今回ご紹介するのは、「限られた面積の中でも、広がりを感じられるように」と、家の真ん中に光庭を設けて、色々な方向に視線が抜けるように計画された新築戸建の事例です。
住宅街の一角という立地上、周囲に開いた設計にすることが難しかったため、内側に向けて開く家にすることを考えたのだそう。周辺の街並みに溶け込むように、外壁のテクスチャや窓枠の大きさ・色をサンプリングし、シンプルで調和の取れた外観に仕上げていきました。
玄関扉を開けると、タイルが敷かれたギャラリーのような玄関ホールがお出迎え。季節の植物やお気に入りのオブジェが飾られた素敵な空間が目の前に広がります。
異なる素材がバランスよく組み合わせられた視覚的にも楽しい空間に、家主の個性溢れる色とりどりの絵本やアートが飾られた魅力的な階段周りのスペース。
切り替えた床のタイルを、あえて庭にはみ出させることで、自然と庭先へ意識が広がるよう工夫。伸びた視線の先には大切な愛車の姿がちらり。
大きな窓から明るい光が差し込む階段は、本棚が備え付けられ書斎としても機能するよう広めの作りに。
階段の蹴上げ部分には、2階の天井と同じシナ材を使用。材を飛び火させることで、空間全体に自然な繋がりが生まれるように。階段の最上段は、バルコニーに出るステップと併用できる作りにしてあり、使い勝手と意匠を両立させたデザインが、空間のいいアクセントになっています。
2階は1階とは対照的に、木を基調にした温かみのある雰囲気に。光庭を取り囲むように各スペースを配置。どこにいても光と風を感じることができます。
驚いたのは天板につながるように備え付けられたキャビネット!天板をキッチンと同じステンレスで揃えることで、まるでキッチン付属のキャビネットのようにキッチン本体と見事に一体化しています。
さらに、ところどころに取り入れられたアールのデザインが、空間に可愛らしさと遊びゴコロを加えています。
光庭に面した畳敷きの寝室。人の目を気にすることなく日中もゴロンと横に慣れる贅沢な場所。
ところどころ高さを変えた建物の影に重なるように、隣の長屋の外壁や、そびえたつマンションが垣間見えるからなのか、庭を通して、街の気配が静かに漂ってきます。自分の家の外壁なのに、ふと隣の家の一部に見えたり、逆に隣の長屋が自分の家の延長のように感じられたり、どこまでが家でどこからが外なのか、曖昧な景色が生まれています。
現場で出てくる施主の要望をその場その場で拾い上げていった結果、「完成したのかどうか、よくわからない状態になった」と笑いながら、当時を振り返る設計者の太田さん。「だけど、その曖昧な状態の方がむしろ、住人を自然に迎え入れてくれる気がします」と彼は続けます。
「引き渡し時の状態が完成ではなく、住人が住んでからも家は絶え間なく変化や成長を遂げていくもの。どこまでが設計者の意図で、どこからが住人の手によるものか分からないくらいがいいと思うんですよね。それぞれの場が縛られることなく、使いながら色々に広がっていく。建築が背景となって、生活だけが残っていく。そんな建築が理想的なのかもしれません」
(写真提供:大竹央祐)
OSTR
太田翔+武井良祐が主催する、大阪・東京の2拠点で活動している設計事務所です。
たのしさに溢れた建築、あたらしい普通の風景をめざし、日々活動しています。クライアントの要望を前提とするのはもちろん、本当に必要な空間や機能について、今現在必要なものだけではなく、将来を見据えた長いスパンで考えたときの建築のあり方について、一から考え提案します。