元々ご両親がお住まいだったハウスメーカー仕様の木造戸建を受け継がれたのは、設計のお仕事をされているお施主様。ご自身やご家族のライフスタイルに合ったリノベーションをされました。
木造住宅と一口にいっても、その構造にはいくつか種類があります。日本の住宅に多いのは、柱や梁、筋交いなど“線”で建物を支える「在来工法」。在来工法は間取りの自由度が高く、吹き抜けや大きな開口など可能という特徴を持っています。それに対し、北米生まれの「ツーバイフォー工法」。こちらは、床や壁などの”面”で支える建築工法で、2×4サイズの木材と構造用面材で作られた“面”が構造となります。
耐火性・耐震性・気密性に優れており、強固で頼れるパワータイプ!なツーバイフォー工法。しかし課題として、壁(面)で構造耐力を確保しているという特性上、在来工法ほど自由に壁を抜いたりすることができないので、リノベーションにおいて間取りを変更することが難しいとされています。
今回の事例は、そんなツーバイフォー工法で建てられた住宅のリノベーションです。
「必要な壁は残しながらも、回遊動線を意識。各エリアにつながりを感じながら、あちこちに滞在できる場所を設けました」というお施主様の言葉の通り、そこまで大きな間取り変更はされておりません。
少しだけ壁を抜き、通り道を増やすことで、ストレスなく各所へアクセスできるようになりました。さらに各エリアはゆるやかにつながり、今までは一方通行だったキッチンや各居室たちに動きが生まれました。
キッチンには「オーダーキッチン天板」を採用いただきました。こちらのキッチンは、シンクとコンロが2列に分かれたいわゆる「二型キッチン」の配置。シンプルなステンレスの天板ですが、バイブレーション加工をかけているので、業務用感が出過ぎず異素材たちとも馴染みヨシ。「ニッケルサテン水栓」のシルキーな表情が、天板のバイブレーション加工にもよくマッチしています。
マットな木面材に、ツヤのあるタイルのコントラストが印象的。タイルもペールグリーンのような、アイスブルーのような絶妙なカラーで、ひとつひとつ表情が違うのも素敵ですね。
とっても明るいリビング。漆喰のやさしいオフホワイトと朝鮮貼りのフローリング、そしてテレビ背面壁のラワン材がぱっと目に飛び込んできます。造作テレビ台の天板には「フリーカット無垢材 ナラ」を採用いただきました。フロートタイプなので足元はすっきりと。ボックスではなく、上下の天板がスッと伸びている形状。心地よい余白です。
窓辺に寄り添うアイテムとして「セルヴィッチリネンカーテン」をチョイス。リネンの粗めな織目から溢れる光は、漆喰壁のムラ感が生み出す陰影ととても相性がいいです。
窓に施された木枠は、既存の樹脂サッシを隠すために設置されたとのこと。シンプルな格子ながら、この存在は大きく意匠性をグッと高めてくれています。こだわりの窓は空間の質を引き上げてくれる、ということに改めて気付かされました。
その窓辺には、余ったフローリングを利用し、造作ベンチ兼収納。床と同じ材にすることで空間の統一感が出ますし、ちょっと腰掛けスペースに収納機能まで。しかも、現場で出た材の余りの有効活用……!一石三鳥?四鳥?!隣り合う畳スペースと繋がっているのも、空間のコンセプトである「つづきを感じる」にもピッタリです。
小上がりの畳コーナー。年々、畳っていいよな……と魅力を感じてやまないのですが、小上がりになっていることでもちろん腰を掛けられますし、同じ空間のスタディスペースとのメリハリが効いています。
窓を開けて、でも障子は閉めて。ごろっと畳に転がる……うーん、妄想しただけで至福の時間。植栽の木漏れ日が漏れてきたりなんかして……と、つい妄想が広がってしまいました。
先ほどのお部屋を出ると玄関が。洗面コーナーは、天井・壁の材が統一されており、空間としてすっきりとまとまっています。
また注目していただきたいのは、階段の手摺。ただの木の手摺ではございません……!既存の手摺に対して施されたのは、お施主様自ら施工された「ラタン巻きつけ」。ラタンの質感がアクセントになるだけでなく、握り心地も優しくなったそう。
1階はフローリング貼り、2階はリノリウム貼りのため、階段の踊り場で切り替わっているのも面白いポイント。そして2階にもしっかり回誘動線!中央をぐるりと回遊できる間取りで、家族みんなが通る場所は図書スペースに。図書や雑誌だけでなく、お子様の絵本も集まり、ご家族のコミュニケーションが生まれる空間となっています。
こちらの建具のドアハンドルの部分、なんだろう?と思っていたのですが、把手部分に無垢材が埋め込まれているそう。木が入ることでラインができ、きゅっと引き締まります。真鍮のレバーハンドルもワンポイントで引き立っていますね。とっても愛らしい!
随所に素材を感じながら暮らせるような工夫が凝らされているこちらのお宅。私が特に素敵だなぁと思ったのは、お施主様が自ら手を動かしご友人と一緒に施工して作り上げたということ。お施主様は設計の方、つまり建築のプロではありますが、自分が住まう空間をこれだけ施工するというのはたとえプロの方でもとても大変なものです。漆喰の左官ムラや、自ら材木屋さんへ行って悩んで選んだ材。自分たちで作り上げた場所は、愛おしさもひとしおではないでしょうか。
ご両親から受け継ぎ、愛情たっぷりに変化したお家。これからどんどんご家族の形にフィットし、変化していく様子が楽しみですね。
素敵な事例をお送りいただき、本当にありがとうございました!