神奈川県・鎌倉エリアを中心に古民家のリノベーションを得意とする設計の宮田さん。
35年来のご友人に依頼されたヴィンテージマンションのリノベーションは、マンション特有の共用廊下などを感じさせない、オリジナルな世界観が広がっていました。
コンクリートの躯体壁、白塗装に白タイル、赤茶のラワン、ステンレス、土間タイルのグレー。よくよくみると、各素材が絶妙なバランスで配置されたキッチン空間。
その設計意図を伺ってみると
「解体してみたらキレイな躯体があまり出てこなかったので、数少ないキレイな打ち放し面は極力残そうと。つまりタイルを貼った部分の躯体は汚かったわけです(笑)。リノベは即興ですね。図面通りにはいかない、お題を出されてそれに答える、みたいなところがリノベの醍醐味でもあります。」
と、なんとも痛快な回答をいただきました。この空間だからこそ生まれた景色ともいえますね。
業務用としてプロの厨房でも活躍している『ハンガーパイプ』、長さオーダーのできる『オーダーマルチバー』、シャープな『フラットレンジフード』など、インダストリアルな印象のアイテムが多いのに、昭和のモダニズム住宅のようにどこか懐かしいような雰囲気も。木の縦ラインが効いたラワンの造作カウンターとキッチン、床に広がる『土間タイル』がそう感じさせるのでしょうか。
キッチンのシンク前にはタオル掛けを兼ねた『オーダーマルチバー』、コンロ脇の細長いスペースには『溶融亜鉛メッキの把手』W100タイプが付けられています。
キッチン正面のタイル面には、低い位置にスパイス等を置くための『陶器のラック』。横長の『オーダーマルチバー』はキッチンツール掛けに。さらに上にお鍋などを置ける『パイプラック』と、料理好きの奥様が使いやすいようパーツたちが配置されています。給湯器のパネル上にある手元灯は、『工業系レセップ』のソケットホワイト。
『土間タイル』とフローリングの境目の天井付近にご注目。
白く吹き付け塗装された躯体天井に走る木の角材。実はこれ、ライティングレールは使いたくない、照明はできるだけシンプルなものを吊るしたいと、配線隠しを兼ねてアクセントのようにつけられたもの。
等間隔で『真鍮ソケットコード』が吊るされています。
マンション南面のバルコニーがある掃き出し窓には障子がはめられています。障子越しの柔らかな光あたる『土間タイル』がそれだけで絵になりますね。
この障子使い、設計の宮田さんの手掛けた空間には必ずといっていいほど入るアイテム。
『インダストリアルなだけの空間は、その雰囲気に飽きると全部が飽きてしまう。和のエレメントだったり、いろいろなテイストをうまく混ぜあわせることで、長く住み続けられるような雰囲気をつくりだしているんです。障子は、薄い紙一枚ですが結構断熱効果もあるんですよ。』
と、教えていただきました。
寝室正面の壁は、モルタル左官仕上げ。躯体のコンクリートがあまりきれいでなかったために薄化粧したそうです。モルタルのグレーの壁に白い『陶器のラック』が絵になりますね。
実はこの連続した障子の左側には玄関から続く廊下があるんです。玄関から寝室が丸見えになるのを防ぎつつ、室内側からは、マンションであることを全く感じさせないようなつくりに。
『陶器のラック』の横は玄関のため、帰ってきたら障子を少しあけ、このラックに鍵などの小物を置くようにこの高さに設置されたそうです。
スケルトンにして、ゼロから構築したのに、どこか懐かしさも残るような、今後傷がついていってもいい味として育っていきそうな大人の空間。同じマンション内の方が遊びに来られると、驚きと感動がさらに大きそうですね。
ありがとうございました。
(来生)
宮田一彦アトリエ
古家の改修が大好物な鎌倉の設計事務所です。
現状残された要素を自分なりに解釈して住みやすい空間に再構築。 傷や汚れも「味」に思える空間が理想です。 懐古趣味ではないれけど、ベースである古家へ敬意を払う。そんな想いで設計しています。