写真提供:鳥村鋼一

「仕事柄、いつか自邸の設計をしたい」という思いはあったものの、家を持つことを決断した一番のきっかけは、二人のお子様の成長に伴い、賃貸住宅に限界を感じ始めたことでした。

家を建てる場所として選んだのは、郊外の高台にある眺望のいい200平米の敷地。

「実は、徒歩1分のところに私の実家があって、私が生まれ育った場所なんです。共働きなので、両親が助けてくれるという期待ももちろんあったけれども、知り合いが多く安心できるというのが一番の理由でした」

このエリアは最低限の分譲面積が決められていることもあり、同区画に立っているのは大きな家ばかり。しかしYさんが計画したのは、その逆の南北に大きく敷地を残した『小さな』お家でした。

両隣との家のスケールの違いが印象的。(写真提供:鳥村鋼一)

家の設計に影響を及ぼしたのは、「どんなお家に住みたい?」という投げかけに「公園みたいなオウチー!」と答えた施主でもある娘さんの言葉。

「もともと緑が好きで、庭は充実させるつもりだったんですが、当初は家を建てて余った部分が庭という認識をしていました。つまり家ファースト。ただ娘の言葉を聞いて『公園のような家』ってどんなだろうとイメージした時に、家が庭の影響をすごく受けているような空間が浮かんで来たんです。庭ありきで成立しているような家」。

そこで、広い土地のちょうど真ん中に、1階をなるべく細くした家を配置。南北の庭がくっつくくらいに平面形状を薄くし、庭に包括されたかのような室内空間を目指しました。

写真提供:鳥村鋼一

家の中を見てみると、なるほど確かに、庭との距離の近さを感じます。

家の表側と裏側両方に設けられたテラスと床の色味を揃えることで、内外の境界があいまいになり、大胆に抜かれた大きな窓を介して、前庭と裏庭が繋がっているような不思議な感覚を覚えます。

まるで庭の一部かのように感じられる1階の佇まいは、まさに『公園のようなお家』という言葉がぴったり。

真っ白な空間の中に、設計者ならではの細やかな配慮が散りばめられているのも、このお家の特徴です。例えば、開口部の壁の作り。内外の境目をあいまいにするために、コーナーをRにして輪郭をボケさせていたり、天井の仕上げをツヤツヤの塗装にすることで、外の景色や光が自然と映り込むようにしていたり。

驚いたのは1階のこの床、なんと合板を塗装したものなのだそう。綺麗にウレタン塗装されているため、一見合板とは気づかない仕上がりに。「絶対にお客様には提案できないけれども、自分の家だし実験してみようというのもあって。竣工から4年経っていますが、全然綺麗なままで、意外にいけるんだなという発見がありました(笑)」

また、階段は全て鉄骨にすると設置が大変なので、側だけ鉄骨にして、間に箱型のクッションを入れる構造に。部分的に鉄骨にすることで、大工工事の範囲で取り付けることができたのだそう。

『棚受け金物 真鍮』をアクセントに使っていただいています。(写真提供:鳥村鋼一)

キッチンは家具のような雰囲気にしたかったので、木製タイプをセレクト。アクセントに真鍮のアイテムを選んだのは、「経年変化をより楽しめる」からだそう。

ニュートラルな一角に、あたたかな雰囲気が生まれています。

がらりと雰囲気が変わる2階。吹き抜けに浮かぶスクエアの照明は、照明デザイナーの方に依頼し制作いただいたもの。(写真提供:鳥村鋼一)

2階はプライベートな居住性を重視するため、1階とは一転、フローリング仕上げの落ち着いた空間に。

吹き抜け周りは自由に使うことができる多目的スペース。左奥に見える扉の向こうが寝室なのですが、このお家、寝室と水回り以外は建具がなく、吹き抜けを介して1、2階が一続きの空間となっています。

「なるべくシンプルに、変化の余白を残しておくことで、暮らしながらありようを導き出していきたかったんです。設計すること以上に『住むこと』に興味があって、住みながらもまだ家づくりを続けたいなと思って」

水周りはステンレスのアイテムでまとめられています。(写真提供:鳥村鋼一)

紙巻器には『ミニマルペーパーホルダー』が採用されています。(写真提供:梁井理恵)

洗面やキッチン、階段吹き抜けの照明は、全て照明デザイナーに依頼し、製作いただいたものだそう。

このお家の一番の自慢は?と伺うと「余白があるのが一番の自慢ポイントです!これから、もっと色々ブラッシュアップさせていけるのでワクワクします」と、間髪入れずに答えが返ってきました。

みんなで集まるはずだったリビングは、Yさんの事務所スペースに。(写真提供:梁井理恵)

『フリーカット無垢材』と『角パイプフレーム脚』を組み合わせて制作されたデスク。窓辺に揺れているのは『ガーゼカーテン』。(写真提供:梁井理恵)

住まれた後のお写真もいただきましたが、家族が集まる予定だった1階スペースは、まさかのYさんの事務所という一人で作業をする場所に。将来子供部屋にするためにと残していた2階の多目的スペースが家族が集まるリビングになっているのだそう。

「住んでみたら想定外のことばっかりでした」とYさんは笑います。

リビングの奥はキッズスペースになっています。(写真提供:黒坂明美)

写真提供:梁井理恵

ふたつの庭と連続した一階は庭の中の日陰スペースのようで、通り抜ける風がとても気持ちいいのだそう。

家族やライフスタイルは常に変化をしているため、家づくりをする時に全てを決めるのはとても難しいことだと思います。今は自分たちの暮らしに必要な最低限だけ用意をしておき、あとは住みながら考える。そのための余地を残しておくという考えは、これから家づくりを始める方にとっても、参考にしていただけるのではないでしょうか。

「外構工事は自分たちでできるとたかを括っていたけれども、想像以上に大変で誰かにお願いしてもよかったかな?と思うことはあります。でも、これからも好きに手を加えていけるお庭は、ワクワクする要素でもあるんです!」そう話してくださったYさんの笑顔がとても印象的でした。

オンデザインパートナーズ

使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所。
また、ケンチクとカルチャーを言語化するメディア『BEYOND ARCHITECTURE』を運営。建築を、 アート・デザイン・エンタメ・ジャーナルなどの観点から 言語化し、日々発信しています。

チームだからこそ生まれる多様なアイデアで「住み手の創造力を引き上げる」
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自分の理想とする家のイメージがあっても、それを言語化して伝えるのはなかなか難しいもの。 だからこそ、なるべくコミュニケーションが取りやすくて、拙い言葉に秘められた要望を読み取ってくれるようなプロにお願いできたら!そう考える方も多いはず。そこで今回は住まい手の創造力を「対話型手法」で引き上げながら、オープンでフラットな設計を実践している設計事務所、オンデザインパートナーズをご紹介します。

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