建具を後付けすることの注意点
室内に優しく光を取り込み、また、お部屋のアイコンとしても効果的な『木製室内窓』。現状の部屋の間仕切り壁に設置をしたい。そんなご要望をよく耳にします。
ただ、すでに完成している壁に後から窓を取り付けるのは至難の技。本来、室内窓を設置する際には、窓位置を想定した間柱の設置→窓枠の固定→石膏ボード貼り→クロスなどの仕上げ→建具のはめ込み。といった順序を辿ります。
新築や大規模リフォームの時のように、窓を設置することが想定された条件で用意されていれば問題ないのですが、すでにある壁に、想定されていなかった窓を設置するのは、穴を開けた際に出てくる軸組の状況が読めないという点と、周辺の壁仕上げの補修が必要になるという点から、施工者としては敬遠しがちな作業なのです。
しかしそこは一度やってみようじゃないかということで、綿密な作戦立案のもと、ドキドキしながら「後付け」させていただくことと相成りました。
事前準備が大事
まず、設置を検討している壁の下地状況を下地センサーなどで確認します。
竣工図面などで大まかな位置を確認できる場合もありますが、図面通りではない状況も多くあるため現場確認を必須とします。
こちらの比較的新しいマンションでは、スタッドと呼ばれる鋼製の軸組(LGS)が約303mmピッチで入る一般的なつくりでした。
そして今回は少し大げさですが、既存の軸組位置を元に、木製室内窓を設置する位置をシュミレーション。
上下左右に干渉物がないことや、コンセントやTVジャックなど電気配線の影響を受けない位置、且つ部屋同士の視線や光の入り方を想定した最適な位置を事前に想定した上で、施工法を検討しました。
リフォームでよくある「開けてビックリ!」ができるだけないように。
そしてこの際に壁の厚さもチェック。壁の厚さは建物や場所によって異なるので、壁の厚さに応じた製品を採用するようにしましょう。今回は壁の厚さが80mmだったため、室内窓はD90mmのタイプを選定しました。
まずは想定よりも小さい穴を開けます
軸組対しての窓設置位置をプロットし、まずは状況確認のために窓開口より小さめの穴を開けてみます。
こちらのマンションは石膏ボードの上にクロス貼りという一般的な仕上げだったため、後に登場する電動マルチツールで穴あけは簡単。
問題がなさそうなことを確認したら、窓開口の位置を正確にプロットしていきます。
理由は後述しますが、このとき開口サイズは製品寸法よりも上下左右共に13mmずつ大きなサイズでラインを引いています。もちろん水平垂直はバッチリと。
墨出しを終えラインが引けたらカッターでクロスをカットします。ここをいい加減にやってしまい開口以外の箇所のクロスも剥がれてしまうと、クロスの貼り直し補修が発生してしまうため慎重に。
クロスの上紙を綺麗に剥がすことができました。
そしてついに登場の電動マルチツール。木や金属もカットする平らなブレードが高速で上下運動することで、ノコギリとは異なり正面からのカット作業が可能な電動工具です。
ちなみにこの工具、かわいい顔して相当大きな電動音がするので近隣ケアは必須です。
この作業も寸分違わぬ精度で刃を進める必要があるため、息を止めながらの慎重作業です。
こうして慎重にカット作業を行いようやく一面の穴あけが完了。
ここで予定外の鉄板が出現したものの、金属も切れるマルチツールにお任せを。ただし先ほどよりも更にすごい音が…。
カット面のバリはボード鉋やカッターで整えていきます。このあたりの処理で完成の精度が変わってきます。
そしてとても簡単に言いますが、裏に回ってもう一度同じ作業を繰り返します。
そしてついにその時が…!
ご開帳。
開いた!開きましたよ!想定通り。全て想定通りです。が、ついポーズ決めたくなるくらい、ここまで非常に気を使う作業でございました。
1つ目の峠を越えてようやくここで小休止。
邪魔な軸組を調整します
次は開口の邪魔になっている軸組をカットしていきます。ここでもマルチツールが大活躍。
そろそろ刃こぼれが気になってきたところで軸組のカット完了。
こちらはスタッドと呼ばれる鋼製の間柱ですが、木軸と呼ばれる木製の間柱の場合も、壁の内部構造は基本的には同じ。間柱を挟み込むようにして石膏ボードがビスで貼られていて、間柱の間は中空層になっています。
ポッカリと綺麗な開口が開きました。
見切り材を取り付けます
カットした壁断面を綺麗に隠す目的と、開口と建具の隙間を微調整する目的のため、その施工性の良さから、今回はF見切りと呼ばれるプラスチック性の見切り材を使うことにしました。
端部をカッターで斜めにカットし、石膏ボードの断面にはめ込んでいきます。
F見切りを全周まわしたら、壁の間に木材をはめていきます。壁の隙間にピタッとはまるように木材の寸法は加工していて、窓の枠材はこの木軸に対して固定することになります。ここはだいぶ工作的作業。
木材とボードはボンドでしっかりと固定をし、硬化させる時間をとりここで初日は終了。
2つ目の峠を乗り越えました。
ついに建具登場。固定していきます
2日目。昨日のボンドがしっかりと硬化したのを確認して、建具の木枠をはめ込みます。精度よく壁カットができたおかげで、キツすぎずユルすぎず絶妙な硬さで枠が入りました。
枠の出が両面で均一になるように調整します。
通常はボードが貼られる前の状態で枠を組み込み、壁の内側から軸組を通してビス固定するため、表面にビスが見えることはありません。ですが、後付けの場合はボードが貼られている状態のため、表からビス固定をする以外に取り付け方法はありません。今回はせめて木栓を打って綺麗に納めます。
最後に、F見切りと木枠の微妙な隙間はボンドコークで埋めました。なかなか丁寧なやり方です。
最後に障子をはめ込み…。
ついに完成!
美しい!頬ずりしたくなるほど愛くるしい!
2日も連れ添った室内窓なので、すでに愛着湧いちゃっています。完成しているのになかなか帰らない現場チーム。
beforeの少し閉塞感のあった空間に、開放感と高揚感が生まれ、小窓をひとつつける行為がこんなにも満足度の高いものかと、施工したことで思い知らされるのでした。
こちらのお宅ではリビングと子供部屋の間に設置しました。個室でありながらお互いに存在を感じられる、空間につながりを作ることができました。
終わりに
今回は築浅の建物で標準的に採用されるLGS(鋼製軸組)と呼ばれる下地が入っていましたが、木軸と呼ばれる木製の下地組みでも、中空層のある壁構造(コンクリート/ブロック造などを除く)であれば作業内容は同様になるかと思います。
構造壁と呼ばれるコンクリート躯体壁や筋交のある壁への開口作業は現実的ではありませんので、予めプロのアドバイスを受けるようお願いします。
とはいえ、今回紹介している施工も、DIYでやるには難易度が高いかと思います。自分でやるというだけではなく、後付けを依頼する先の施工者さんの参考にもなればと思います。
この方につくってもらいました
株式会社Cabbage Truck / キャベジトラック 渡邉光
toolboxでもお世話になっている頼れる大工さん。
設計から施工までまとめて行ったり、建築家案件の施工などをしてます。
壁一枚から家一棟、店舗一式工事までお気軽に。