろしくお願いします。

まさに中津ブルワリーさんの隣で話しているんですが、今回toolbox大阪ショールームのオープンに合わせてオリジナルビールをつくらせていただきました。ビールをつくるに至った経緯や工程、クラフトビールカルチャーとtoolboxの共通点なんかもお話できたらと思っています。

toolbox大阪ショールームは、ここ西田ビルの3階にオープンさせていただいたんですけど、最初に来た時に地下にビール屋さんがあると知ってすごく喜んだのを覚えております。

鈴木さん

中津ブルワリーは、2020年10月にオープンして3年目を迎えたマイクロブルワリーです。

石田

ここは元駐車場なんですよね?

鈴木さん

西田ビルは築58年のビルで、地下1階がまさに駐車場でした。車2台分をリノベーションしてビール工場にしました。

石田

ビールって車2台分のスペースでつくれるんだと、正直驚きました。

トークセッション開催場所も地下1階。後ろのタイル壁の裏は駐車場になっています。

鈴木さん

そうですよね。できちゃいましたね。実際スタートした時は、普通に外壁がある状態だったんで、まず西田ビルの社長さんに「この壁を抜くことは可能なのか」というところからスタートして。

石田

「何をされるんですか!」みたいな感じなんじゃないですか。

鈴木さん

そうですね。会社自体は別にビール専門にやってるわけでもなかったですし。

「東邦レオ」という、街づくりやビルなどの利活用をしている会社で、西田ビルさんがもっと魅力ある場所になるためのお手伝いをさせていただいていて、その一環としてビールづくりをしています。

トークセッション開催場所の隣が中津ブルワリー。出入り口となる部分の壁を抜きました。仕込みをしている日はビールの購入も可能。このイベントの日もせっせと仕込みが行われていました。

石田

鈴木さんは元からビール醸造をしていたわけではないんですよね?

鈴木さん

そうですね。中津ブルワリーを立ち上げるまでは、植栽とか屋上緑化とかの工事担当で、建設現場でヘルメットかぶって職人さんと植物を植えたりしていたんです。

2017年から、梅田の開発前のエリアを暫定利用した「ウメキタホッププロジェクト」という街中でホップを栽培する市民活動があって。でも開発が進むにつれて、プロジェクトが終わり、コミュニティもなくなってしまうからどうにか続けたい、とお問合せいただいたのがきっかけで、お酒好きな僕に声がかかり、新規事業を立ち上げました。

600本からできるオーダーメイドのビールづくり

鈴木さん

そんな背景で立ち上がっているんで、中津ブルワリーは、自分たちが好きなビールをつくりたいわけじゃないんですよね。クライアントさんがビールで表現したいこと、使いたい特産品などのオーダーを専門で受けているブルワリーです。

タンク1つ(約600本分)からオーダーができるので、街おこしや会社の周年、趣味サークルやカップルの記念など、小規模でつくりたいオーダーが多いです。会社のコーポレートカラーを表現したいとか、そういったコンセプトの部分からご相談いただいたり。toolboxさんも、大阪ショールームオープンに合わせて、ということで。

立ち上げから3年ぐらい経っていますが、自社ビールは1割もいかないくらいです。

石田

そんなことができるブルワリーが大阪ショールームの真下にあったっていうのがきっかけでね。

ちなみに自社でつくられるビールは鈴木さんの色が出てるんですか?

