そのまま住んでも家の基本性能は十分で、住みながら手を加えて自分の好みや使いやすさを調整していける「素地家」。そういったコンセプトや目指していることは、アフターリフォームを推進する私たちにも共感するものがありました。

深くお話を伺うと塗装やカスタマイズの自由度がありすぎるゆえ、なかなか完成形がイメージしにくいと言った声もあったそう。それならば、いちど素地家のポテンシャルを引き出したカスタマイズの「見本」をつくってみようと、モデルハウスを建てるプロジェクトが始まりました。

ほとんどの床や天井は化粧せずに素地「仕上げ」。

従来の素地家はこんな雰囲気。

最初の印象は「もう、仕上がっている」

解体の際に出てきた駆体や下地を隠さずにそのまま内装に活かす手法を「現(あらわ)し仕上げ」といいます。昨今のリノベーションでは馴染みのある手法ですが、以前はコストダウンしながら素材感を出せる裏ワザ的なアプローチでした。

今となってはリノベーションらしい仕上げのひとつとして、広く選ばれています。

素地家は新築の戸建てですが、はじめて見たときにこの素材感に溢れた「リノベーションされた戸建て」の雰囲気をいたる所に感じました。しかも中古物件では、素地の質感を求めて手間とコストをかけて解体しますが、最初から「現し」仕上げになっているなんてとても都合がいい。

そうして見えてきた素地家のいちばんの魅力は「素地」であること。全体を隈なく仕上げてしまうのではなく、チューンナップによって今ある素地の魅力をさらに高めることがテーマとなりました。

建具は思い切ってスレートの波板をリビングの入口に。その他はブナ合板をパッチワークした木製のドア。

塗ることによって塗っていないところが活きる

まずはじめに、チューンナップとして考えたのが塗装。住みながらでも手を加えやすいですし、イメージをガラッと変えることができます。

私は内装では他の色よりも馴染みが良い「グリーン」をメインカラーに決め、木目が透けるような淡い塗料を職人さんとともに調合してプレゼンテーションに挑みました。仙台が「杜の都」と呼ばれているのも後押しになりました。

しかし、そこで言われたのは「グリーンは使わないようにしている」という言葉。仙台は一歩外に出たら豊かな緑が溢れているし、素地家にはインテリアグリーンも似合う。内装にグリーンの塗装を施すと、そのどちらもボケてしまうと。

少し透けて木目を感じる赤はベンガラ塗料によるもの。サビた鉄の赤がシック。

普段ならその場で色に対する自由を謳うのですが、ストンと腑に落ちてしまった自分がいました。

ただ、塗装で色が無いのはいかがなものか…。なんとか素地家に相応しい色を、という想いで探したのが「素材そのものの色」で空間を構成するというアイデアでした。

階段手摺りの赤は「ベンガラ」という古くからの塗料で、原材料は酸化鉄です。鉄がサビた赤。そして水回りの床には「ローバル」という亜鉛の塗料を選びました。金属の鈍いシルバーが渋いのですが、耐久性もある塗料です。

言ってみればどちらも原料そのまま素地の色。結果、塗る面積も少なくなってグリーンよりもシックリいきました。

合板の上から亜鉛塗料「ローバル」を塗ったキッチンの床。鈍いシルバーがタイルとの相性も良い。

セッションのように練り上げた空間

地域で長年多くの住宅を手掛けてきた零さん、家づくりの知見や手法がたくさん蓄積しています。

塗料の一件もですが、最初のアイデアからセッションのように練り上げていく工程がたくさんありました。「木を古材っぽく塗るなら、ボルトはバーナーで焼いてはどうか。」「玄関の土間は石を砕いて洗い出しにしてはどうか。」などなど、エキサイティングなやりとりが続きました。

シンプルな内装に目を引くスライドドアの面材。レールや長押などの素材が交差する空間ですが違和感なく存在します。

提案の中にはチューンアップから少しはみ出てしまう場所も。

特にキッチン空間は通常の仕様から大幅に変更した部分です。これは全部を削ぎ落とすのではなく、素地で仕上げる部分はとことんコストを抑えて、拘るところにちゃんと良いものを選ぶという提案。素地家はファッションで言う「チープシック」のような向き合い方ができる戸建てだと思います。

業務用キッチン、パワーガスクッカー、ハンガーラックの主役揃いの厨房のようなキッチン。どこかスッキリ見えるのは天井スリットファンの導入でレンジフードを無くしたから。

「ラスティックタイル」でぐるっとライニングを設け、業務用キッチンを組み合わせてキッチンをつくりました。コンロは機能も雰囲気も主役級の「パワーガスクッカー」。そしてキッチンのいちばん右のユニットはキャスター付きで作業台やテーブルとして、好きな位置へ移動できる仕組み。フリースペースの多い素地家の間取りを使いこなせるように、技アリのキッチンプランになっています。

キッチンの一部はキッチンワゴンとして移動できるつくり。料理の仕込みにも、共同作業にも使いやすい。

カスタムに躊躇が無い家「素地家」

冒頭にお話したように、素地仕上げの内装にはリノベーションのように手を加えたい気持ちを受け止めてくれる寛容さがあります。

暮らしていく中で、好きな色に塗ったり、タイルやフローリングを貼ったりしてもいいですし、ちょっとしたフックや棚を付けて勝手を良くしたりするだけならすぐにでもできそうな家です。

ドアの面材を多めにとったブナ合板のドア。厚みを感じず一枚板がスッと浮いているイメージ。

今回お手伝いした素地家のお手本チューンナップは、「こんなこともできるのか。」とか、「色を塗ったらこう見えるんだ。」そして、「ここまでやってもいいんだ!」といった思い切った手法まで、きっと素地家のポテンシャルを感じていただけたのではないでしょうか。

モデルハウスの販売も開始されてますので、ご紹介した物件をそのまま購入することもできますし、まっさらな素地家を素材にして思い思いチューンナップしながら暮らすこともできると思います。

この機会にマイホームを妄想してみてはいかがでしょうか。

もともと合板にプリントされている文字も絵になる。素地の証!

外観も木がふんだんに使われていて、内装にも繋がる雰囲気があります。

その他の写真

スレート波板のスライドドア。コンクリートのグレーが雰囲気ピッタリ。

奥行きのあるベンガラ塗装の手摺り。エンド部は長めに切り出しました。

石を砕いて、洗い出し仕上げに。荒々しいけど上品な玄関が出来上がりました。

2階の洗面が開口部から覗く。この気配に奥行き感を感じます。

スレートのスライドドアは重いのに見た目は浮遊している雰囲気がいい。

ベンガラ塗装の手摺りは2階の吹き抜け周りまで続きます。

キッチンからリビングを見た天井部。長押が渡ってる感じがカッコいい。

見た目の珍しいパワーガスクッカーは人気者で働き者。

業務用キッチンのシンクは深く大きく使いやすい。安心のサイズ感です。

2階の吹き抜け周りは腰壁から手摺りへチューンナップ。抜け感がよくなりました。

階段側から寝室と洗面の入口を見たところ。ブナ合板をパッチワークしたドアが馴染む風景。

洗面室は様々な素材のパーツをパッチワークするように配置しました。

プロジェクト情報

株式会社建築工房零

宮城県を拠点に設計・施工を行う工務店。国産無垢木材を使った家づくりが特徴です。

注文住宅から、定額・規格型住宅の「ZEROBACO」や「素地家」、販売型コンセプトハウス「提案型住宅」、街並み提案プロジェクト「杜くらし」、リフォームリノベーション、オリジナル造作家具まで、多彩なラインナップを揃えています。