細部を楽しむ
ひとことに「家」と言っても、それは多くのパーツの組み合わせによって生まれます。普段は「動けばいい」くらいの、あまり気にしないラッチやアジャスターなどの小さな部品ですが、お気に入りの自転車パーツを選ぶように、住まいをカスタムする感覚で選ぶのも楽しいものです。
近くに寄らないと気が付かないようなちょっとした違いで、空間全体の雰囲気が変わるのも事実。フローリングなどの仕上げが決まったら、今度は小さなパーツに目を向けてみてはいかがでしょうか。
もちろん、パーツを先に決めてそれに合う内装材を選ぶという「通」な順番も大アリです。
荒波で揉まれたカタチ
実は今回集めたものは現役で船の上で使われているパーツたち。
一見、住宅向けの金物と変わらないように見えますが、本来使われているのは常に潮風に晒され波に揺れている海の上。実際に手に触れると分かるその重みと小気味好い操作性。独自に進化したその機能には、船舶用ならではの理由がありました。
取り付け部分は船上での急なトラブルにも対応できるように、正面からビスが見えていて、すぐ外せるようになっていたり、パーツ同士を溶接せずにボルトで固定してしていたりと、とても実用的。そうしたメンテナンス性への考慮から生まれた構造も、デザインの一部になっています。
手に取ると感じる「詰まっている感」のある重み。それはパーツを構成する素材の多くが、真鍮とステンレスでできているため。真鍮とステンレスを使っている理由は、塩分を含む海水や潮風による腐食をなるべく少なくするためであり、真鍮をクロームメッキ処理して、さらに耐食性を上げている部分もあります。
必要から生まれたカタチ、素材はまさに機能美。シンプルな仕様の室内で、パーツでアクセントをつけたい時にはもってこい。
船だけで使われているのはもったいない!
住宅以外のオフィスや店舗でも使えそうなパーツ群です。
何に使う?
どれも「何か」に使えそうなパーツたちですが、船上ではどのように使われているのでしょうか。
例えば「スカットルハンガー」は、船によく設置されている「丸窓」を開いたときに、振動で閉まらないように引っ掛けるハンガーです。真鍮とガラスでできた丸窓は非常に重たいため、このハンガーも重量に耐えられるよう丈夫に作られています。棚下につけてキッチンツールをかけたり、天井に取り付けて重いアウトドアギアの収納に使ったりできそう。
「ワードローブアジャスター」は収納扉の上部に取り付けて、扉がバタバタと暴れないようにするための金具です。真鍮にクロームメッキを施した存在感は小物入れやクローゼット扉のアクセントにもってこいです。
「プッシュラッチ」は扉に取り付ける金具ですが、扉には丸い穴をあけるだけで取り付けができるつくりがユニークです。本来は船の揺れで扉が開かないようにするためのパーツで、ボタンを押すとラッチが開きます。把手やつまみと合わせて収納扉などに使えそうです。
どれも本来の用途はありますが、可能性は無限大。「こんな使い方をした」というご報告、お待ちしております。
歴史とロマンのあるパーツ
この金物シリーズは、昭和6年から半世紀以上も船舶向けにパーツを作り続けているメーカーのものです。海上という過酷な環境に耐えうるように、材料を選び改良を重ねつくり続けられています。一時は世界シェア80%を占めるまで広がりをみせ、現在でも世界各国の船舶に使われていることが、その性能が信頼されている証拠です。
フェリーや貨物船で使われ、世界各国を旅しているロマン溢れるパーツでもあります。異国の地で乗った船の中で、自宅と同じパーツに出会う。そんな素敵な出来事が起こることもあるかもしれません。