この家に暮らすのは、5人のお手伝いさん。お手伝いさん…?あまり馴染みのない言葉で驚きましたよね。お手伝いさんと言っても、この家のオーナー様の会社業務に携わりながら、時にお子様の面倒をみたり、家事を行ったり、血のつながりはないけれど家族のような関係なんだとか。元々は、この家のオーナー様ご家族と5人のお手伝いさんが一つの家で共に生活をしていました。手狭になったため、オーナー様の家の近くにある古い戸建てを改修して、お手伝いさんたちの家にすることに。
職場も生活リズムも一緒の、家族じゃないけど家族のような5人が心地よく暮らすための工夫が詰まった家。どんな工夫があるのか見てみましょう。
新たに塗り直した外壁は弁柄色。通りを歩いた人が一度は立ち止まってしまいそうな印象に残る色味です。玄関ドアや雨戸の戸袋に塗られた黒に近いグレーとの相性も良くモダンな雰囲気に。味のある既存の石畳と植栽が外壁の色彩と相まって、エキゾチックな外観に生まれ変わりました。
玄関に入るとキッチン兼マルチスペースが出迎えます。室内は、既存の天井を取り払い開放的な空間になっています。
キッチンは、面材にラワンを使用した『木製システムキッチン』。木目の表情が既存のパーケットフローリングとも馴染み、あたたかみのあるダイニングキッチンに。キッチンの壁面に、マットな質感の白タイルを使用することで、白い壁にも表情が出ています。
続いて、2階にあるお手伝いさんたちの個室。天井裏に貼られたシナ合板の色味が、存在感のある柱梁をより一層引き立てます。
この家の個室を仕切るのは、壁ではなく襖。開いていれば一つの空間に、閉めればプライベート感が高まり、でもわずかに気配は伝わる。多くの時間を共に過ごすことが日常となっている5人にとって、襖で仕切ることは、閉鎖的な空間になりすぎず、自分たちのライフスタイルに合わせて空間と光を共有でき、同じ屋根の下で暮らす安心感を感じられます。
外観の塗装を彷彿させる、暗い赤みを帯びたシックな色味を室内の襖にもさりげなく取り入れています。
昔の日本の家屋ではよく見られた襖、畳のお部屋が減少した現代ではお部屋とは馴染まない、少し古臭いイメージを持つ方もいるかもしれません。この事例では古くなった畳をラワン合板に張り替え、襖と組み合わせたことで現代のスタイルにもマッチしています。
また、襖に描かれた交差する2本の線は、襖の表と裏の空間の繋がりを感じられる柄になっています。襖は単なる間仕切りとしての役割だけでなく部屋のデザインパーツにもなるアイテムなんですね。壁一面をアートのように、襖紙や引手、縁にこだわってみるのもいいなと思いました。
1階の個室は少しテイストが変わり、和洋折衷を感じられるお部屋。床材には『スクールパーケット』を採用していただきました。既存の幾何学模様の入ったレトロな建具に合わせて、壁にはクラシカルな模様の壁紙を合わせています。
襖に貼る襖紙は紙だけではありません。2階の共有ラウンジと廊下を仕切るのは、古い襖の骨組みに麻布を貼ったもの。窓からの光を遮ることなく廊下に光を届けます。
廊下に設けられた花台やガラス棚の中にお気に入りの花瓶や絵を飾れば、自分だけの小さな展覧会も開けてしまうかも。同居人たちとお互いの趣味をシェアすることで、暮らしの中での交流も深まりそうです。
既存タイルを残した、レトロな色合いが可愛らしい浴室とトイレ。昔のお家に住むのに気になってくる水回りの老朽化問題。バスタブ・シャワー・トイレといった設備機器は、新しいものに交換しました。
最後に、ライトグレーの塩ビタイルと木の組み合わせが、やわらかい雰囲気をつくっているお手洗い。丸いフォルムが愛らしい『ミルクガラス照明』が似合っています。
既存のものを活かし、懐かしさも感じられる住空間。
日本の昔ながらの家の要素を現代の生活に取り入れることで、中に住まう人を緩やかに繋ぎ、居心地の良い空間に。
また、新旧を取り合わせることでデザイン的にも唯一無二の空間になっている事例でした。
note architects
鎌松 亮が主宰する設計事務所。「環境的なもの」「社会的なもの」「お客様に関わるもの」建築における3つの大きな文脈を読み解き、本質を形にすることで、“その場所だからできる建築”の実現を目指しています。