撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

築39年のマンションの最上階。特徴的な勾配天井を活かし、天井の高さで空間にメリハリをつけた事例です。

studio kiviという建築設計事務所を兄弟で主宰する大山さんが夫婦二人で暮らすご自宅。将来、家族が増えても柔軟に空間を使えるよう、たくさんの居場所がつくられています。

玄関から入ってすぐのところにあるのが、勾配天井で2面採光の開放的なアトリエスペース。大山さんが現在仕事場として使っているスペースです。

玄関土間と仕事場が一体となっており、来客があっても生活スペースを通らずに打ち合わせができるようになっています。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

以前は和室だったというこちらのスペース。窓に注目すると……

窓のアルミサッシを隠すように、障子の格子がついているんです。眺望を楽しめるように障子紙はなくしています。マンションリノベーションでは、窓サッシが変えられないというのはよくあるお悩み。既存のものをうまく利用したアイデアです。

そして奥の黄色い壁。既存の断熱材を現しにしているそう。よく見ると、断熱材にポストカードをピンで止めているのがわかります。

新しいものと古いもののバランスは大山さんのこだわりの一つ。残せるものを残すことで、他にない個性的な空間が生まれています。

このスペースは、今後のライフスタイルの変化に応じて変えていける仮の空間。家族が増えたら個室化してもいいなと考えているそう。

仕上げも必要になったらしていけばいいですよね。にしても、この絶妙なイエロー、かなり好みです。

和室の要素、コンクリート躯体、断熱材といろいろな素材が合わさって、他に見ない個性的な空間。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

反対側はたっぷりシューズラック。奥が玄関です。

壁はラワン合板で仕上げており、汚れや経年変化を味として楽しもうと、あえて素地のまま使っているそう。こちらも必要に応じて塗装をしても。

つい、全てを仕上げなきゃ!と考えてしまいますが、汚れなどを一旦ね、と受け入れられさえすれば、無理して全てを決める必要はないのだと気付かされます。

玄関からすぐ仕事場につながる。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

生活空間は右手の廊下に続きます。

足元に段差を設けて、天井は低めに設定されていることがわかります。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

開放的な土間から打って変わって、おこもり感のある廊下。明るさや景色が大きく変わることで、仕事モードとプライベートモードをこの廊下で切り替えられそうです。

ラワン合板は目透かし貼りにして、ダークトーンのオイルで塗装。天井もラワンで仕上げています。

照明を街灯のように並べてホテルライクな印象に。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

そんなラワン貼りの空間では、建具もラワンで造作。右手に写っているトイレのドアは、床から天井までの高さがあるハイドアと、壁がパカっと開く仕様に。閉じている時のドアの存在感を抑えています。

そこにひっそり佇むのは、無垢のタモ材から削り出された「木のドアパーツ」。「ラワンをふんだんに使った空間なので、金属製ではなく、木製で温かみのあるものを探していたら、このレバーハンドルを見つけました」と大山さん。

「とても手に馴染むので、何度も触ってしまいたくなります。奥は角が大きく取られていて、手前は少し角が立っているので、手のひらの形にフィットするんだと思います」と、使い心地を教えていただきました。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

同じ廊下からアクセスできる寝室は、シングルベッド2台がぴったり納まる約4畳の空間。決して広くはありませんが、カーテンを天井吊にして窓を大きく見せることで、窮屈さを感じさせません。

天井高は廊下と同じレベルで落ち着いた空間にしています。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

そして実はこの天井裏に秘密が。天井裏にはロフトがあり、収納できるようになっているんです!

空間のメリハリのためだけでなく、天井の高さを収納にも活用していたんですね!

開口の上部分にロフトがあります。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

そしてこちらがLDK。

天井をできるだけ高く、勾配を活かしています。最大高さは約4m!マンションでこの開放感が実現できるなんて!

コンクリート躯体現しに合わせて、天井は木毛セメント板でトーンを揃えています。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

Ⅱ型に配置したキッチンは、面材にナラの無垢材を使用して造作。無機質な躯体壁に有機的な素材が映えます。

リビング側をコンロにするという珍しい配置は、コンロ側に人が集まるような景色をつくりたかったから。ダイニングの延長として人が集うキッチンになりました。

奥のカウンターは4m。家電を置いたり、PCを置いたりとキッチン以外の用途も兼ねられます。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

天板は、薄いステンレス。コンロ側は6mmで、水栓側は3mmという薄さ。コンロはスリムなIHを採用して、キッチンの存在感を限りなく少なくしています。

右手のカーテンの先はパントリー。冷蔵庫や食品などは全て隠しています。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

リネンのカーテンがなびく窓辺。キッチンから棚が伸びてきています。小物やアートを飾る気の利いたスペース。

実はこの窓辺、壁を少しふかしており、エアコンのダクトや窓のサッシを隠しているんです。

角には収納扉があることに気づきましたか?なかなか気づけない収納場所がたくさんあります。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

そしてキッチンの反対側には、ヌックスペースが。既製のマットレスに合わせて造作しました。

お友達が泊まりに来た際は、ゲストルームにもなるそうです。マットレスを入れているから、ベッドとして気兼ねなく使えるのがいいですね。

他にも小さなお子さんがいらした際には、おむつ替えスペースや寝転びスペースとして活用。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

天井はあえて低くおこもり感を演出。壁材はラワン、天井は垂木を現しにして、木の温もりを感じる空間になっています。

壁には可動式の本棚を設置。ベッドに行かずとも、ゴロンと寝転んで本を読みながらリラックスできそう!家族が増えたら、小さいうちは子ども部屋にもなりそうです。

撮影:朴の木写真室 木村 昂貴

天井が高いからと言って、ただ天井を高く、仕切りをなくして開放的に、ということではなく、逆転の発想であえて天井を低くしてみたり、ロフト収納をつくったり。

勾配天井という特徴を存分に活かし、高さにメリハリを持たせることで居場所が生まれていました。空間の良さを多角的に見つめることの重要性を教えていただいた事例でした。

夜の雰囲気も素敵です。(撮影:朴の木写真室 木村 昂貴)

studio kivi / 大山純矢+大山真司

東京と愛知の2つの拠点で活動する、愛知県豊田市出身の大山純矢と大山真司の兄弟による建築設計事務所です。
新築住宅、リノベーション、店舗や医療施設の分野を得意としています。
HPや各種SNSより、気軽にお声がけください。

担当:庄司

関連する事例記事

指先から感じる「木」の温もり
指先から感じる「木」の温もり
自然の風合いや温かみを感じさせてくれ、肌触りの良さが魅力の無垢材。住宅では床材や家具に用いられることが多い材ですが、ドアノブや把手といった日常的に触れる部分に取り入れることで、手馴染みの心地よさを感じとれるだけでなく、住まい全体にやさしいぬくもりをプラスできます。
木を愉しむ家
木を愉しむ家
天然木ならではの美しい木目が壁一面に広がる、柔らかな雰囲気漂う住まい。一つとして同じものはない木の表情は、眺めているだけで心を穏やかにしてくれる不思議な魅力に溢れています。そんな木素材を効果的に空間に取り入れた事例をご紹介します。
角地から生まれたダイナミックな屋根勾配がある家
角地から生まれたダイナミックな屋根勾配がある家
南と東の2面が道路に面する角地の立地を生かし、大きな勾配屋根が特徴の新築戸建てのお家の紹介です。
唯一無二の「シンプル」
唯一無二の「シンプル」
自分たちだけの「シンプル」をかたちにした、ユニークなリノベーション事例をご紹介します。