こちらの物件にお住まいのお客様、古民家再生の設計をしているお母様の影響で、「スクラップ&ビルドではなく、古いものを補修しながら『住み継いでいく』」という価値観の中で育ったといいます。
さらにご自身が京都に住んでいることと、海外や日本の伝統的家屋がお好きだったこともあり、「京町家をリノベーションして住みたい!」と思ったとのこと。
ただその京町家の流通事情、実は結構複雑なんです。
「町家はメンテナンスの難しさや、所有者の高齢化の影響でどんどん数を減らしている一方で、商業利用も活発なので競争率が高く、なかなか一般的には出回っていません。ですが京町家を専門で扱っている素敵な不動産屋さんとの出会いもあり、3年間粘って今回の物件と出会いました。」
そんな形で出会った京町家。その古き良き特徴を活かし、お客様らしい形で住み継いでいる様子をご紹介していきます。まずはこちらの玄関土間から。
「建具は古い家に残っていたものを補修したり、古建具を専門で扱っているお店で気に入ったものを仕入れたのち、補修して再利用しています。」とお客様。
通りに面した格子窓にゆらぎガラスを使い、昔の町家空間を再現しています。「うなぎの寝床」といわれるように、細長い敷地に建つ京町家はこのようにして、プライベートを守りながら、採光や通風を得るのが特徴なんです。
そんな玄関土間の一角にはシューズクロークが。
箒などの小道具を掛けるためにご選定いただいたのは『オーダーマルチバー φ12 真鍮』です。サイズオーダーもできるので、このようにピッタリと収めることができます。真鍮の上品な佇まいが伝統的な空間にも似合っていますね。
続いて、玄関から上がってすぐの場所にある和室へ。
こちらは、お客様をおもてなしできる空間として使ったり、中央の畳を外すと掘りごたつにもなるので、冬は家族でお鍋を囲んだりして使うとのこと。
ご自身で探したアンティーク照明を吊り下げたり、掛け軸の代わりに絵を飾ったりしているところに、お客様らしさが表れていて、いっそう素敵な和室になっています。
その和室、襖の把手には『真鍮金物 とって浮六角』をご選定いただきました。こちらの商品、真鍮なので日常生活の中で触っていると少しずつ経年変化をしていきます。時が経つに連れてどんどんとこの空間に馴染んでいくのではないでしょうか。
そして、「京町家が持つ伝統的価値観をできるだけ継承したい。」と考えていたお客様。
「間取りは大幅に変えず、元々ある天井の梁を見せたり、状態の良い土壁を残したり、柱や床板を再利用していたりします。」といいます。例えばこちらの間取り。玄関から一続きに土間が伸びています。
このように、入り口から奥まで細長い土間が続く、「通り庭」という京町家ならではの間取りを、そのまま継承しました。その「通り庭」は細かく分けると、道路に面した部分は「見世庭」、通り庭の中間部分は「走り庭」と言うそうです。
「走り庭」は昔から炊事場として使われているスペースで、リノベーション後も使い方は変わらずキッチン空間に。モルタルベースのフロアキャビネットにステンレスの天板を載せて、和の空間の中でインダストリアルに佇みます。
そんなインダストリアルな雰囲気に合わせ、調理器具を掛けるために『オーダーマルチバー φ12 ステンレス』(写真左)と、壁付け照明に『工業系レセップ』(写真右)をお選びいただきました。
さてここまでは、京町家の特徴を活かした空間のご紹介をしてきましたが、続いてご紹介する洗面室とランドリースペースは、雰囲気がガラッと変わります。
白タイルの壁面に、黒いハニカムタイルの床で構成されたこの空間。京町家からは想像がつかない、西欧の雰囲気が感じられます。実はここが、お客様1番のお気に入りとのこと。
「お風呂・洗面・トイレは流用できる状態になく、リノベを機に刷新したため、好きなものを思い切り詰め込んだ空間にしました。朝起きた時に白いタイルが光を拡散してくれていつも明るく、タイルの清潔感と相まって、とても気持ちのいい空間なのがお気に入りです。」
そんな洗面室に『アメリカンスイッチ』を使っていただきました。ステンレス製の洗面パーツ類と共に、モノトーンの空間にアクセントを加えています。
ランドリースペースには『アイアンハンガーパイプ 』をご採用いただきました。
『吊りパイプ L480 ブラック』、『水平パイプ L1400 ブラック』、『90°エルボ ブラック』、『フランジ ブラック』を単品でひとつずつ購入し、組み合わせています。
組み立てられたサイズオーダー品は人気商品のため、なかなか購入できないとお悩みの方には、このように単品を購入してご自身で組み立てるというのもおすすめです。
「全部を新しくするのではなく、昔の姿のまま残せるところは残して、和風だけではない海外のヴィンテージ要素を盛り込みつつ、住む上での快適さも取り入れたい。」と考えていたお客様。
ここまでご紹介してきたお部屋を見ていただくとわかるように、お客様ご自身の、お家に対する理想が見事に叶えられていました。
それができた理由のひとつとして、使う建材などを自分で探して手配する「施主支給」という方法を多く取り入れたことがあるのではと思います。
「施主支給」とは簡単に言うと、家づくりの際に「設備・建材の発注業務を施工会社の代わりに務める」こと。もちろん発注の責任や負担もありますし、設計士さんや施工会社さんと綿密なコミュ二ケーションが必要ですが、その分空間をより自分好みにできるメリットがあるんです。
こちらの2階の子供室でも、お客様自ら手配したパーツが取り入れられています。
造作のデスクと、デザインが施された昔ながらのすりガラス。そして天井を見上げると、昔の大工さんが組み上げたのでしょうか、立派な梁が現れます。
そのお部屋に入るドアの把手に『船舶ドアパーツ』をお選びいただいています。和とも洋とも言えそうなお部屋に、海を渡る船で使われていた「船舶ドアパーツ」はぴったりなのかもしれないですね。
最後に、そのお隣の寝室を覗いてみましょう。
「ベットボードは地元である岡山の材木屋さんで廃棄一歩手前のボロボロの古材を買って、工務店さんに作成してもらいました。」とお客様。
塗装も絶妙な色合いがなかなか出なかったので塗料メーカーまで足を運び、自分で調合したそうです。本当に細かいところまでこだわって、家づくりをされたことが伝わってきます。
お客様は今回のリノベーションを振り返り、「洗面所やキッチンのインダストリアルな雰囲気が内心、京町家と合うかなとドキドキしていましたが、完成したお家を見ると違和感なく溶け込んでいました。」と言います。
そんな印象から、施主支給でご選定いただいたtoolboxの商品たちを「和洋年代問わず、どんなテイストの住居でもなじんでしまう『繋ぎ役』」と表現していただきました。
残す部分と新しくする部分のバランスを大事に、施主支給で作り上げたお家。どの空間にもお客様らしさが表れていました。
そしてそんな家づくりができたのは「かなり面倒な施主だったと思いますが最後まで粘り強くお付き合いいただきました。」と、協力してくれた工務店さんへの感謝の気持ちを大切にしているからこそ。
「京町家が持つ伝統的価値観をできるだけ継承しながらも、インダストリアルな要素や西欧のヴィンテージの雰囲気も取り込みたい」という価値観を、使うものや空間のひとつひとつに反映させ、お客様らしい形で住み継いだ、そんな京町家のご紹介でした。
(白鳥)