既存フローリングを活かしながらイメチェンしたい
toolboxの設計施工チーム、ツールボックス工事班(TBK)がかねてから抱いていた悩み。それはリノベーションの際、「フローリングをどうするか」ということ。
「最近はリフォーム済みの中古マンションも増えてきていて、フローリングが貼り替えられていることも多い。そうしたまだまだ新しく床としては問題のないフローリングを、見た目が気に入らないというだけで、お金と時間をかけて剥がして捨てて新しく貼るって、もったいないなと思って。壁や天井を塗装で仕上げることが多いから、一緒に床も塗装することで表情を変えることができないかな?と考えたんです」(工事班・一杉)
そこで思いついたのは、「フローリングを塗装して色を変える」という方法。簡単な方法に聞こえるかもしれませんが、摩擦の多い床面は、普通の塗料を塗るのではすぐにはげてきてしまいます。耐摩耗性をクリアできたら、床リフォームの新しい手立てになるのでは?ということで、塗装職人、「塗りlabo+」工藤さんの全面協力を得ながら挑戦することに。
チャレンジの舞台となったのは、ツールボックス工事班が「既存内装を極力壊さず、手を加えて空間を変える」という実験的リノベーションに取り組んだ『studyroom#1』。既存のI型キッチンを2つに切ってL型にリメイクしてみたり、和天井を切って折り上げ天井にしてみたりと、床リメイク以外にもさまざまなトライを盛り込んだ空間になっていますので、ぜひ以下の記事もチェックを。
元々のフローリングは「突板フローリング」と呼ばれる、基材のMDFに薄い突板シートが貼られたもので、ちょっとチープな印象。状態は良かったけれど、問題は色が全く違うフローリングが混ざって貼られていたこと!この見た目をなんとかしたいというのが、今回のリメイクの動機でした。
色と塗料を決める
まずは塗料の検討。「フローリングを塗る」と聞くと、オイル塗装が思い浮かぶ方が多いと思います。だけどオイル塗装は木部の内部に浸透して保護性を高めるもので、無塗装の無垢フローリングや、表面に無塗装の木が貼られた複合フローリングの場合にできること。だけど『studyroom#1』の床は突板フローリングで、オイルを塗っても浸透しないので使えません。なので今回は、塗膜を貼るタイプの水性アクリルウレタン塗料で、木目模様ごと塗りつぶすことにしました。
床は歩いたり家具を置いたりするので、普通の内装用塗料ではだんだん剥がれてきてしまいます。今回使う塗料は、塗装職人さんが自宅のテーブル仕上げに実際に使って耐摩耗性をテストしたもの。5年経っても剥がれや傷つきがなかったとのことで、提案してくれました。実際の床から切り出したサンプルに塗装して試した時も、ちょっとやすりがけをした程度では剥がれなかったので、採用に至りました。
とはいえ、塗るフローリングの種類や状況によって最適な塗料は変わってくるので、「フローリングを塗装してみたい」という場合は、塗装屋さんに相談して塗料を検討してください。
「剥がれに強いのは油性塗料だけど、乾くまでのにおいが強いんです。今回の現場は住宅でご近所への配慮もあり、においの少ない水性塗料を使いたいと思いました。昔に比べると、水性塗料もどんどん進化していて、剥がれに強いものが増えてきています」(工藤さん)
「彫る」パターンを考える
さらに今回は、既存フローリングに新たに溝を彫って、デザインパターンを変える試みも盛り込んでみました。
塗装でベタ塗りをしても、元のフローリングの目地はそのまま現れることになります。せっかく塗装でガラリと色を変えるので、「これってフローリングだったの!?」と思わせるような見た目にできたらと思ったのです。
既存のフローリングは、2種類とも板幅150mm。板一枚の長さがフローリングの種類によって違うことと、印象を大きく変えたいこともあり、正方形のパネルが並んでいるようなデザインパターンにすることに。板4枚分の幅に合わせた600×600mm間隔で溝を入れていくことにしました。
フローリングに墨出しをする
塗料とデザインパターンが決まったら、いよいよ現場で作業開始!まずは、新しく目地を彫るラインを墨出ししていきます。「墨出し」とは、壁や床や柱などに、水平線や位置の印を書き出す作業のこと。「墨つぼ」という道具を使って書いていきます。
既存のフローリングのラインと混同しないように注意しながら、線を墨出ししていきます。幅は板4枚分で600mm、長さも600mmで墨出ししていきました。
試し彫りをする
溝彫りに使うのはトリマー。先端のビットを付け替えて、面取りや溝切りなどを行う工具です。
元々のフローリングの目地よりも新しく彫る溝が目立つよう、ビットの刃の出を調整します。彫りを深くしすぎると突板フローリングの基材まで彫ってしまい、溝がガサガサになったり塗料が基材に染み込んでしまう可能性があります。今回は、基材には到達しないけど既存の目地よりも深くなるよう、2mmほど出しました。
