「ドア」の選択は見た目だけでなく
自分らしいドア選びを叶えるドアガイド。Vol.1ではたくさんの空間実例から「自分らしいドア」の妄想を膨らまし、Vol.2では「空間の中での存在」に焦点を当てドア選びを考えてみました。
でも、残念ながらドア単体ではドアは開きません。開閉の動作に不可欠なのがドアノブ・丁番などの金物やドア枠といったパーツたちの存在です。
Vol.3では、ドアの見た目以外の要素であるパーツたちの役割と、サイズの選び方や現場の施工の仕方まで深堀りしていきたいと思います。
Vol.2に引き続き、ドアの世界を案内してくれるのはtoolbox建具担当のこの3人。
ちょっととっつきにくいと思っていたドア枠や金物について教えてもらいました。
(左から山下・仙波・一杉)
ドアノブ・レバーハンドル・表示錠のこと
ドアノブ・レバーハンドル・表示錠。ドアのキャラクターをつくる部分とも言える要素ですが、その裏側の顔を見たことありますか?
このように、思っていた以上に複雑な機構によって動いているんです……!
ドアノブ・レバーハンドルは、表面に見えている部分だけでなく、ストライクやラッチなど開閉に必要な部品もセットで売られているものがほとんど。この部品に合わせ、扉側に穴あけ加工を施して組み込んでいきます。
ドアノブ・レバーハンドルを選ぶ場合に、特に注意して見ておくべきは「対応扉厚」と「バックセット」です。
そのドアノブ・レバーハンドルが対応しているドア本体の厚みで、例えば33〜42mmなど、10mm程度の幅を持たせて設定されています。
指定された厚みよりも、扉が薄ければドアノブが浮いてしまいビス留めできません。逆に扉の方が分厚い場合は、角芯棒が届かずラッチを操作できないことに……。
ドア本体の扉厚も様々な種類が存在するので、事前に相性を確認しておく必要があります。
扉の先端からドアノブ・レバーハンドルの軸までの距離のこと。
フラッシュドアは下地が通っている位置が限られるため、少し注意が必要です。例えば『オーダーフラッシュドア』に好きなドアノブを選んで組み合わせる際は、取り付ける位置に下地があるかを芯組図を見て確認しておく必要があります。
また、框ドアの場合、取付け後のドアノブ・レバーハンドルの位置が縦框の中心から外れてしまいバランスが悪い……といったことも起こりうるため、バックセットの長さから、取り付ける位置をシミュレーションして選べるとベターです。
toolboxのオプションで選べるドアノブ・レバーハンドルは、ドア本体と見た目が似合うだけでなく、取り付けた時のバランスがよいものをセレクトしています。
「ハンドル部分だけ交換したい」という声はよく聞きますが、実はこれが意外に難しい。
建具の厚さやバックセット、錠の構造タイプなど、とても多くの製品サイズ展開があります。そのため、既存ドアの錠に適合するハンドルの組み合わせを見つける必要があり、好きなハンドルを付けられるとは限りません。
錠から丸ごと変えるとしても、既存錠の加工穴に新規の錠がピッタリとハマる、ということはほとんどなく、建具本体の再加工が必要となることがよくあります。
ハンドルのパーツは、錠と建具本体及び枠、と密接に関わっているため、トータルで判断が必要となる部分です。ぜひ、ドアを新設・交換するタイミングでベストなドアノブ・レバーハンドルの検討をおすすめします。
枠と丁番のこと
ドアの開閉を支える、まさにドアの要とも呼べる部分。あまりこの部分をこだわって選ぶ方は少ないかもしれませんが、こんな種類のものもあるんだなと思って見ていただけたら嬉しいです。
ドア枠の種類
壁面とドアを繋ぐフレーム。ドアノブ・レバーハンドルの受けとなるストライクや、丁番を取り付けてドア本体を固定するための部材です。ドア枠は壁(下地)に固定されていて、周囲の壁に直接扉の荷重がかかるのを軽減したりと、開口部の強度を保つ役割もあります。
一般的に用いられる枠。その中でも下枠を取って、段差を無くしたものを三方枠と呼びます。
後述する「ケーシング枠」が壁厚に応じて奥行きを調整できるのに対して、固定枠は壁の厚さに合わせて枠の奥行き寸法が決まってきます。
ドアを取り付けた時に、シンプルな見た目になるのも特徴です。
ケース(覆う)という意味で、壁との境目を覆い隠す見切り材のような役目も担う枠。
よくあるのはL字型をしていて、取り付ける壁厚に合わせて調整できるようになっているもの。
また、海外では壁と枠を段差なく収めて、意匠性を持たせたケーシングを取り付ける方法が一般的です。toolboxでは『クラシックパネルドア』『トラッドパネルドア』のオプションに後者の装飾を兼ねたケーシングを用意しています。
丁番の種類
扉を開閉させる時に、軸で支えて繋ぐのが丁番の役目。ドアだけでなくキャビネットの扉や、例えば救急箱などのボックスの蓋に広く使われる部品で、用途に合わせて様々な形状のものが存在します。ドアに用いられる丁番もまた種類は豊富で、こだわればどこまでも深堀ることができる世界。ここでは、大きく下記の3種類を紹介しておきます。
