「キッチンの自由度」への新たな挑戦
まだ、ピンタレストやインスタグラムも普及してなかった2000年初頭。テレンス・コンランが著した分厚いキッチン解説本を買って「キッチンってこんなに自由なんだ」と、ワクワクしながら見ていた建築学生時代。
そこから20年以上経ついま、日本の各メーカー、toolboxでも様々なタイプのキッチンが発売され、製品としての選択肢は豊富になりました。
ただ、設計者のアイデアを引き出すような、カスタマイズして使いやすい、素材としてのキッチンの自由度は、まだまだ選択肢が足りないように思います。toolboxでいうと、天板だけは自由に買えるけれど、その下の収納部分は造作でつくる以外選択肢がない状態。
住まい手の要望に、オーダーキッチンでゼロから設計するのもありですが、デザイン、仕上げ材の選定はもちろん、レールなど見えない金物の選定まで、膨大な経験値が必要となり、時間もコストもかかるハードルの高い世界。
アレンジしやすい状態まで仕上がったパーツを使って自由に組み合わせながら、こだわりたいところにだけ注力し、予算のコントロールをしていくようなキッチンづくりのシステムがつくれないか。
『ユニキッチンシステム』は、住まい手の求めるものを形にしようとする設計者をサポートする、新しいキッチンづくりのシステムです。
必要な箱は揃えてあります
「ユニキッチンシステム」は、わかりやすく言うと、レゴブロックのパーツバラ売りのようなもの。キッチンを構成するのに必要なキャビネット、天板を、サイズや面材の色味を指定し、購入できる仕組みです。
キッチンとして使う時のスムーズな所作と、使わない時の佇まいの美しさを両立させるべく、造作キッチンの世界をよく知る経験豊富な開発担当が、必要なパーツを厳選していきました。
キャビネット部分は、浅いものから深いものまで対応する引き出し、開き戸、オープンタイプ、ごみ箱パーツや調味料ラックをご用意しました。
見えない部分もしっかりと。実はキャビネットキッチンにおいて、スライドレールや丁番金物は、日々の所作にも影響する大事なポイントです。数多の選択肢がある中で、今回採用した金物は、その引き出しやすさ、耐荷重、ソフトクローズの機構の観点から、一番よいと思えるスペックのものを選択しています。
また、扉のきっちりとした納まりをコントロールする調整機能は完成時のクオリティを左右します。組立時に発生してしまう微妙なゆがみに対して、3方向に調整できるタイプとなっています。
その他、国産から海外製まで、食洗機のメーカーごとに設定が異なる扉の面材と巾木のご用意。天板の厚みによって、グリルとの間に発生してしまう隙間をカバーするコンロフィラーのありようまで。
細かい仕様は、あからじめ過不足なく設定済み。設計の方が現場ごとにこだわりたい部分だけ、自由度を持たせて購入できる状況をご用意しました。
コンロ、食洗機といった設備が絡む部分は固定サイズですが、シンクとその他のキャビネットは10mm単位のサイズオーダーが可。サイド、バックパネルもサイズオーダーできるので、Ⅱ型キッチン、アイランドキッチンへのレイアウトも可能です。
選べる白系メラミン全5色から、一体感をつくりだす
キャビネット自体は、他を引き立てるシンプルな存在に徹し、空間での一体感にこだわりました。一言で白いキャビネットといっても、空間の状況に合わせて使いたい「白」って色々あります。
「コンクリート躯体などグレーの世界に合わせやすそうなグレーっぽい白と、木のあたたかみに合わせたい柔らかいベージュっぽい白はまた違う。本当に、すっきりした白を使いたいときもあるよね」といった、プロのみなさんからの声も参考に、定番のアイカの高圧メラミン品番から使えるマットな5色を選び出しました。
天板は、本体幅、コンロ・シンク位置を1mm単位で指定できるステンレス天板をご用意しましたが、他のお好きな素材の天板をご用意いただき、組み合わせていただくことも可能です。
木や石などの合わせる天板、床材、周囲の壁や天井の色とともに、微妙な色の差を拾うハマりよい「白」を選んでいただけます。
本当の意味での「システム」キッチンを目指して
実はこのキッチン、あらかじめ規定サイズでセットになったものは「ユニキッチン」として販売しています。
セットアップ済みのものをベースに「開き戸をベースにしつつ真ん中の一ヶ所だけ引出タイプを混ぜたい」「この組み合わせのサイズだけ少し変更したい」なんてアレンジも、「ユニキッチンシステム」が叶えてくれます。
アレンジの考え方は、こちらの参考資料「ユニキッチンシステム 組み合わせ例」も合わせてご覧ください。
1970年代から日本で広く普及した「システムキッチン」は、シンク、コンロ、作業台、収納部が天板によって一体的に納まったものを指す名称でした。当時としては画期的だったと思います。
そこから約半世紀。さらに進化した、目的に応じて欲しい機能を選び、構成していく、オリジナルな「システム」キッチンをつくっていける世界を目指して。
今後も、L型キッチン用のキャビネットパーツ、天板のバリエーションなどを増やしていけたらと思っています。
この「ユニキッチンシステム」を素材として設計に組み込んでいくことで、限りある設計時間は、キッチン全体を含めた空間設計や天板、パーツの素材選定、ディティール検証など、クリエイティブなことに注力できる。キッチンづくりの新しい選択肢ができることで、もっと自由なキッチンが生み出されていくことを楽しみにしています。