東大阪生まれの工場用照明
『工業系レセップ』は、toolboxのサイト開設の翌年2011年から販売を開始した、裸電球用の直付け照明です。元々住宅用でなく工場用照明としてつくられていたからこそな、昭和な工業製品っぽさの残るねずみ色のボディ。無骨なその佇まいは、天井を躯体現しにするようなリノベーション空間において、露出配管とも好相性の、他に替えの効かないアイテムでした。
toolbox立ち上げ当初、設計に携わっていたスタッフたちが好んで採用していたため、お取り扱いを開始させていただくことになったのです。
「工業系レセップ」の製造元は、笠松電機製作所(以下、笠松)。主に工場用照明を手がけていた、創業105年の東大阪の町工場です。家族経営で、問い合わせには、高齢の社長さんがお一人で対応してくださるような会社でした。本体に貼ってあるシールでその名前にお気付きの方もいらっしゃったかもしれません。
裸電球を引き立て、単体で使うもよし、露出配管を連結させ、連灯使いするもよし。現場ごとのアレンジで、色々な表情を見せてくるこのレセップは、11年間、本当に沢山の皆様にご購入いただきました。「なるほど、この使い方面白い!」「この電球との組み合わせ新しいねぇ」と、続々と事例写真が届くのを、私たちスタッフも毎回楽しみにしていました。
悲しいニュースは突然に
そんな照明ジャンルで、常に売り上げNo.1だった人気の「工業系レセップ」に、突然の危機が訪れます。「定番のソケット01の製造を続けるのが難しいので、仕様変更したい」と笠松さんよりご連絡が入ったのです。
「えぇ、残念」と思いつつ、製造元がもう作れないというならしょうがないと、既存の在庫がなくなり次第、新しい仕様での発売に切り替えるなど調整していた約2週間後。
あれは忘れもしない、2022年の9月、カタログを製作していた入稿間近のことでした。
「照明事業を撤退することになりました。つきましては、商品は現在の在庫限りでの提供となります」と、急展開の衝撃連絡が飛び込んできたのでした。
「えぇーー嘘でしょーーー」その衝撃は、toolboxだけでなく、愛用していた建築家、設計関係者を中心に瞬く間に広がりました。SNSでも「本当に残念」「当たり前にスペックしていたのに、どうすれば……」という悲しみ嘆く投稿を見かけては、悲しみ共感の意味でのいいね!を押していたのを覚えています。
高齢化による照明事業撤退、復刻へ向けて直談判へ
とにかく情報がないので、急きょ東大阪の工場を訪問。出迎えてくれた社長の妹さんによると「他の社員さんも高齢で、物価も上がっていく中、同じ価格での製造はもう続けられない。社長も体調を崩して。だからやめることだけ決まってます」とのこと。
なんとか、続けられる方法はないのかと問いかけても、具体的な回答は得られず。1ヶ月後に再び訪問すると、会社は、図面などを処分して身辺整理をしている真っ最中でした。金型も全部捨ててしまった、という衝撃の回答。ショックを受けつつ、「もう何でもあるものを持っていっていいよ」と言われ、残っていた図面などをゴミ箱からいくつか救出。その場でいくつかの商品を復刻することの許可をもらって帰ってきたのです。
そこから、約1年かけての、商品復刻に向けての開発がはじまりました。
改めて感じる、笠松照明の完成度の高さ
復刻に向けて商品開発を担当することになったのは、大迫祐子と仙波謙ニ郎。大迫が主にデザイン面を、仙波は新しい工場探しにはじまり、PSE絡みの技術面からコスト面の調整を担当しました。
- 仙波
まずは工場探しからはじめました。いくつか当たって、最終的にやっと価格と品質的に合うところを見つけました。
今回、型からつくり直すことになったんですが、現行のPSE(電気用品安全法と呼ばれる日本で製造・発売する電気製品が受けなければいけない安全基準の法律)の問題で、裏側の露出になっていた配線の納まりの仕様を替えなければいけなかったり。見た目とは関係ない部分での手直しに、予想以上に時間がとられましたね。
- 大迫
デザイン面は、基本はオリジナルに忠実に、気になる部分だけ微調整するというスタンスで進めていきました。復刻するにあたり意見を集めたところ、一番身近なヘビーユーザーである社内のTBK(ツールボックス工事班)から「露出ボックスと組み合わせた時に、座の径が気持ちずれてるからぴったり合うとより良いな」「壁付で使う時の出幅を考え、くびれのあるタイプの高さを若干抑えられたら……」という声があがりました。