溝彫りの作業を担当するのは、TBK工事の“特殊工事請負人”こと家具職人の瀬尾さん。
サンプルでも試したけれど、改めて試し彫りしてみます。
はっきり溝が彫れているのを確認できました。元々のフローリングの目地よりもちょっと目立つぐらいになっています。
溝を彫るためのガイドを固定する
いよいよ溝彫り本番に入っていきます。ここで取り出したのは、細長い合板の板。これを溝を彫るラインに合わせて床に固定して、トリマーを走らせる際のガイドにします。
トリマーで彫っていく
溝彫りは、部屋の端っこからスタート。これには理由があって、トリマーを途中で止めたり、ラインの途中から始めると、そこだけ深くなったり溝が太くなってしまうから。
部屋の長手ラインからやっていきます。端から端までゆっくり一定のスピードで彫っていきます。ただ、これがなかなか大変!神経を集中させながら亀のような歩みで彫り進めます。
長手のラインが彫り終わったら、次は短手方向。フローリングの板の向きに対して垂直に溝を彫っていきます。既存のフローリングを彫るので、失敗したらやり直しが効きません。ものすごく慎重に作業していきます。
端っこを彫刻刀で彫る
ガードがついているためにトリマーの刃が届かない床の端は、定規と彫刻刀を使って彫っていきます。トリマーで彫った深さと同じになるように気をつけながら作業します。
ちなみに今回使ったのはこちらの彫刻刀。「小学校の図工の時間に使ってた!」という方、いるのではないでしょうか。かくいう私もその一人。ウン十年経っても変わらないパッケージデザインに敬服。
溝彫り完了!
そうして溝彫りミッションが完了!正方形のパターンがしっかり浮かび上がりました。
塗装の下準備をする
ここからは塗装のフェーズ。塗装職人・工藤さんの登場です。まずはフローリングの表面をサンダーでやすっていきます。こうすると、フローリングの表面にざらつきが生まれ、塗料がくっつきやすくなります。
ふと工藤さんの足元を見ると、膝に何やら敷いています。「これ敷くと膝が痛くならないんだよ〜」。包装のビニールをつけたままなのは、「汚れても簡単に拭けるから」。なるほど、日々現場で汚れと戦う職人の知恵……!
続いては、仕上がりを正方形のパネル状に見せるにあたって、いらない目地をパテで埋めていきます。溝彫りの時にガイドをビス留めした時の穴もこのタイミングで埋めます。
パテで目地を埋めたら、そこを再びサンダーがけして起伏を均します。
パテが乾いたあとは、塗料の密着度を上げるためにプライマーを塗りました。今回の現場では、においが控えめなプロユースのプライマーを使いました。
プライマーはtoolboxで販売している『密着プライマー』でも代用可能です。ただしこちらはちょっとにおいが強め。下地としての使用なので、上から仕上げ塗装をすればにおいはおさまります。
一度塗りをする
塗料の準備をしていきます。塗料が入っている一斗缶から、バケットに塗料を移し替えていきます。工藤さんが手に持っているのは、ストッキングタイプの水切りネット。これに塗料を注ぐことで、小さなゴミなどを取り除くのだそう。
フローリングに塗っていきます。隅っこの部分はハケで丁寧に。
広い面はローラーで塗っていきます。
さすが職人さん!と思ったのは、最後に塗装面を脱出するためのルートを残しながら塗装を進めていたこと。昔、我が家のフローリングをオイル塗装していて手前から塗り進め、まんまと塗装面から脱出できなくなった経験を持つ私……。
「出口」の床面も塗り終えて、部屋半分の一度塗りは完了。乾燥させてから、2度塗りに入ります。塗料の乾燥時間はものによって異なりますが、今回の塗料は室温23度で2時間乾燥させたら上塗り可能でした。
二度塗りをする
一度塗りが乾いたら、仕上げの二度塗りをします。
床半分の二度塗りが終わりました。色がガラリと変わったので、半分だけでも印象が大違いです。
完成
残り半分も塗り上げて、完成!かつての継ぎはぎフローリングの面影は微塵もない、まったく新しい姿になりました。
パネル状の溝も思ったよりはっきり。タイルのような、パーケットのような、これまでにない新鮮な印象を受けます。
TBKも職人さんも初めてだった「フローリングに溝を彫って塗ってリメイクする」という試み。入念な検討と職人さんの知恵と技術で、無事成功しました!
塗装が数年後にどうなるかは、実際のところ長く使ってみないとわかりませんが、塗り重ねて修繕できるのも塗装の長所。また、塗料も随時進化しているので、より適した塗料の研究も引き続き続けたいところ。既存フローリングを活かしながらのリフォームの手立てとして、今後の現場で提案していけそうです。
瀬尾さん、工藤さん、ありがとうございました!
ツールボックス工事班|TBK
toolboxの設計施工チーム。
住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
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