72㎡のワンルームと聞くと、まるでアートギャラリーのような、物が少なく最小限の壁のみで構成された広々とした空間を想像するのではないでしょうか?
今回ご紹介するKさんのお宅は、そんな想像を気持ちよく裏切ってくれる。あっと驚くユニークな仕掛けに富んだお家になっています。
KさんとそのパートナーのAさんは、共に洋服や靴が大好き。プランニングでは、それらをしまうための大容量の収納スペースの確保がマスト条件でした。
必要なものをすぐに取り出せるようにしたい。
躯体現しやモルタルなど、素材感を感じられる家にしたい。
空間デザインにもこだわりたい。出来れば個性的で面白い家がいい。
そんなお二人の要望を受け提案されたのは、天井高を生かし、ロフトや小上がりなど、ところどころで床の高さを変えながら家一周ぐるっと回遊できるようにしたプランです。
寝室はロフトにして、下に出来た空間はWICとして活用できるようにしました。
窓際には小上がりをつくり、収納スペースを確保。腰掛けて本を読んだり、天気のいい日にはごろっと寝転んだり、ヨガマットを広げてストレッチをしたり。それぞれが思い思いの時間を過ごせる快適なスペースに。「大容量の収納スペースがほしい」という要望が、見事に空間デザインの一部に組み込まれています。
極め付けは、リビングと寝室の間に設置された、ユニークな“回転扉”。
日中はオープンにして開放的に、就寝時や来客時には扉を閉じることで、リビングと寝室を区切ることも出来るようにというアイデア。
ロフトの下の空間は、まるで秘密基地のよう。テーブルを置いて、収納スペース兼作業部屋として使っているのだそう。小上がりは、箇所箇所にツマミをつけて部分的に床を開けられるつくりにしてあります。
玄関の収納はオープンにして、今日の一足をさっと選びとれるよう、お気に入りの靴を並べて収納できる仕様に。帰宅後すぐにアウターを脱いでかけられるよう、ハンガーパイプも完備。
ロフトの下にある収納は玄関につながっています。季節でものを入れ替えながら手前と奥の二つの収納を上手く使い分けているそうです。
キッチンも玄関同様、よく使うアイテムをパッと手に取れるようオープン収納を採用。使用するアイテムの寸法や量を考慮して、棚の高さを計画していったそうです。
大容量の収納、モルタルや躯体現しの素材感、個性的な空間デザイン。Kさんの要望が見事に落とし込まれたユニークなワンルームの事例。多様なアイデアが、そこでの過ごし方の幅を広げてくれています。
余談ですが、回転扉はやはりつくるのに多少苦労したそうで、完成したときの感動はひとしおだったそうです(笑)。
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向坂建築設計事務所
住宅や店舗、オフィスの新築やリノベーションを手掛けます。
空間の持っているポテンシャルを最大限に引き出しながら、言葉にすることが難しい部分を捉えて形にしていくことを大事にしています。