狭い水まわりに、気持ちよく身支度できる洗面が欲しい!
「コンクリートブロック壁に穴を開けて、洗面台をつくる」。何を言ってるのか、ちょっとよくわからないですね……という方がいてもしかたないと思います。そのアイデアを初めて聞いた時、私もそう思いましたから。
今回のトライの舞台になったのは、ツールボックス工事班(TBK)が「既存を極力壊さず、既存を活かしながら手を加えて空間全体を変える」という実験的リノベーションに取り組んだ『studyroom#1』。築50年越え、元2LDK56㎡のマンションの水まわりは、狭小ユニットバスと極小トイレがあり、洗濯機置き場も洗面所もなし、という仕様。ここに「気持ちの良い洗面をつくりたい!」というのが、ことの発端でした。
古いマンションの水まわりはコンクリートブロック壁で囲まれていることが多く、その中に在来工法で浴室がつくられていました。この家も同様のつくりで、その後のリフォームにより、かつてタイル貼りの浴室があった部分にユニットバスがイン。その中にこじんまりした洗面器がちょこん……という状態でした。
脱衣所に洗面をつくれたら良いけれど、スペースが狭すぎる。じゃあ、どうするか。そこでTBKから出てきたのが、「コンクリートブロック壁に穴を開け、奥に飛び出すようにスペースをつくって、洗面をつくる!」というアイデア。
コンクリートブロック壁をすべて壊して、水まわりを広くつくり直す方法もあるけれど、実はブロック壁の解体はとても大変。解体時には大きな音が出るし、廃棄の際は重く、廃棄費用も高いんです。そして何より、ここ『studyroom#1』のリノベテーマは「既存の間取りや内装を極力活かす」こと。コンクリートブロック壁をなるべく壊さないで洗面所をつくる方法を考えて、このアイデアに行きつきました。
今回のリノベでは、ユニットバスを解体してシャワースタイルの浴室をつくったり、洗濯機置き場をつくったりもしました。水回りだけでなく、既存のI型キッチンを切ってL型キッチンに変えるなど、住居全体で“リメイクなリノベーション”に取り組んだ『studyroom#1』の全貌は、こちらの記事でご確認いただけますので、ぜひご覧ください。
「コンクリートブロック壁に穴を開けて、洗面台をつくってみる」。一体どんな風景が生まれるのか……!? 職人さんたちの力を借りて、挑戦してみました。
コンクリートブロック壁を解体する
いきなり今回のトライのハイライトが到来。まず行うのは、コンクリートブロック壁の解体です。
ブロック壁の解体は、大きな音の発生を伴います。近隣住民の方に、事前に工事のお知らせをしておくことと、速やかに工事を済ませることが肝心です。
隣のユニットバスが解体されて、昔懐かしいパステルカラーのタイルが貼られた壁が現れました。一部はコンクリートブロック壁が露出しています。
ゆったり洗面台を設けたいものの、ブロック壁を壊す範囲は最低限にしたいので、今回は800mm幅分を解体することにしました。
電動ハンマーを使って、ブロック壁が解体されていきます。「ドガガガガガッ」というすごい音と振動が部屋に響き渡ります。ご近所さんにどう響いているのか気になってヒヤヒヤ。今回はご近所さんに事前にしっかり説明していたこともありクレームをいただくことはありませんでしたが、この音を聞くと確かに、最小限の解体で済ませたい……!
音のこともありますが、残したいブロック壁まで壊してしまわないように、慎重に解体を進めます。
解体されたブロック壁の破片たち。部分的な解体にもかかわらず、なかなかの量です。この部屋はメゾネットで、玄関から階段を登って住居フロアがあるつくりだったので、これらの廃棄物の引き上げも大変そうでした(解体屋さん、ありがとうございます)。
そうしてブロック壁の解体作業は、1日で完了!(長引かず終わってホッ)。壁はどうなったかというと……ドーン!奥の和室に通じる穴ができました。
和室側から見ると、こんな感じ。開口部に垂れ下がっている管は電線管。この後、電気工事屋さんに入ってもらって、撤去してもらいました。
給排水管を通すための穴を床にあける
続いては洗面台の給排水管を通すために、和室側の床の一部を撤去する作業。給排水管の設置に必要な面積だけ、荒板を切って外します。
電動マルチツールで荒板をカットしたら、平バールで荒板を外していきます。
こちらも綺麗に穴があきました。
給排水管の先行配管をする
設備屋さんにお願いして、洗面台に接続する給排水管の設置をします。洗面台を取り付ける位置から、排水管を設置する位置を決めていきます。衛生設備機器を設置する前に行うこうした配管工事のことを、「先行配管」と呼びます。
今回は浴室の給排水管も一緒に引き直してもらいました。青が水、ピンクがお湯が通る管、灰色の塩ビ管が排水管。
先行配管が終わりました。切断面の荒々しいブロック壁の穴の前に給排水管がそびえ立つ光景は、なんだかシュールです。
壁をつくる
和室から穴越しに見る水まわりの眺めもいよいよ見納め。洗面台を設置する分のスペースを確保しながら、穴のまわりを壁で囲んでいきます。まずは、下地の軽量鉄骨(LGS)を組み上げます。
プラスターボードが貼られて、ブースが出来上がりました!だんだん「空間」が見えてきました。
ブロック壁の断面を“ほどほどに”補修する
プラスターボードを貼り終え、いよいよ“仕上げ”のフェーズに入っていきます。最初の作業は、左官補修。左官屋さんにお願いして、ブロック壁の断面をモルタル補修してもらいました。
とはいえ、せっかく(?)のブロック壁断面。すべて綺麗にして隠してしまうのは面白みがない。『studyroom#1』のリノベテーマは「既存の間取りや内装を極力活かす」ですから、ここに“コンクリートブロック壁があった”痕跡も活かしたい。左官屋さんにお願いして、荒々しい断面を適度に残しつつ、補修してもらいました。
洗面台の下地を取り付ける
続いては、洗面台の下地の取り付け。木で組んだ四角い枠を、ブロック壁の断面の間に取り付けました。
プラスターボードの壁に開けた四角い穴には、収納棚をはめ込みます。
壁を塗装する
壁の塗装工事も行いました。選んだ色は、露出させたブロック壁と馴染むグレー。まわりがキレイになったことで、ブロック壁断面の異質さが際立ってきました……!
