今回ご紹介するのは、建築設計事務所・高橋建築設計オフィスを営む高橋一真さんの自邸。妻との二人暮らしで、群馬県内の住宅地に建坪約20坪の平屋を建てました。

内部は、LDKとベッドスペースが一体になり、ロフトまで繋がったワンルーム。天井高さは3.7mあり、頭上の開放感は抜群!さらに、正方形のフロアに対して、ロフトやキッチンが斜めに配置されており、天井の根太のラインと相まって、視線が縦にも横にも斜めにも伸び、空間に広がりを感じさせています。

ロフト下のベッドスペースは、天井高さを控えめにして、落ち着いて休める場所に。お客さんが来た時に隠せるよう、レースカーテンで仕切れるようにしていますが、いつも開けっ放しだそう。

「高さ」による工夫は、庭に面した掃き出し窓にもありました。一般的な掃き出し窓の高さは200〜220cmあるところ、この窓の有効高さはちょっと低めの180cm弱。窓が高いと空へと目線が促されますが、窓の重心を低くすることで、庭へ意識を向けやすくしています。

掃き出し窓の高さを抑えたのには、夏の暑い日差しを遮る狙いもあったそう。窓の上の壁の面積が増え、天井がより高く感じられるようにもなりました。

「植物が大好きで、いつでも庭が見られるようにしたかった」と高橋さん。夫婦で木々を選び、手ずから植栽したお気に入りの庭は、ベッドで目覚めた時、キッチンで料理をしている時、ダイニングで食事をしたり、ロフトで読書に耽っている時も眺めることができ、庭の緑を身近に感じる暮らしを送っています。

植物好きの高橋さん夫妻は、自然を感じる素材も大好き。内装仕上げには、本漆喰やモールテックスなどの左官材を使ったり、木目の主張がある構造用合板や特注の木製サッシなど、木の素材も多用しています。

そんな中、キッチンの腰壁の仕上げに選んだのは、『クラシックリブパネル』。建具や天井に使われた構造用合板のラフな雰囲気に対し、シャープな形状の『クラシックリブパネル』を取り入れて、メリハリをつくっています。リブパネルの縦ラインは意識を上方向へも導いて、天井高さの強調にも役立っています。

腰壁の裏にあるキッチンは、構造用合板とモールテックス仕上げの天板で造作されていました。金物は『オーダーマルチバー』の鉄に真鍮色の水栓を組み合わせて、ラフ過ぎない洗練された印象をつくっているところに唸らされます。

そして正面奥に見えるレンジフードは、高橋さんが「一目惚れでした」と話す『オーダーレンジフード』。サイズオーダーできて壁幅にピッタリおさめられることと、高さ25cmというコンパクトさに惹かれて採用したそう。コンロ周りの壁には『塗装のキッチンパネル』もお使いいただきました。

キッチン背面の棚に並んでいるのがCDというのも、いいですね。お気に入りの音楽を選んで、その曲を聴きながら料理を始めたり、コーヒーを淹れたり。そんな暮らしのシーンを想像して、豊かさを感じました。

浴室も、素材にこだわった空間。全面がモールテックスで仕上げられています。庭の緑を眺めながら、朝風呂や昼風呂がしたくなる空間ですね。木製サッシの先にはウッドデッキがあり、浴室は洗濯物を干しに行く動線も兼ねています。

洗面空間は浴室と一体になっていて、洗面台もモールテックスで仕上げられています。タオル掛けにした『オーダーマルチバー』は水栓とお揃いの真鍮製。シンクは排水口が端にある片流れの形状になっており、水栓もサイドから壁出しにして、中でグリーンの手入れがしやすいようにしています。

水栓を横から壁出しにしたことで余裕が生まれたシンク下には、なんとエアコンが設置されています。ヒートショック対策や洗濯物の乾燥にも役立つエアコンを採用しつつ、空間には露出させない。アイデアの光る洗面空間です。

木の箱の中のようなこもり感があるトイレには、『陶器の手洗い器 角240 ホワイト』と『洗面水栓 TT-1:スパウトレバー単水栓 ベントネック クローム』、そして『ミニマルペーパーホルダー』がいました。

「カウンター天板と『ミニマルペーパーホルダー』は端を突き合わせているんですが、板厚とバーの太さがピッタリで密かに感動しました(笑)」(高橋さん)

シンプルなワンルームという間取り、庭の眺め、自然を感じる素材使い。家づくりをする中で大事にしたそれらを、「僕たちらしさ」と話す高橋さん。寝室の上から浴室の上まで、L型に続いているロフトも、高橋さん夫妻が「自分たちらしさ」を楽しむ場所です。

撮影:高橋一真

そこには、高橋さんのコレクションフィギュアが飾られていたり、妻の趣味である油絵の作品が飾られていたり。ロフトの一角には本棚も作られており、読書や手芸など、趣味の時間を過ごしています。納戸やゲストが泊まる場所としても活躍しているそう。

建坪20坪とコンパクトなサイズながら、その数字のイメージを裏切る広がりを感じる高橋さんの家。「大きな家よりも、身の丈に合ったシンプルで暮らしやすい家が欲しかった」と話す高橋さん。総2階の建物にして床面積を増やすこともできるけれど、そうしなかったのは、広さよりも「暮らしの豊かさ」を大事にしたかったから。

高橋さんの言う「豊かさ」とは、例えば、旅行に行ったり、美味しいものを食べたり、その時欲しいものを手に入れたりといった、日々の暮らしを楽しむこと。床面積を増やしたり壁をたくさんつくれば、その分建築コストは上がります。生活に必要な最低限のスケールの家にして建築コストを抑え、日々の暮らしを楽しむゆとりを持ち続けられるようにしたいという気持ちが、この家づくりのベースにありました。

スケールもコストも身の丈に合った住まいで、そこから広がっていく暮らしを軽やかに謳歌する。家づくりとは、「やりたい暮らしを叶える場所をつくる」ということなんだなと、改めて思わされる事例でした。

(特記のない写真/撮影:柳沢径孝)

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

高橋建築設計オフィス

群馬県伊勢崎市に拠点を構える、高橋一真が所長を務める一級建築士事務所その家に住む人・その空間を使う人のライフスタイルや要望に沿った提案を大前提に、コミュニケーションを重視し、「その人らしさ」を大切にした建物づくりに取り組んでいます。

テキスト:サトウ

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