鈴木さん

つくりたい時はありますよ。僕は元々モノづくりが好きで、高校・大学も実は建築系の学科でした。デザインとかビールのレシピをつくったりとか、お客さんとの会話からどんなことを引き出して設計しようかと考える段階がすごく楽しいですね。

toolboxさんもInstagramライブなどで「家づくり妄想してますか?」をキーワードにされてますけど、すごくいいですよね。ビールをつくる時も妄想する段階が一番好きです。

ビールにもいわゆる基本の型があって、そこにいかに自分らしさとかお客さんの色をどう出せるかみたいなところが面白いです。toolboxさんとも話が盛り上がったところですよね。

toolboxオリジナルビールに込めた思い

石田

ビールづくり、結構難しかったですよ。

クラフトビールって「どういうスタイルにしますか?」から始まるじゃないですか。スタイルってビールの味の方向性って言うんですかね。可能性がたくさんありすぎるし、文面とか画像だけで見てもわからない世界ですもんね。

鈴木さん

結局打ち合わせは、「まず飲みに行きましょうか」ってスタートしましたもんね。

石田

大阪ショールームスタッフも同席して、色々飲みながら「これはいいけどこれは違う」みたいな話をしたりとか。でも1回だけじゃ決まらなかったんですよね。

僕はビール好きなので自分の主観がどうしても入ってきちゃうのが難しかったですね。

最初に試飲した時にビールが苦手なメンバーもいて、そんな人も飲めるようなものをつくりたいということがメインの方向性になってきたかなと思います。

鈴木さん

「もっとビールには選択肢がある」ということを表現したいというお話が出てきましたよね。あれがなかったらちょっと特殊なビールというか、攻めた感じになっていたと思います。

まずは飲みやすさをコンセプトに入れようということで、ヘイジーIPAというスタイルになりました。

ヘイジーIPAは、度数はちょっと抑えてホップの苦みよりも香りの方に注力するスタイルです。まずはスタンダードに飲んでいただくという意味で度数は高すぎないようにしています。

名前やラベルもいいですよね。

石田

色々案はあったんですけれども「Re creation(レクリエーション)」という名前をつけました。

「Re」の部分が緑色のフォントを使った文字になってまして、「creation」の部分が手書きというかマウス書きで頑張ったんです。

今回は大阪ショールームのオープンに合わせたんですが、個人的な妄想としてはシリーズ化して行くといいなと思っておりまして。今後はこの「Re」の後ろの部分を変えたビールをラインナップしていけたらいいなって願いも込めてデザインさせていただきました。

石田自らデザインしたラベル。「Re」には、ビールに対する既成概念、固定概念を“再考する(Rethink)”という意味も込められている。

鈴木さん

結構いろんな言葉に使えますね。

石田

そうですね。僕らもグループ会社に東京R不動産があって、「R」とか「Re」、「Renovation(リノベーション)」「Reform(リフォーム)」も「Re」ですし、馴染みがあり可能性を感じる言葉だと日頃思ってまして。

「Recreation」って課外活動というか、仕事以外の活動みたいな意味もあるんですよね。僕 からするとお酒づくりは本業ではないですけど、仕事として向き合った時に出てきた言葉ですね。まさか自分でビールをつくることになるとは思わなかったですね。

鈴木さん

そうですよね。僕もビールづくりを仕事にするとは思っていなかったです。

石田

ミーティングを重ねて味の方向性が決まっていきましたが、味を形にしていく作業は僕らも委ねるしかないというか。どういうふうにやられているんですか?

鈴木さん

イメージの味に近しいベースになるレシピを探して、着想していくものをのせていきます。今回に限ってはオープニングということで、「(toolboxにとって)初めての関西で、これから(場所やコミュニティを)つくっていく」という背景を読み解くところに時間を使いました。

リノベーションも建物の柱とか壁とかのベースがあって、そこに追加していく感じのイメージだったので、今回のオープン時を第一弾のベースとして、まずは大阪の土台として極力目立たない、でもこれを元に会話ができるというコンセプトでつくりました。