サイズや材質のバリエーションも多く、最も一般的なタイプの丁番。
上下で羽が分かれ、パタパタと旗のように動く丁番。最大の特徴は上下に抜き差しできる点です。
吊り込みと呼ばれる、ドアを枠に取り付ける作業が容易に行えます。また、取り付けた後に、扉を取り外すことがある場所にも便利です。
扉を開閉するだけでなく、様々な機能をもった丁番たち。
例えば、扉を取り付けた後に上下左右の傾きを微調整できる「調整丁番」。中でも前後の傾きまで調整できるものを「三次元丁番(3D丁番)」と言います。
他にも、開閉スピードを制御してくれる「オートヒンジ丁番」など様々な機能を持ったものが存在します。
ドアは使っているうちにだんだん歪みが生じてきてしまうもの。取り付けた後のメンテナンスもしやすいように、toolboxのオプションでは「調整丁番」をご用意しています。(『木製パインドア』のみ平丁番となります。)
調整丁番は軸が太くなったりといかつい印象のものが多いのですが、閉じた時に見えてくる部分でもあるので、違和感のない見た目のものをセレクトしました。
ここでは主に開き戸についてのお話をしてきましたが、引き戸の開閉方法にも種類があるんです。それぞれの方法で枠のつくり方も変わってきます。
1.襖のように上下に彫られた溝(敷居と鴨居)で扉を滑らせる昔からある開閉方法。摩耗によって敷居と鴨居が痩せてくるので、比較的軽量な扉に向いています。toolboxの商品では『障子』や『布框戸』がこれにあたります。
2.下枠に「Vレール」と呼ばれるV字の溝のあるレールを埋め込んで、扉に仕込んだ戸車で滑らせる方法。現在の引き戸で主流の開閉方式です。レールは金物を使い、戸車で滑らせるので、比較的重量のある扉でもスムーズに開閉できます。toolbox商品では『木製ガラス引き戸』で採用。
3.レールを上枠に仕込み扉を吊って開閉する「上吊り」と呼ばれる方法。下枠のレールが不要なので足元スッキリ!上吊りレールにソフトクローズ機能を設けることもできます。こちらは『木製ユニットドア』で採用されています。
そもそもドアをつくるには……?
そもそも現場でドアをつくるには大きく2通りの方法があるのをご存知でしょうか?枠とドアノブ・丁番といった金物がセットになったユニットドアを大工さんが取り付ける方法と、ドア一枚に対して設計図を描き、大工さん・建具屋さん・塗装屋さんによって現場で造作する方法です。
ユニットドアはドアノブ・丁番・塗装などの選択肢が限られますが、手間がかからないため、工期や費用面でメリットがあります。一方、現場造作のドアは、手間がかかりますが、ひとつずつこだわって選んだパーツを現場で取り付けてもらう……など自由度の高さが魅力です。
大工さんがドア枠を、建具屋さんが建具をつくり、塗装屋さんが仕上げをして……と、現場造作で建具を作っていた時代を経て、現在は枠と金物と建具がセットになったユニットドアが主流となりました。
取り付けは大工さんでできるため、現場加工の手間もグッと減った反面、建具屋さんの出番はどんどんとなくなってしまい、体制によっては建具屋さんの付き合いのない工務店さんもいるほどです。
とはいえ毎日の開閉を伴うドアは建具屋さんの専門分野。ユニットドア以外で現場加工の必要なドアを検討する際には工務店さんに相談しておきましょう。
既製サイズか、サイズオーダーか?
ユニットドアのほとんどは既製サイズから選ぶことになります。それに対して幅・高さ・奥行きを指定のサイズでオーダーするという選択肢も。
新築やリノベーションで新たに壁からつくる場合は選択に制限はありません。一方で、壊せない壁がある場合や「天井高ピッタリにはまるドアが欲しい」など希望のサイズが既製サイズのラインナップでは見つからない場合、サイズオーダーできる商品から選択することになります。
toolboxで展開している1mm単位でサイズオーダーができるドア。ドア本体の幅・高さを決める際は、製品によって決まった逃げ寸法があるので、詳細をドア納まり図で確認しておきましょう。
また、幅・高さだけでなく意外と大切なのが枠の奥行き。壁の厚みは建物の構造によって様々あるため、選んだドアのサイズ展開でハマるのか事前に工事をする工務店さんへの相談はかかせません!
ドアノブ・レバーハンドル、枠に丁番、サイズのこと。ドアの開閉をつかさどる大切な部分についてお届けしました。記事を書いている私自身、今までなんとなくドアの付属物と思っていたものが、現場の施工体制にまで関わるということを知り「そんなに複雑な世界だったのか」と驚いています。見た目だけでなくその裏側のことまで事前に理解をしておくとプロに相談する際の解像度も上がってきそうです。
表現できる幅が広いドアの世界。自分らしい空間づくりのきっかけにしていただけたら嬉しいです。