平日は会社近くの都心で一人暮らしをし、週末は緑豊かな実家に戻ってのんびりとした時間を過ごす。そんなライフスタイルを実践している、ITエンジニアをされているお施主さまが求めたのは、仕事や趣味に没頭できる小さな離れ。

水回りは母屋のものを使えば良いし、収納も最小限で構わない。職業柄、PC1台あれば事足りる。お施主さまが望まれたのは、ほとんど何もないような、がらんとした空間でした。

子供のころからずっとこの状態で、今後も長い間この状態が続くことが予想される家の前のフェンスに囲まれた空地。

実家は東京・練馬区の石神井公園にほど近い場所にあり、縄文遺跡も出土するなど自然と歴史豊かな地域。にもかかわらず、敷地の目の前に広がるのは、将来、公園として使われる予定のまま長らく放置されている空地。

空地を飛び越え、その先の縄文遺跡のある森まで意識をつなげられたら。そんな思いから「ある場所とある場所を結びつける」というトンネルの持つ性質に着想を得て、離れのコンセプトは「トンネル」に決定。計画がスタートしました。

建物内を上下左右に蛇行しながら、西から北へ抜けるトンネルのイメージでつくられた空間。有機的な動きを感じます。

そうして完成したのが、壁や天井が大きくうねるチューブのような曲面となった、トンネルのような空間です。

大きな木の塊をくり抜いたようなチューブ状の空間は、なんだか異空間のようで、どこか遠くの世界へと誘われてしまいそうな独特の雰囲気を醸し出しています。

西側の端部には背の低い吐き出し窓を設け、もう一方の端部である北側には、床から4Mの高さにFIX窓を。

西側の掃き出し窓から流れ込んだ空気が、チューブ内を上昇し、北側の高窓脇の換気口から抜けていく。気持ちのいい風が通り抜けます。

大きなアールの曲面が、FIX窓から注がれる光を拡散。木洩れ日のような柔らかな光が空間全体をやさしく包み込みます。

トンネルの出口を想起する景色。

もたれて座るのにちょうど良い曲面がつくられた東側の壁。

東側の壁にもたれて座ると、空き地の先に広がる遠くの縄文遺跡の森が、チューブと窓によって枠取られ、目の前に広がります。

収納扉に使われているのは把手の金物の真鍮。 温かみを感じる木の空間に、真鍮の柔らかな光沢が馴染みます。

内部の機能は、お施主さまが求めた通り、PC作業ができるテーブルと小さな収納のみという至ってシンプルなものながら、独創的なチューブの形状によって、小さく包み込まれる安心感と、遠くの外部空間へつながっていくようなワクワクした高揚感を併せ持った空間に仕上がっています。

デジタルなつながりに没入しつつも、周辺環境とのつながりを感じとることができる。都心の喧騒から離れてゆったり濃密な時間を過ごせる、贅沢な大人の秘密基地が完成しました。

鈴木岳彦建築設計事務所

1987年埼玉県生まれの鈴木岳彦が、2019年に設立した設計事務所。東京 杉並にあるリノベーションしたマンションの一室を拠点に活動中です。
プロジェクトの種類や予算、大小に関わらず、ぜひお気軽にご相談ください。いつもそこにしか生まれ得ない空間、新しい心地よさを目指して、設計提案を行なっています。

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テキスト:八

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