オンデザインパートナーズ(以下、オンデザイン)は、横浜馬車道に事務所を構え、住宅を中心に、各種施設、まちづくり、家具など、幅広い活動を展開している建築設計事務所です。
設計業務以外にも、“ケンチクとカルチャーを言語化するオウンドメディア”「BEYOND ARCHITECTURE」を運営。プロジェクトの背景や裏話、建築にまつわる様々な情報を日々発信しています。
そんなオンデザインの特徴は、プロジェクトごとにチームメンバーを編成し、メンバーそれぞれが裁量権を持って設計していくという「パートナー制」というスタイルをとっていること。それは、担当者がひとりでプロジェクトに向き合うより、複数人の視点を入れることで、対話を通じてアイデアが増幅されるという考えから。住まい手も含め、最初にプロジェクトのスタートを共有し合い、明確なゴールを定めないまま、対話を重ねながら進めていく。ゴールを定めないことで、様々な切り口からアイデアが紡がれていくのだそう。
今回はそんな対話型の設計プロセスを実践しているオンデザインの代表、西田さんにインタビュー。そのようなスタイルをとるようになった経緯や同社の働き方などについて、伺ってきました。
楽しみながら取り組む、その熱量が「共感」を呼ぶ
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「パートナー制」という設計手法をとるようになったきっかけは?
- 西田さん
誤解を恐れずに言うと、自分一人で設計することに限界を感じたんです。過去にうまくいったものは、必殺技のようについついまた他のプロジェクトでも使いたくなってしまう。そうすると、プロジェクトごとの個別解ではなくなってしまいますよね。常に新鮮な気持ちで、楽しみながら設計に向き合える環境をつくりたかった。複数の知識が重なると、予測できなかった新しい価値が生まれる。それが面白いなと思って。
- toolbox
プロジェクトの度にチームを編成し、複数の知識を交差させていくことはなかなか大変だと思うのですが、西田さんが各チームのゴール設定をすることもあるんでしょうか?
- 西田さん
全くないですね。『こうすべき』と押し付けるよりも、その人の実感値が大事だなと思っているので。個々のメンバーが主体的に楽しみながら仕事をすると、つくるものにもいい熱量が乗るんです。『楽しそう』って大事だと思うんですよね。相談する側も、『一緒に楽しめそう!』と思える人の方が相談しやすいんじゃないかな。
具体的なゴールは示さないけれども、みんなが楽しんで仕事に取り組める環境づくりは大切だと西田さんは言います。
- 西田さん
生態系ネットワークのような状態に近いと思います。集合していると、方言のように共通言語が生まれたり、感覚が合ってくる。言葉や体験を通して、そこにあるカルチャーをみんなで共有する感じですね。
そんな体制で活動するオンデザインは、設計環境も実にユニーク。
一昨年の夏に、オフィスを拡張し、打ち合わせを始めとするコミュニケーション機能を1階に集約。活用方法についてアイデアを出し合ったところ、「カレーを作りたい。あわよくば売りたい!」「映画上映会をしたい!」「昼寝休憩出来る場所がほしい!」といったメンバーたちのキャラクターが色濃く反映された様々な意見が出たそうです。
それをもとに、カウンター付きのキッチンスペースやお昼休憩ができる土足厳禁のロフト、映画上映ができる壁面などを用意。地元のお酒を振る舞いたいと、キッチンスペースでバーナイトが催されることもあるのだとか(とっても楽しそう!)。
そんな対話による集合知から生み出された、オンデザインの最近の事例をご紹介します。
つなぐ場のつくり方から交流を設計した、「まちのような国際学生寮」
設計プロセスにみられるように、他者との接点の中で育まれる“実感”を大切にする同社の考えが色濃く反映されているのが、「つなぐ場のつくり方から交流を設計した」というこちらの学生寮のプロジェクトです。
「学生寮」「交流」と聞くと、大きなスケールで考えてしまいそうですが、オンデザインがまず着目したのは、実感の持てる日常のスケール感、「私」と「あなた」という小さな関係。その関係の連続の先に、結果として200人規模の多様な交流が生まれる状況がつくられるのではないかと考えました。
交流のきっかけをつくるために心掛けたのは、シェアハウス経験のあるスタッフの「常にどこかで、人の気配や何かが起こっている期待を感じ取れる環境をつくることが重要」という言葉。そのため、フロアごとに区切る形式ではなく、吹き抜け空間の動線上に小さな交流スペースを点在させ、偶発的な出会いや発見を促すことで、人と人とを繋いでいくきっかけを用意したのだそう。
