5階建ての住居が27棟も並ぶ、千葉県のとある分譲団地。1968年の建設以降長く住まわれてきたこの団地は、建物の老朽化、空き家の増加、居住者の高齢化など、様々な課題を抱えていました。そこで、若い世代に、団地暮らしを身近に思ってもらえるように賃貸でもリノベーション可能というコンセプトのもと、DIYをキーワードに設計することになりました。この団地暮らしの魅力を発信することで、団地を起点とした周辺地域のコミュニティが広がっていくことを目指しています。
賃貸住宅でありながら、木部の釘打ちや塗装などのDIYが可能。現状復旧の必要はなく、そこに住んだ人の暮らし方にあったDIYを自由に選択でき、次に住む人が自分の好みで上書きしていく。そんな住み継いでいくお部屋が今回のDIY賃貸です。
対象となったお部屋は、もともとは間数を十分に確保した3DKの間取りでした。暮らし方に自由さを持たせるために、できる限り間仕切りをなくして大きなワンルームにチェンジ。さらに残った壁によって、機能を制限しない工夫として、床材の貼り分け位置をあえて壁とずらすことで、部屋の境界をあいまいにしています
一口にDIYといっても、できることは経験による個人差があります。ペンキを塗る、棚を作る、もっと言えば、フックをつけたり、ポスターを飾ることだってDIYと捉えられます。空間に余白を作ったり、白壁を枠で縁取ったり、シンプルな手がかりをつくることで、住む人が自分のDIY度合いに合わせてくらしのカスタマイズに取り掛かりやすいように工夫されています。
DIYしやすい合板壁や木枠の下地が施されています。
好きな色で壁を塗っても良し。棚を取り付けても良し。もちろん、そのままでも良し。
壁面に用意された木間柱に、棚をつけて本棚にすることも。壁仕上げも躯体現しと白塗装で異なる表情にしているので、暮らし方での使い分けもできそう。
洗面は収納のないシンプルなミニマルシンクが設置されています。物が少ない方にとっては、そもそもこれで事足りるし、持ち物が多い方にとっては、自分の荷物に合わせた収納を置いたり、それぞれの使い方ができるようになっています。
これらの部屋を実際にDIYして見ると、こんな感じに。
自分の暮らしや持ちものに合わせて、テイストや収納を丁度よく作っていくことができます。
「DIY」と聞くと、意外と大変そう、難しそうというイメージが強く、手が付かない人も多いと思います。ここでは、実際にリノベーションした部屋や、団地の広場を使ったワークショップを通して、「自分でもこんな風にできるんだ」と実感してもらうことで団地暮らしの想像を膨らませる企画を行っていました。「箱から家具を作る」「ベランダガーデンを作る」のように自分で想像できるくらいの大きさのカスタマイズから始め、自分の暮らしをDIYしていく体験を重ねてしていくことで、自分の暮らしをカスタマイズすることの楽しさを考えられるようにしています。
DIYを後押ししてくれる環境が整ってるって、いいですよね。
最初は同じお部屋から始まっても、カスタマイズ次第でいく通りにもなるのがDIY賃貸のいいところ。そんな暮らしの可能性にワクワクしてくる事例でした。
オンデザインパートナーズ
使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所。
また、ケンチクとカルチャーを言語化するメディア『BEYOND ARCHITECTURE』を運営。建築を、 アート・デザイン・エンタメ・ジャーナルなどの観点から 言語化し、日々発信しています。