日本の壁紙
この壁紙は長野の絹糸100%の織物に1500年の歴史がある福井の越前紙を裏打ち加工した壁紙です。絹を使った布を絹布(けんぷ)と読みます。
こういうと漏れなく「伝統」という言葉が付いて回りますが、そもそも日本での壁紙の歴史は浅いです。量産品を除くと色や柄がどれも日本的ではないことにお気づきでしょうか。
これだけ壁紙が普及しているのに、日本的な物って実は少ないんですよね。
伝統を守ろうということだけを言いたいわけではないのですが、それでも日本のくすんだ空の光には、日本的な素材の色がやっぱり感覚的にすっと馴染んでいくと思うんです。大味な柄でもビビッドな色でもなく、繊細にとけ込んでいく佇まい。
誤解を恐れずに言えば、絹布の壁紙は伝統的な技術を転用しながら、ようやく誕生した日本ならではの壁紙なのではと思ってしまいます。
絹と和紙が生み出す色彩
この壁紙は全部で52色。そのすべてに「青朽葉(あおくちば)」や「煤竹(すすたけ)」、「薄江戸紫」というモチーフや時代を連想させる日本の色の名前がつけられています。どれも優しい色合いでそれが見る角度や光の当たり方で変化する。
絹と越前紙の色の組み合わせ方で変わるようなのですが、その色の差が大きいほど、色彩の変化が大きくなります。正面から見ると絹の奥の紙が透けて2色が混ざった色合いに見え、斜めから見ると絹自体の色が強くなる。
これは透けるほど薄い絹を貼り合わせる技術があるからこそ起きる現象なんですが、こんな繊細で控えめな主張をする壁紙ってやっぱり日本的。
柔らかい光沢をもつ絹によって、その色彩の幅はさらに増大し、まるで光を呼吸しているかのように反射したり陰影をつくったり、様々に色彩を放ちます。
残された技術
このなんとも繊細な壁紙をつくるのは福井の梅田シルクさん。代々、紙漉きに従事してきた家系で、家族3人でつくっています。
非常に薄い絹の生地を越前紙に貼り込む技術は、もうここにしか残っておらず、熟練の技術と丁寧な手作業でこそ成し得る技。
手作りの素材を手作業で加工していくことで、表情が1枚1枚異なる仕上がりになります。
また絹糸が紡がれているものをつかっているので、横糸に点々と「紬ぎ」として色が濃く現れてきます。和服の生地でも見かけるあれなのですが、不規則にでてくる紬ぎが織物であることを思い出させ、一層柔らかさを増していきます。
こちらの壁紙は「雅(みやび)」と「襲(かさね)」の2種類があります。雅は下の紙に金紙を使っています。そのため、光沢が強くきらっとした表情がでます。襲は素朴な越前紙の色に絹を重ねています。着物を着重ねていくことで色合いを表現する言葉からきています。
日本の技術でありながら、現代の住空間にフィットしていく壁紙。窓からの光が伝うように映り込み、空間を柔らかくしてくれます。寝室の1面や家具の一部になど、アクセントとして取り入れてみてはいかがでしょう。