京都の静かな住宅地に建つ3階建ての新築住宅。家族4人で暮らす生活の場以外に、西陣織の機織りをするための、大きな機織り機が置ける仕事場も必要でした。建坪12坪弱の建物にどのようにして職住一体の暮らしをおさめていったのか、その工夫を見ていきましょう。
1階の玄関は、小さな家ながらもゆったり。モルタル床の長い土間が続いていて、町家の“通り土間”を思わせます。壁の可動棚収納にはパイプハンガーもセットされていて、上着やカバンも掛けられます。
住居階へ続く階段の横にも土間が続き、有孔ボード壁と棚を備えた収納スペースになっていました。階段下もばっちり収納として活用。
玄関をただの「玄関」とするのではなく、暮らしのさまざまな道具をしまっておける納戸を兼用させながら、広々とした空間にしています。こうやって収納が集約されていると、「あれどこにしまったっけ?」がなくなりそうなのも、いいですね。
奥に見えるドアの先は、西陣織の機織りをする仕事場。2階と3階が住居フロアになっていて、仕事場へは一度、玄関土間に降りてから入る動線になっています。「履き物を履き替える」という行為が、生活から仕事への気持ちの切り替えを促してくれます。
仕事場の中には、大きな機織り機が置いてありました。国の伝統工芸品に指定されている西陣織は、「織り子」と呼ばれる職人さんが一つ一つ織ってつくっているのだそう。1日に数センチの紋様しか織れないこともあるそうで、生活の場から切り離された場所にある仕事場は、静かに機織りに集中できますね。
2階は家族がくつろぐLDK。天井際に設けたハイサイドライトで、プライベート感を保ちながらしっかり採光。細長い空間を伸びやかに見せています。
LDKの各所の家具が造り付けされているのも、この家の特徴。まずはリビングの窓辺につくったベンチ。ここで微睡んだら、気持ちが良さそう。
リビングとダイニングの間にはワークデスク、キッチン前にはカウンターと、それに連動するダイニングテーブルが作られていました。
細長いLDKなので、既製品の家具を合わせるにしても、サイズピッタリ、好みにもピッタリな家具を選び出すのはなかなか大変。サイズもテイストも空間に合わせた家具を用意しておくことで、限られた面積を無駄なく使えます。
各所に居場所がつくられているので、家族がひとつの空間で共に過ごしながらも、それぞれが思い思いの場所でくつろぐ時間を満喫できます。
モルタル仕上げの腰壁で囲んだ対面キッチンは、クラフト感たっぷりのブラウンのタイルを合わせて、素材感を感じる空間にしています。壁をグレージュの塗装で仕上げているのも、深みのある木の色と合っていて、落ち着く雰囲気をつくっています。
キッチン本体はシンプルな壁付けのシステムキッチンをセレクト。その分、ダイニング側からも見える壁面をタイルで仕上げたり、木のカウンター台を造作して、オリジナリティのあるキッチンにしていました。
洗面脱衣所は、バルコニー直結のランドリースペースも兼ねることで、広々とした空間にしています。『アイアンハンガーパイプ』には洗濯物の一時掛けや室内干しができ、身支度も洗濯仕事も気持ちよくできそうです。
家族それぞれの個室がある3階へ上ると、広がるのはフリースペース。朝起きて個室を出たら、出迎えてくれるのは明るく開放的な場所。夜寝る前に親子や夫婦でまったり時間を過ごすのも良いですね。お子さんの遊び場にしたり、ゲストルームとしても使えそうです。
狭い廊下で個室をつなぐのではなく、共用空間をつくって個々をつなぐ。小さな家だからこそ、こうした“ゆとり”の取り入れ方が大事になる気がします。
個室はミニマムなサイズ感。窓のサイズを控えめにしたり、屋根裏感のある勾配天井を取り入れていて、おこもり感を楽しみながらゆっくり静かに休めそう。
ブルー系のグラデーションカラーで揃えられた個室のドアは、それぞれの部屋を使う家族が自分でドアの色を選んだのだそう。同じ色のドアが淡々と並ぶよりも、ずっと楽しげな雰囲気になりますね。
トイレのドアは、カーキ色がセレクトされていました。ここだけ床がヘリンボーン模様になっているのも、遊び心を感じます。
「仕事」と「生活」、「家族」と「個人」。いろんな要素の距離が物理的に近くなってしまう小さな家だからこそ、それぞれの“場所”をしっかり確保しつつ、場所の境界を曖昧にしたり、距離感の操作をしてゆとりをつくる。そんな繊細な工夫を感じました。仕事に集中する時間も、家事に勤しむ時間も、くつろぐ時間も、居心地が良さそうなお住まいです。
※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。
株式会社アトリエイハウズ
新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。