駅や商店街へ向かう人で行き交う通りに面した、山手線の駅からほど近い場所。境界ぎりぎりまで隣家が迫る、間口4m、奥行き12mという細長い敷地に、今回ご紹介する住宅は建っています。

下町の風情が残るこの場所で、将来、地域のこどもたちが本に触れることが出来る家庭文庫を開けたら。そんな家主の思いを叶えるため、町家のような住まいが計画されることになりました。

門柱の脇に植えられたシンボルツリー。上階のバルコニーにも高さの違う数種類の木や蔦植物などを植え、通りからも内部からも楽しめる立体的な庭をつくりました。

エントランスは木製のガラス引き戸を用い、お店のような佇まいに。絵本が並ぶ本棚の様子が外から見えるようにしています。

庭のない住宅が多い地域にも関わらず、それぞれのお宅が趣向を凝らした「小さな緑」をつくっている。そんな周辺の小さな緑を参考にしながら、立体的な緑の庭となる家の表層をつくっていったのだそう。

将来、家庭文庫として街に開かれることを想定しつくられた空間。絵本を中心に、本や雑貨を置ける棚や、有孔ボードの飾れる壁で囲まれた土間。正面の開口はベンチを兼ねていて、その奥の空間は、家族が生活するプライベートスペースになっています。

スキップフロアの3階建てという、小さな部屋を積み上げた構造のため、高さ違いでさまざまな居場所が散りばめられているのが特徴。

階段下のソファは、造作で作った収納付きのベンチに家主が所有するクッションを置いてソファにアレンジしたもの。包み込まれる安心感のある、落ち着く居場所が生まれています。

テラスの植栽により意識が外に向くため、面積以上の広がりを感じます。

バルコニーの植栽が気持ちの良い景色をつくるキッチンダイニング。窓台を広げてベンチとして使えるようにして、窓辺で過ごせる居場所を確保。

持ち物がピタッとちょうどよく収まっている様子が気持ちいいキッチン。吊り収納は目隠しとオープンのハイブリッド。シンク前のタオル掛けに使われているのは把手の金物

食器や料理器具が効率よく収納できるよう、持ち物のサイズを考慮しデザインされた造作キッチン。好きなサイズに合わせて製作可能なオーダーキッチン天板が採用されています。

階段も家族の居場所のひとつになるよう、踏み板は幅・奥行きともに広めに設計。階段奥のスペースは将来子ども部屋になる想定で、引戸で仕切れるようになっています。

階段が中庭のようなオープンスペースの役割を果たし、各部屋をつなぎながら光を拡散し、家全体に空気を循環させています。

トップライトからの光が寝室の屋根に反射し室内に拡散。空間全体を柔らかく照らします。差し込む光が1階まで届くよう、2階から3階の階段はメッシュの踏板を採用。

3階のご主人のワークスペースと、その背面に設けられた洗面・収納スペース。

可変式の棚のため、撮影時には、ちょうどお子様のお絵描きスペースに使われていました。成長に合わせて高さの調整も可能。親子が背を合わせて作業している様子に、なんだかほっこり。

寝室に面したテラスには、空に抜けるよう背の低い植栽を選択。

切妻屋根が小屋のような雰囲気を醸し出す寝室。壁面照明に合わせたのは、反射光が壁面に広がる演出性の高い「ミラーLED電球」。明るさを抑え、雰囲気を出したい空間に最適な電球です。

将来のワクワクした構想が詰まった街に開かれた空間と、家族それぞれが快適な居場所を見つけ出せるように工夫が詰め込まれたプライベートな空間。奥行きのある敷地を生かした二面性のある空間づくりが楽しい。住まい自体が絵本の物語のような、とても素敵な事例でした。

(写真提供:Masao Nishikawa)

一級建築士事務所 ikmo

建築家の比護結子と柴田晃宏による設計事務所です。
周辺環境を読み解き、人と人、人と自然の繋がりを大切にしながら、そこでの暮らしを丁寧に考えた心地よい空間を提案します。

テキスト:八

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