鮮明なブルーの床が、お部屋の南北を貫くマンションの一室。2024−2025の黄色い電車が表紙のtoolboxカタログに掲載されているお家です。
ここに住むのは康一さんとパートナーのデイビッドさん。そしてブリティッシュショートヘアのソフィー。
目を奪われる色使いのバランス、置いてある物ひとつひとつに引き込まれてしまいます。
見ているだけでハッピーな気分になれる個性溢れる空間は、どうやって生まれたのでしょう?お話を伺ってみると、お二人の家づくりは、引越し前の第一期・住みながらの第二期・最後はプロと一緒にと約4年に渡るビックプロジェクト!
そのプロセスを振り返ってお話いただきました。
とにかくひと繋がりのオープンな空間であること
風通しと見通しの良い空間。床材や天井の色分け、そして各所に置かれた家具で居場所をつくっているのが印象的です。
物件探しの時から、見晴らしの良さは大事にしていたことのひとつでした。
「最初に紹介された物件が12階で、条件もすごくよかったんですけど、窓が全てスモークガラス。住んでから自分で変えられない部分なのでちょっとなーと思ってる時に出てきたのがこの物件でした」
窓も多くて、視界もクリア!譲れない条件を上げていく中で、不動産屋さんに「その条件だと厳しいですね」と渋い顔をされつつ出会えたのは運が良かったと振り返ります。
購入した当初、キッチンなどの水回りはきれいにリフォームされていたものの、3LDKと細かく部屋が区切られた間取りでした。
理想としていたのは、海外のスタジオアパートメント。間仕切りがないほど、風が抜けて光が入ってくる。自分たちの荷物で仕切りにしたり何かと自由が効くのがいいと、当初からオープンな空間にしたいと考えていた二人は、なんと自らの手で壁を壊し始めます。
「入居までに壁を白く塗装しようと思ったんです。自分たちでやってみようと思ったのは予算の関係もあって。物件を購入したらリフォームまでにかけられるお金がなかったので、一回住んでみてから様子を見て少しづつ変えて行こうかなと」
驚くことにお二人ともDIY自体が未経験!施工に詳しい頼れる知り合いなどもいない中、YouTubeなどで情報を集めつつ、時には友人たちの力を借りながらコツコツと作業を進めていったそう。
「古いマンションで、何回かリフォームされていたこともあって、石膏ボードを壊すとまた壁が出てくるんですよね。部屋の中に部屋をつくるみたいな感じで。せっかく石膏ボードをはずして終わりかーって思ったら、当初のオリジナルの壁紙が貼ってあって『えぇー』みたいな(笑)」
壁の中からまた壁が……想像するだけでその時の絶望感が伝わってきます。
住んでから2年後、解体は第2フェーズに突入
自分たちでやってみて初めて気づく至難を乗り越えつつ、無事に引っ越しも完了。白く塗装した空間での暮らしが始まります。
そこから2年ほど経ったころ、今度は「なんか、天井壊してみようかな」と思いたちます。
「どれくらい高さがあるのか、分からなかったんですが、天井高が上がる可能性は感じていて。天井材も薄いベニヤ板だったので、穴を開けて壊してみたんです」
住みながらの解体作業。作業の度に家具を端に寄せて養生して……と、それでも粉塵が舞うなかでの生活はストレスを感じることもあったそう。
さらにストレスだったのはゴミ問題!
自分たちで綺麗に分別して、依頼できる引取先を見つけながら処分をしていくものの、手間もかかるし費用もかかる。最後はもうお手上げ状態に。
あらかたの解体が終わった段階でプロの手に委ねることを考えはじめます。
“やりすぎない”を共有する
「自分たちでできることはもはやここまで」と、やり切ったお二人が、施工を依頼したのはルーヴィス。解体後の躯体をそのまま内装として取り入れたり、古い建物のいい部分を活かしたリノベーションが得意な工務店です。
とはいえ、現場はほぼ解体の終わった状態。最初に見にきた担当者にも「これは……ほぼ終わってませんか?僕たちは何をすれば……」と戸惑われたほど。
ここまで自分たちの時間と労力をかけた大切な家。理想を実現するための最後の仕上げをお願いするプロはどのように探したのでしょう?