そこで働く人も“自然”と捉えて設計「TOKYO MIDORI LABO」
オンデザインでは近年、まちづくりに目を向けた活動も多くなってきています。こちらは、クライアントである安田不動産とともに、都市生活と植物の距離を縮める取り組みの一環として設計された、植物と人の営みが共存する複合型テナントビル「TOKYO MIDORI LABO」の事例。
ユニークなのは、「建築」と「緑」の融合を目指すだけでなく、働く人や空間に現れるものすべてを“自然”として捉えていること。テラスの植物が成長すると、人の居場所も変化するように、オフィス空間と植物空間が、対になって影響し合う「生きた建築」を目指しています。
これらのプロジェクトからも見て取れるように、オンデザインが手掛ける空間は、使い方を限定せず、使い手に委ねる部分が多いように感じます。そういったことを意識しながら設計しているのかと気になり、西田さんに尋ねてみると、
「全く意識はしていません。ただ、キーワードひとつとっても、人によって考えるスケールが違うんです。大きな枠で捉える人もいれば、細かな部分で捉える人もいる。捉え方の異なる様々なアイデアが重なり合うから、結果としてそう感じられる設計になっているのかもしれません」と、メンバーの一人で広報も兼ねている、高橋さんが代わりに回答してくれました。
なるほど。複数の視点から「使い手にとって、どうだったら心地よいか」の意見を述べ合い、自分たち自身が発見しながら設計を行っていくため、完成した建築物は、一様に多様な価値観をはらみ、使い手は、そこにある空間を自分なりに解釈しながら使うことになる。だからこそオンデザインの手掛ける空間には、使い手に委ねる寛容さが感じられるのだなと納得しました。
「3倍」楽しくさせる自信があります
対話を通じて、言外に潜む住まい手の要望を汲み取りながら、その創造力を最大限に引き上げてくれるオンデザイン。次に紹介する西田さんの言葉に、その設計アプローチへの自信が現れていました。
「toolboxが発信する『住まい手主導の家づくり』いいですよね。自分の理想の家について、どうしようかと一人で妄想するのは、それだけでとても楽しい。誰でも簡単にできますしね。
そこに設計者が関わる感じをわかりやすく説明するならば、お菓子作りに似ているかもしれません。お菓子作りも、簡単に誰もが楽しめる身近な趣味のひとつですよね。でも、パティシエという職業が成立しているのは、趣味のお菓子作りとは違う次元の知識や技術を備えているから。
設計者もそれと同じだと思うんです。知識や技術、培ってきた経験を通じて、一人で考えるだけでは見えてこない、他の世界を見るための扉を開くような作業をしてあげるということ。理想の家づくりを妄想するのは一人でもすごく楽しい。でも、僕たちが関わることで、その3倍楽しくさせる絶対的な自信があります」
クライアントからの依頼方法も、「オンデザインと一緒に考えたい」という方が驚くほどに多いのだそう。それは、対話を含めたプロジェクトを楽しむスタンスへの共感や、私的なことを共有し、それが実体化されることへの価値に惹きつけられている方が多いからなのかもしれません。
答えやゴールは設計者側にあるのではなく、プロジェクトの中にあって、そこで見つけたワクワクする状況をどれだけ住まい手と一緒に創造できるか、それが提案の価値だと西田さんは言います。
自分の中のワクワクした妄想を、想像を超える形で空間化してくれるオンデザイン。興味をもたれた方はぜひ相談してみてください。楽しい答えをきっと見つけてくれるはず。
※今回ご紹介したオンデザインの事例は学生寮やオフィスの事例でしたが、「BEYOND ARCHITECTURE」では家づくりのエッセイ(暮らしのあとがき)も紹介されています。
pro list(プロリスト)
toolboxでは、商品を使ってくれたり、imageboxに空間づくりのアイデアを提供してくれる全国の家づくりのプロを「pro list(プロリスト)」で紹介しています。
toolboxの「pro list(プロリスト)」の特徴は、「スケルトンで魅せる」「DIY歓迎」「築古得意」など、各プロの長所や得意技を示す“ユニークタグ”で検索できること。
(「pro list(プロリスト)」については、コラム「家をつくるパートナーはユニークに探すべし!」もご覧ください。)
オンデザインパートナーズ
使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所。
また、ケンチクとカルチャーを言語化するメディア『BEYOND ARCHITECTURE』を運営。建築を、 アート・デザイン・エンタメ・ジャーナルなどの観点から 言語化し、日々発信しています。