「全部を変える必要はないけれど、“ここだけ”でも変えたらもっと快適に暮らせそう」
そんなふうに思ったことはありませんか?

今回ご紹介するのは、家全体を大きく変えるのではなく、自分たちに必要な箇所だけ手を加えた部分リノベーションの事例。「気になるところだけ」ほんの少し変えるだけでも、暮らしはぐっと豊かになる。そんなことに気づかせてくれる住まいです。

解体跡を活かした「絆創膏」のアイデア

既存を解体した箇所ですが、実は目に見える形でその痕跡が残されています。そのヒントとなるのが、天井や壁に現れた水色のライン。

解体した部分を完全に補修するのは、とても手間のかかる作業。そこで、この住まいではあえて「馴染ませない」を選択。解体痕を木フレームで覆い水色に塗装することで、空間のデザイン要素として生かしました。

「この木フレームは、いわば傷を癒す絆創膏のようなものなんです」とは、設計監修を担当した矢﨑さん。

なるほど、面白い発想…!新旧の境目を馴染ませるのではなく、あえて強調させることで新たなストーリーとして空間に取り込む、ユニークなアイデアです。

before

after

「リビングからの眺望を生かした、開放的な間取りにしたい」

そんなお施主さまの希望を叶えるために、リビングに隣接した和室や奥の収納を解体し、中廊下→リビング→寝室→中廊下…といった回遊性のある動線を確保しました。

お子さまが元気に駆け回れる、くるくると回遊できる動線が誕生。

目隠し効果を持たせつつ、柔らかな光を取り入れられるようブロンズ色の中空ポリカーボネートを採用。かわいいスパイが潜んでいます。

引き戸を開け放てば、風が奥の居室まで心地よく通り抜ける広々とした一体感を感じる空間に。引き戸を閉じれば、それぞれの居室が落ち着いたプライベート空間に早変わり。

家族みんなで過ごしたいときも、自分だけのひとり時間を大切にしたいときも、どちらのシーンにも柔軟に対応できる間取りに仕上がりました。

デザインと実用性を兼ね備えた、暮らしの「骨格」

水色に塗装された木のフレームと並び目を引くのは、部屋を横断するように挿入された鉄のフレーム。

黒いラインが入ることで空間全体が引き締まり、整然とした印象に。空間を整えるガイドのような役割を果たす一方で、建具や収納、飾り棚としての実用性も兼ね備えています。

リビングの入り口からキッチン、新たな居室、廊下に続く床材には、暗めのトーンのフロアタイルを採用。リビングダイニングには、無垢フローリングの「継ぎ無垢フローリング アカシア ブラウン」を使用し、落ち着いた雰囲気に。異なる素材の切り替えが、空間にメリハリをもたらしています。

リビング扉には丸窓をあしらい、廊下の壁や建具は既存を活かしつつ、表面を淡い水色に塗装。

船舶窓を思わせる丸窓と柔らかな水色が織りなす空間は、まるで潜水艦の内部に足を踏み入れたかのよう。静けさの中に、冒険心をくすぐるワクワク感が漂います。

既存を活かしながら、新しい要素を取り入れることで、家族の暮らしに寄り添う快適な空間に生まれ変わった住まい。
全面改装せずとも、必要な箇所にだけ手を加えることで、理想の暮らしが実現できる。そんな部分リノベーションの可能性を感じさせてくれる事例です。

「全部を変えるのは不安だけど、少しだけなら」――そんなふうに考えられている方に、ぜひ参考にしてほしいアイデアが詰まっています。

 

(写真提供:中島悠二)

塩入勇生+矢﨑亮大 | ARCHIDIVISION

住宅の新築、リノベーションの設計を中心に、店舗・オフィスの内装、家具デザインまで幅広く手掛ける設計事務所です。
限られた予算の中でも実現したい空間について、お客さまと話し合いを重ね、工夫しながら提案できるように心がけています。

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