「一応何社かに相談はしていたんですけど、キレイにつくり込んで仕上げるのではなくて、自分たちがいいと思うものを汲み取ってくれる会社がいいなと思って。事例とかを色々見ている時に、多分ルーヴィスだったら、やってくれるんじゃないかなって」
というのも、お二人は、お話を聞くとディテールに対して強いこだわりを持っていたんです。
例えばこの写真、躯体現しでよく見るアレがありません。
「電気の配線とか、みんな金属の管を使ってるじゃないですか。それもいいと思うんですけど、やった感が出ちゃうのは避けたいなと思って。電気屋さんにうまく収めてもらうようにお願いしました」
きれいに仕上がってしまうのはちょっと違う。一番のオーダーは、とにかくラフに仕上げて欲しいということだったと話すお二人。
そう聞いて見てみれば、普通は埋められてしまうような過去の配線の痕跡もそのままの状態で保存されています。
使いたい素材や、完成系のイメージは、写真を使ってある程度まで共有することができます。でも、解体後につくっていく段階で生じる、既存壁の状態をどこまで残すかや配線の処理など「これはいい・これは嫌」といった微妙な塩梅まで分かってもらえるかどうかは別問題。実際、この現場でも一度だけ行き違いが起こります。
「ある時現場に行ったら、左官屋さんかな?躯体の凹凸をきれいに埋めてくれてたんですけど。デイビットが怒って(笑)。『このガチャガチャ感が好きだったのに、きれいにしないで!』って」
工事中の仮住まいの場所から近かったこともあり、毎日のように現場に通っていたというお二人。都度「ここどうします?」とコミュニケーションを取りながらリノベーションに参加できたのがよかったそう。
自分たちの「こうしたい」に対して、その都度ベストな解決策を出してもらえたり、相手によって、自分たちにないものを引き出してもらえたと話してくれました。
仕上げのデザインソースは実体験から
この空間で象徴的に使われているブルーの床と、その奥に見える洗面・トイレのピンク。思い切りの良い色使いに意外な素材を組み合わせる発想もまた、お二人ならではの経験から生まれてきたものでした。
「ベルリンのfriends of friendsってサイトを昔からすごく見ていて。そこで紹介されてる中で、真っ青な家があったんですけど、それがすごく良くて」
しかし、いざ探してみると、なかなか理想とする鮮やかなブルーの床材が見つからなかったそう。
ブルーはブルーでも少し色味がくすんでいたり、他の色柄が混ざっていたり……。サンプルを取り寄せ、ショールームにも足を運んで辿り着いたのが商業施設で使われる品番のタイルでした。
お部屋の片方は、外壁下地の調整・補修に使われるカチオンを既存フローリングの上から塗って仕上げています。
「最初はモールテックスで検討していたんですが、予算の都合で採用が難しくって。『他にいいものありますか?』って聞いたらカチオンがいいんじゃないかと提案してもらったんです」
調べたところ、調布の猿田彦コーヒーの内装でも使われていると判明。二人で見に行き「これがカチオンか〜いいんじゃない?」と採用を決めたそう。
過去のイメージを活かした仕上げは洗面にも。
「オーストラリアに行った時に、メルボルンにあるAesopのお店に全面ピンクの部屋があって。その色がすごい気になってて、そんなピンクの洗面にしようと思って。似てる色を探してデイビットが塗装しました」
ところでこちらのトイレ、「扉なしのオープンスタイル……?用をたす時はどうするんだろう?」と思っていたら、ちゃんと扉がありました。
「これも結構、こだわった点で。ギャルソンの店舗で亜鉛鉄板使ってるんですけど、自分の家でも取り入れられないかな?と思って相談してみたんです。でもめちゃめちゃ重くなっちゃって、多分年とったら開けられない(笑)」
自分たちが見たイメージから妄想はできても、その具現化までが意外と難しい。特に実現するためにどんな素材を選ぶのかは、自分たちの感覚が頼りです。お二人は、実際に足を運んで自分たちで体感し、納得したものを選んでいたのが印象的でした。
そしてそれを実現できたのは、やりたいことを理解してくれるプロの存在があってこそ。クレームに繋がる特殊なことはお断りされてしまうケースも案外多いんです。
唯一の造作部分は伸び代を残して
最初に思い描いたイメージ通り、遮る壁のない空間。この家で唯一の造作部分は、収納と寝室の間仕切りを兼ねたラワンの箱です。
収納の上部には間接照明が仕込まれていて、天井に伸びる光が、抜け感を強調してくれているように思います。
ここでは、唯一やり残していることがあるようで……
「本当は扉全面に真鍮を貼る予定だったんですよ。鏡代わりにも使えるかなと思って。見積もりとってOK出してたんですけど、戦争の影響でえらい金額になっちゃって。これはできないなと」
似たような素材を貼ることも検討したものの、取り寄せたサンプルではきれいすぎる。真鍮の経年変化でくすんだ感じには叶わないと、いつかまたやろうという野望を残しているそうです。
全面に真鍮が入るとまた空間の印象もガラリと変わるはず!今後の進化が楽しみです。
景色と心を緩めてくれるもの
旅行が趣味というお二人。旅先での物との出会いも多いそうで、部屋の中には気になる物たちがいっぱい!取材中はtoolboxスタッフも点在する物たちに終始目を奪われ、興奮しっぱなし。
「去年ケープタウンに行った時に、歩いてたら、お店のウィンドウにこれがあって。『はっ!』ってなって、頑張って手荷物で持って帰ったんです」などなど。ひとつひとつの物に込められた、記憶やウラ話に興味が尽きない取材となりました。
その場の景色や心を緩めてくれるものに囲まれた空間。それは置かれているものだけではなく家の造作も同じで、細部にまでお二人ならではの工夫と遊び心が潜んでいました。
今回、お二人の家づくりを伺って改めて感じたのは「こうありたい」という思想は一日でできるものではないということ。
自分たちが心を動かされるものとの出会い、大変だった思いも含めて時間をかけた分だけ、その住み手らしい家になっていくのかもしれません。
株式会社ルーヴィス
古い建物を活用し、既存のいい部分は活かしながら「懐かしい新しさ」に変化させるリノベーションを行っています。
toolboxでも初期からお世話になっている施工パートナーです。
※お住まいになりながらの改修工事はお受けできません。