築40年のマンションを、ご夫婦と子どもの3人家族の住まい+ご主人のためのオフィスとしてリノベーションしました。もともとは典型的な3DK振分タイプの間取りだったお部屋を、一度解体して、北側を玄関、オフィスと水回り、南側を住まいの空間に再編集しました。
最大の特徴は、住まいの中央に仕掛けが施された四角い箱を設置したこと。その箱の内部は寝室として機能し、その周囲にキッチン、リビングダイニング、クローゼット、収納、デスクスペースなどの異なる居場所が配置され、回遊できるようになっています。
壁に沿って設置されたキッチンは、横幅3.4mの特注サイズの天板と既製品のスチールラックを組み合わせて製作されたもの。木製の吊り戸に合わせたのは、手掛かりに丸い穴を開けただけのシンプルなポリカーボネイトの面材。そこに淡いピンク色の壁面タイルをあわせています。他にも、キッチンの幅いっぱいに設けられたツールバーや背面の有孔ボードを使用するなど、日常の使い勝手を考えた暮らしに馴染むキッチンです。
天井の木下地の格子をそのまま現しにした、明るく開放的なリビングダイニング。照明やグリーンなど、色々なものを自由に吊ることができるため、インテリアの幅がグッと広がりそう。綿の生地で仕立てられたシーチングカーテンから柔らかな日差しが落ち、家族で食事を取ったり、映画をみたり、ゆったりと休息できる空間です。
ステンレスの角パイプとグレーのポリランバーでつくられたオープン棚が壁一面に。躯体現しとの相性もよく、棚板の小口のラインが一直線に通り、奥行きを感じさせます。
箱の壁面にニッチを設けてクローゼットにし、服などのクローズしておきたいものたちをしまっています。
中央に四角い箱を配置することでその周囲に回遊性が出現。それにより姿は見えないけれど気配は互いに感じることができる、家族同士のゆるやかにつながる距離感が生まれました。
さらに、この四角い箱に組み込まれた建具にも、距離感を調整する仕掛けが。
日本の伝統的建具である無双窓をヒントに、従来の縦格子ではなく斜め格子にすることで、水平方向だけでなく、立ったり座ったりといった垂直方向の動きに対しても視線を遮れるよう工夫。
またこの斜め格子は、上下別々に格子の開口を調節できるので、「視線は遮りたいが風は取り込みたい」「親の気配を感じながら眠りたい」「完全に閉じて読書に集中したい」といったそれぞれの生活に合わせた環境を作ることを可能にしています。
箱上部の子供の遊び場。天井との距離が近く籠り感ある空間は、秘密基地のように子供の冒険心をくすぐります。
北側の玄関スペースです。左手に洗面室、右手に事務所スペースがあります。
カーペット、塩ビタイル、テキスタイル、コンクリート、木、ステンレス等々、たくさんの素材が使われてるのも印象的でした。この場所に立つと、その素材だからこそ感じとれる心地よさがあることを体感させてくれます。
間取りのつくりから素材の選び方まで、「自分の暮らし」づくりへの可能性が広がるとても参考になる事例でした。
鈴木岳彦建築設計事務所
1987年埼玉県生まれの鈴木岳彦が、2019年に設立した設計事務所。東京 杉並にあるリノベーションしたマンションの一室を拠点に活動中です。
プロジェクトの種類や予算、大小に関わらず、ぜひお気軽にご相談ください。いつもそこにしか生まれ得ない空間、新しい心地よさを目指して、設計提案を行なっています。