リビングに並ぶのはお施主様お気に入りのアンティークの家具たち。お家の内装と置かれている家具たちが一体となって、静かで柔らかな、透き通るような暗さがなんだか心地いい。
そのワケは自然光の取り入れ方にありました。
ムラ感のあるグレーがかった塗装、彩度の抑えられたフローリングとタイル、落ち着いた品のあるアンティークの家具たちが光を柔らかく受け止めます。床にはぼんやりとした影が落ち、水面のように透き通る見た目と、柔らかな空気を生み出しています。
こちらは廊下から見たダイニング。光が壁天井をぐるりとまわり、じんわりと広がっています。まるで洞窟のような幻想的な雰囲気。床からはタイルを伝って、柔らかく透き通った光が玄関まで伸びてきます。
壁、天井、床……質感の違いでここまで光の印象も変わってくるのですね。
戻ってこちらはキッチンダイニング。タイルやフローリング、塗装壁など全体的にグレーがかった空間を、キッチン台輪のメタル素材が引き締めています。家具などを見てみても異素材の組み合わせが印象的ですが、全体のトーンがまとまっているので統一感があります。
少しキッチンに寄ってみましょう。まるでアート作品のように佇むこちらは造作の吊り棚。実は棚板の下につけられているのは『ハンガーバー』の真鍮なんです。古材の荒々しい質感と真鍮の鈍い輝きがお互いを引き立てあっていて相性抜群です。
「真鍮の色味が少しずつ変化していき愛着を感じています。引き渡しが完成ではなく、家が育っていくのを楽しんでいます」と奥様。家が育っていく、質感の変化をそう捉えていく暮らしってとても豊かではないでしょうか。
洗面にも「ハンガーバー」の真鍮が取り付けられています。シャープですっきりとしたシルエットが、森閑とした雰囲気を乱さず、ただタオルを掛ける、という役割を満たしてくれます。
キッチン横のR壁は廊下に繋がっています。R壁は全体的に光を反射して白っぽく、直角の壁は廊下側が影となりグレーがかった壁に。壁の形状を変えることで、光の反射で左右の印象も変わってきます。廊下がのっぺりしたものにならず、空間に動きが生まれています。
廊下から進んだ先にはワークスペースが。天井から少し下がった壁や引き戸で軽く区切られただけの、オープンでもクローズでもないこの空間がなんだか落ち着きます。天井を伝って間接的に光が届く、この距離感もちょうどいい。
床の素材や壁の塗り方など質感にこだわることで、光の伝わり方、影の落ち方まで変わってきます。そして光、影は1日の中でも、1年の中でも少しずつ表情を変えていきます。
長い時を経て出来上がったアンティーク家具たちは、時間の流れとともに表情が変化していくこのお家で、これからも素敵な時間を刻んでいくのだろうと思います。内装と家具、どちらかを引き立てるのではなく、お互いを引き立て合い、より一層美しさを増している、そんな空間の紹介でした。
株式会社 建築士事務所エクリアーキテクツ
écrit architects とはフランス語でそれぞれ「文字」と「建築」を意味します。それらはどちらも「想いを残す」という共通点があります。想いを残し伝えることで時を越えて特別な存在になる場所。そんな建築を志している建築士事務所です。
住宅・リノベーション・プロダクトの設計、ランドスケープの企画・計画なども手掛けています。