洗面カウンターを取り付ける
今回、取り付ける洗面器は『人工大理石の洗面カウンター』。「コンクリートブロック壁を壊した穴のあいだに差し込んだような見た目にしたい!」と、サイズオーダーができるこちらのシンク付き洗面カウンターをセレクトして、開けた穴の幅いっぱいのサイズでオーダーしました。
あらかじめ取り付けておいた下地に、洗面カウンターを取り付けます。ぶつけて破損しないように、二人がかりで慎重に設置します。
ピッタリ!ブロック壁にあけた穴のあいだに洗面カウンターがハマりました!下地の裏側からビスを打って固定します。
洗面台の手前には、仕上げの幕板を貼ります。仕上げに選んだのは、ケヤキの無垢材。
洗面カウンターの下にピッタリ添うように取り付けます。
コンクリートブロック壁の穴に“差し込んだ”ような佇まいにしたくて、洗面台が壁面より少しだけ飛び出す仕様にしたため、洗面台の角にアールをつけて手当たりを良くします。
『人工大理石の洗面カウンター』は通常、各角に2mmの糸面取りがされているのですが、今回は特注して、この出っ張る部分の角だけ8mmのアール面取りをしてもらいました。幕板のケヤキもそれに合わせて角をやすって面取りしていきます。
やわらかさを感じる、丸みを帯びた角に仕上がりました。
棚やパーツを取り付ける
いよいよ最終段階。収納棚や照明、水栓などの器具を取り付けていきます。
まずはあらかじめ作っておいたボックス状の棚を取り付けます。壁の開口部にボンドをつけて……
パコッ!とはめ込んだら、棚の内側からビスで固定して完了!
洗面台の下にはケヤキの棚板を取り付けました。ブロック壁の断面をちょっと削って、差し込んだような形にしました。
洗面台上の照明は、洗面台全体に光を柔らかく拡散してくれる効果を期待して、ライン照明を仕込んだ下に乳白のアクリル板をはめ込みました。
正面の壁には、『メタルフレームミラー』のアルミをセット。
そして水栓と排水金物の取り付け!設備屋さんにお願いして、給水管と排水管に接続してもらいました。
完成!
「コンクリートブロック壁に穴を開けて、洗面台をつくってみる」という初めてのトライ。結果はこの通り!まさに、コンクリートブロック壁の穴に“差し込んだ”ような洗面台ができました。
ブロック壁の荒々しい断面と、洗面カウンターのシャープなライン、和家具に使われることも多いケヤキの落ち着いた雰囲気とのギャップが、オリジナリティある洗面空間をつくっています。
ちなみに、狭小ユニットバスがあった部分は、シャワーカーテンで仕切るシャワースタイルの浴室に変更しました。閉塞感を感じさせていた壁を取り払ったので、広々とした水まわりになりました。洗面台に向かって身支度をする際も、開放感が感じられそうです。
洗面台の上部は、和室側にエアコンスペースをつくりました。エアコンのドレンホースは洗面台下の排水管につなぎ、エアコンの配管パイプは給水管と一緒にリビングダイニングの床下を通してバルコニーの室外機へ接続。ブロック壁に穴を開けたことで、エアコンのなかった和室にエアコンを設置することもできました。
また、洗面の排水管を浴室側に通すためにつくったふかし壁は、『ウッドウォールパネル』を貼ってヘッドボードとして使えるようにしています。
コンクリートブロック壁の解体を部分的とすることで、解体と下地再構築の手間を抑えながら、新しいスペースをつくり出すことに挑戦した今回。古いマンションにありがちなブロック壁で囲まれた水回りは、リノベーションの場面で悩ましい存在だけど、それを個性として活かした洗面空間がつくれたことは発見でした。水回りリノベーションの新しい可能性が拓けたように思います。
職人の方々の協力と技術のおかげで、初めての挑戦は大成功に終わりました。みなさん、ありがとうございました!
ツールボックス工事班|TBK
toolboxの設計施工チーム。
住宅のリフォーム・リノベーションを専門に、オフィスや賃貸案件も手がけています。
ご予算や目的に応じ、既存や素材をうまく活かしたご提案が特徴です。
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