自由が丘にほど近い、一見普通のマンション。しかし、玄関を開けるとそこには見慣れた玄関と廊下ではなく、素敵な仕事場が広がっていた。
照明などは自分で購入したものを支給。
自ら現場監督に
ここはイラストレーター宮内ヨシオさんの自宅兼アトリエ。
もともと3LDKのプランで家族3人で暮らしつつ、その内の1部屋を仕事場として使っていたのだが、共用廊下側の2部屋と玄関をつなげてプランを変更、あたらしい仕事場へと生まれ変わらせた。これだけ見ると、よくあるいい感じのリノベーション例。ところが、この改装は通常とは少しだけやり方が違っていた。
まず、工事手配の仕方。最初は普通にいくつかの内装業者に見積を依頼したりしていたのだが、最終的にコストメリットの面から、知人を通じて知り合った職人さんに直接工事を依頼したのだ。
セルフビルドで空間を自分でつくるのとはまた違う、いわゆるセルフ現場監督。通常工務店や設計者が行うような現場への指示を自分で行いながらこの空間の改装を進めたのである。
普通なかなかできないやり方だが、たまたま奥さんが以前設計関係の仕事をしていたこと、そしてイラストレーターという仕事柄、図面的なものが簡単に描けることがそれを可能にしたのだ。職人さんもとてもいい方で、宮内さんの要望を実現すべくいろいろと相談にのってくれたそう。
そして何よりよかったところとしては、自分で材料やパーツを選んで支給して取付けをお願いできたこと。時には職人さんと一緒にホームセンターや材木屋に出向き、相談しながら材料を調達したという。自分でじっくり選んだ素材だからこそ愛着もわき、納得感も大きいのだ。
ドアノブも自分で調達。
コミュニケーションの難しさ
しかし、いいことばかりだけでなく、苦労もある。
リノベーションに慣れない職人さんだったため、仕上げの指示などがすんなりとは伝わらなかったそう。
職人さんが施工中の様子。
職人さん的には、「ほんとにいいの?」という感覚なのだが、結果できた壁はなんとも面白い凸凹仕上げの壁。
その他にも、天井を吊っていたボルトをそのまま残しておもちゃを吊ってみたりと、普通は壊してしまうところを残して実にうまく使っている。
ボードを撤去後に出てきたGLボンドの跡。
そうしたことの積み重ねで、職人さんの戸惑いも多く予定よりも工期が延びてしまったそうだが、最終的には思い通りの空間に仕上がった。
こうしたことは、リノベーションの現場ならではの出来事。我々プロの設計が監理をしていても常におこりうることだ。それをとっさの判断で剥がして出てきたところをうまく見せてしまうのは、宮内さんのセンスによるところだと言えよう。
住みながらリノベーション
そしてもうひとつ、この改装の特徴だったところが、住戸の半分だけを改装したということ。
住戸プランと改装エリア。
玄関側のエリアだけを工事対象範囲とし、奥では普通に生活を続けていた。住みながらリノベーションしたわけだ。
リノベーションというと、最初に物件を購入したときに一気にやってしまうのが一般的で、部分的に改装を行うことはあまり想定しない。ところが宮内さんは生活スタイルに応じて少しずつ変えていくことを考えていた。
なので今回もエリアを限定しての工事。普段廊下として使っていたところが玄関となり、工事現場を通りながら出入りする生活がしばらく続いた。もちろん不便ではあるが、工期はほんの数週間。我慢できる範囲だ。
引越などを行うことを考えたらもっと大変だし手間もお金もかかる。それを考えたら合理的な方法といえよう。
それと、もう一ついいことがあった。それは常に現場の進捗を確かめられること。現場に常駐しているようなものなので、常に細かな施工状況の確認ができたことがよかったそうだ。またチェックをするだけでなく、職人さんの作業を見たり、素材や工法についていろいろ会話をするのは、とても楽しい経験だったという。
そうしてつくられたこの空間。宮内さんの仕事場であると同時に、家族にとっては玄関でもある。
共用廊下側の窓も気兼ねなく開けられ、外から中が伺える様子は、なんとなく昔の商店のような、路面で商売をしつつ奥で生活をする感じに似ているような気がした。それが普通のマンションでできているから面白い。
土足エリアの床は『足場板』。
継続する楽しみ
実はこの改装が終わってすぐに、宮内さん一家は4人家族へとなった。2人目のお子さんが生まれたのである。
そのため宮内さんは、リビング側の空間を仕切って部屋を増やすための建具を注文していた。生活の変化とともにそれに合わせて常に少しずつ内装をカスタムしているのだ。
隅に置かれた奥さん考案の猫のトイレ。これはかわいい!
今回の宮内さんのように、素材やパーツを自分で選んでそれを施工してもらったり、必要に応じて部分的に改装を行っていくやり方を望む人は多いのではないだろうか。デザイナーに頼むでもなく、かといってセルフビルドで全て自分で施工するとも違う中間的な方法だ。
実際そうして改装を行った宮内さんに話しを伺うと、とても楽しみながら空間づくりが行えた様子で、空間に愛着が持てているようだった。
toolboxが提供する商品・サービスを通じてお客さんに感じてもらいたいことは、まさにそういうところ。
今回の取材を通じて大きなヒントを貰えた気がした。
PCに向かう宮内さんと、今回つくった収納棚。