水性塗料をかけ流す特殊な技法で抽象画を描く、画家のHさん。自身のアトリエ空間を持つことを絶対条件に、夫婦で住まい探しを始めました。出会ったのは、昭和の趣を残す邸宅。
まるで建物をキャンバスのように、アーティストらしい感性とセンスでリノベーションしました。
空間の中央に立つ既存の柱と筋交いが味わい深いリビングダイニング。
広い庭に面した掃き出し窓と欄間窓には障子を合わせ、切り取られた庭園を絵画の額縁のように引き立てています。
リビングの角には、置き畳を敷いたスペースが。こちらは、“ごろごろの間”と名付けられたスペース。こちらの家では、LDKや洗面といった基本的な空間以外には、個性的な名前がつけられているのです!
名前の通り、本を読んだり、ちょっとしたお昼寝をしたりするのにぴったり。
光を通す室内窓は、古建具と竹、デザインガラスを組み合わせたオリジナル。お気に入りの小物が並べられて、お気に入りのスペースであることが伝わってきます。
キッチンカウンターの下の棚にも、古建具を発見。ファイルボックスが整然と並ぶ中に、小さな開戸がはめられています。深みのある扉が守ってくれる小さなスペースには、大切なものをしまいたくなる気がします。
イエローやネイビーのミックスタイルが印象的な造作キッチン。設備機器との色味の組み合わせを何度もシミュレーションして選んだというタイルは、レトロでエスニックな印象があるランタンタイルです。他の空間とテイストを外したアイテムを入れて、アクセントに。
奥の空間は“おこもりの間”と名付けた、デスクと椅子を備えた小さなスペース。アールの開口に切り取られた、照明とデスク周りが絵になります。
開口部や窓枠をキャンパスのように個性豊かに演出する様は、アートを楽しんでいるようで、次はどんなところに素敵な景色が待っているのかワクワクしてきます。
そして注目したいのは、キッチン背面のこちらの棚。実は、既存の和室に取り付けられていた違い棚と床柱を再利用しているのです。
和室の設えを、エスニックなタイルが目をひくキッチンにプロット。既存を生かすリノベーションならではでありつつも、なんとも新鮮な感覚です。
廊下の扉には、不思議な形に彫られた板を発見。「扉っぽく見せたくない」という要望を受け、把手の代わりに、Hさんが集めていた古道具から練り菓子の木型を造作建具の押し板として採用したそう。
玄関には、目隠しを兼ねた間仕切りを、こちらも古建具を活用して設置。
その上に浮かぶのは、古物店で一目惚れしたという、明治時代のカツラ屋看板!
Hさんの古物に対するこだわりを感じる、この家らしいアイキャッチになっています。
さて、画家であるHさんのアトリエは、どこにあるか気がつきましたか?最初の写真にも映っていた、ダイニング左奥の細い扉。この先がアトリエです!
飾られたアートの一部のような、パントリーの扉と思ってしまいそうな、少し小ぶりなサイズが隠し扉のような雰囲気をまとっていて、ドキドキします。
そんな小さな古建具を開けると、シナ合板を貼ったアトリエ空間。アートの特殊な技法に合わせて、床は撥水性のある素材に、天井は木造の躯体現しにして余白を残しています。
クリエイティブな仕事をする空間だからこそ、住宅部分とガラッと雰囲気を変えて、アートを引き立てる設えに。Hさんの創作が映える一室です。
本来の用途とは違った使い方をした古物や、至るところに採用した古建具、既存の生かし方、そして合わせる素材の選び方一つ一つに、Hさんならでは美意識を感じます。この家づくりが、創作活動だったのではないかと思うほど、画家であるHさんの遊び心が詰まった事例でした。
株式会社アートアンドクラフト
建築設計/施工/不動産仲介/建物再生コンサルティングのプロ集団です。
大阪・神戸・沖縄を拠点に、マンション1室からビル1棟まで既存建物の再生を得意としています。
大阪R不動産も運営しているtoolboxのグループ会社です。