石田

なるほど。クラフトビールって、例えば桃とか柑橘類とか、いろんなものを入れてキャラクター付けをしていくっていう感じの動きがありますもんね。

鈴木さん

だからベースになるようなビールって包み隠せないというか、削ぎ落としていくしかないんですよね。

シリーズ化していくとなれば、これをベースにまた意見を出し合いながら進められたらいいなと思います。

石田

スタートできそうな感じがしますよ。

鈴木さん

そう思っていただけると嬉しいです。あんまりつくらないですよ、こういう感じの。

石田

特徴を削ぎ落とすのは難しそうですもんね。

鈴木さん

難しいすね。逆によく飲まれる方からすると物足りないかもしれないです。そういう意味で言うと最初の1杯目にしてもらったりとか、昼下がりに飲んでもらったりとか。

自ら仕込んで知った、ビールづくりの奥深さ

鈴木さん

今回は朝から晩までご一緒して、実際の仕込みも体験していただきましたよね。大きなタンクのプロペラの一部のようにしゃもじで混ぜていただいたりとか。

よくあるビール工場の見学だと、高い場所からでっかいタンクを見て終わりとかですけど、うちでは一緒につくれるので、そこも面白いですよね。

石田

「手動なんだ!」って思いました。手づくりの機械が登場したりして、面白かったですね。

朝8時から夜9時まで仕込みに参加した石田。大きなしゃもじでひたすら混ぜる、力作業。

鈴木さん

ここくらいの設備であればそうですね。

そういうのもクラフトカルチャーかなと思ってて、要は壊れても自分で直せるんですよね。自分でつくったからこそ分かるし、良くも悪くも手間のかかることではあるんですけど、愛着になるじゃないですか。

最初の機材選びでは、ボタン1つで動く機械もあったんですけど、手間のかかるものもあって。そっちの方がつくれるビールの数もスタイルも多いから、幅広い人が集まるコミュニティとしての機能に紐づいてくるかなと。

石田

あとは、ビールをつくる工程で甘い香りがしたりとか、ちょっと意外な発見がありました。

鈴木さん

ビールの原料は、麦芽(発酵させた麦)と水とホップ、取れた糖分をアルコールに変える酵母の4つです。

日本は法律があるので免許を取らないとつくれないんですけど、アメリカのポートランドだと家のガレージで自分でつくれるぐらい身近なものです。

糖分が入った液体を麦汁って言うんですけど、最後にその麦汁に酵母を入れてアルコールに変えていくまでがその日の作業です。片付けも含めて9時間ぐらい作業が続きます。その間は麦芽由来の甘い香りがするんですよ。

麦汁をつくる作業。8月に行う力作業はかなり過酷だったそう。

鈴木さん

酵母を入れてから1週間ぐらい経つと、発酵が完了してある程度飲める状態にはなります。

その状態を「若ビール」と言って、ちょっと角が立ってるというか、味のバランスが若干乱れてるんですよね。それをまた2〜3週間とか熟成しておくと美味しく仕上がります。

大体1ヶ月ぐらいで皆さんが飲める状態になるっていうのがビール醸造の一連の流れですね。

石田

そのサイクルももうちょっと時間かかるのかなと思っていたんですが、案外早いですよね。

鈴木さん

細かい話で言うと大手から流通しているビールは発酵の仕方が違っているので、熟成期間も長いんです。大手のビールは3〜4ヶ月とかかかるんですよね。

でもエール系という上面発酵するタイプのビールだと1週間ぐらい発酵して熟成すれば、1ヶ月後には出せます。

だから昨今はクラフトビールブームというか、日本でも増えてますもんね。

丸一日かけて仕込んだら、写真右のタンクで約1ヶ月ほど熟成させる。

後編に続きます)

中津ブルワリー

大阪ショールームと同じビルに入居している、マイクロブルワリー。街おこしから個人の記念日まで、オーダーを受けて多種多様な完全オリジナルクラフトビールを醸造。

仕込みを行う日には、醸造したビールを販売しています。飲みながら街歩きを楽しむもよし、近くに腰掛けてゆったり過ごすもよし。営業日はInstagramからご確認ください。

所在地
大阪府大阪市北区中津3丁目10-4 西田ビルB1階

ホームページ
https://nakatsu-brewery.com/

テキスト:庄司