- 大迫
オリジナルの手書きの図面をCADでトレースしたものに修正をかけては、3Dを起こしてバランスを確認する。という作業を繰り返しながら、微調整をしていきました。
くびれの角度をもう少しだけ深くしてみよう、電球を取り付けるソケット周辺のゴムパッキンとシルバーのリングが取りつく辺りのサイズを気持ち小さくしてみようか?など、色々やってみたのですが、見た目だけの観点からどこかをいじろうとすると、配線や別の箇所で不具合が出てくるんです。
露出ボックスに取り付けるビスピッチは守らなくてはいけませんし、鉄板の厚みや製作都合の曲げる角度の制限もある、ということで、色々試しはしてみましたが、結果、見える部分については、座の直径を1mmほど縮めたのと、高さを少し抑えた以外、あまり変わらない形に落ち着きましたね。オリジナルは本当に色々と考えぬかれたデザインだったんだなぁと痛感しました。
- 大迫
色味に関しては、なるべくオリジナルのねずみ色に近づけるよう調整を。ホワイトは、元々がややクリームがかった色だったので、日塗工のN90など、すっきりした白壁に合うよう、変更をかけました。フラットは、これまでグレーだけだったのですが、ブラックとホワイトを新規で追加しています。
新たな刻印は、笠松とtoolboxのダブルネームで
- 仙波
笠松さんの「工業系レセップ」は、シルバーのリングの縁にKASAMATSUって凸文字の刻印が入っていて、それがすごく印象的だったんですよね。だから、新しく型を作り直す際も、リスペクトの思いを込めて、元の「KASAMATSU」の名前は残したいと思っていました。ただ、復刻版とオリジナルの区別はついた方がよいので、今回の復刻版は、リングの縁に「toolbox」も入れさせてもらったんです。
名前を入れるあたりから、PRチームのデザイナーも一緒に動き出しました。普段は、WEBのデザインや、販促物のチラシなど紙もののデザインをしている稲葉厚と、石田勇介が加わります。
- 稲葉
いままで発売してきたtoolboxのオリジナル商品は、取り扱い説明の注意書きシールはあっても、型をつくって刻印を入れるというのは初めてだったので、「え!刻印を入れられるんだ」って、ちょっとテンションあがりましたね。仙波の話を受けて、リングの縁にいれる、KASAMATSUとtoolboxの文字を調整したり、PSEの関係で照明につけなければいけない、注意書きラベルと製造元シールのデザインを担当しました。
- 稲葉
元の笠松さんの商品ラベルは、本体側面の見える位置に付いていて、いつも使ってる方にはおなじみだったと思うんです。シルバーのベースに青い文字とロゴの組み合わせが、昭和のレトロ感があって良いと思っていて。なので、刻印同様、ラベルも元のデザインを踏襲しつつ、何パターンか色見本をとって、絞り込んでいきました。
- 石田
たぶん、みなさんの記憶の中で、照明本体とあのシルバーに青のラベルがセットで笠松の照明って認識していたと思うんですよね。今回はラベルを作ってくれる新しい工場側の都合で全く同じようには出来なかったんですが、出来る中で、なるべく見え方がオリジナルに近くなるよう調整していきました。
初の現場導入、露出ボックスに組み合わせてみて
底面のコードの取り出し口の仕様が変わったこともあって、試作の段階から、いつもツールボックス工事班で電気工事をお願いしてる職人さんに、新しい仕様での取付に問題ないか取付確認をしてもらいました。その後、微調整を繰り返して、いよいよ商品は完成!
よく「工業系レセップ」を使ってくれている仲の良い施工会社で、ちょうど使いたい現場があるということを聞きつけ、ひと足先に新タイプを導入してもらいました。
「一昨年末から急に、発売中止になってしまって、正直困ってました。やっと復活してくれて嬉しいです。やっぱこれですね」という、現場監督さんの話も聞いて、一安心したのでした。
約1年強、発売中止となり、「工業系レセップ」の再販開始を待ってくださっていたみなさん。大変お待たせいたしました。
笠松電機製作所からのバトンを引き継いだ復刻版が、これからまた新たに、みなさんの空間で様々な形で使われていくのを、toolbox一同、楽しみにしています。
後編では、「工業系レセップ」をつくってくれていた笠松の社長さんってどんな人?その人物像に迫ります。