ベトナムに暮らしていたお施主様ご夫婦が帰国後の住まいに選んだのは、築21年の2×4工法の戸建て。長年親しんだベトナムの空気を感じる家にしたいと、設計事務所に依頼してリノベーションしました。

リノベーション前の空間はこんな様子。状態は綺麗ですが、内装は普通です。

それが、リノベーション後はこう!

建物を面で支える構造になっている2×4工法の家は、壊せない間仕切り壁が多いこともあり、間取りはほぼ変えていないのですが、設えの変化で、違う家かと思うほど様変わりしました。

床に貼ったのは、ヘキサゴン(六角形)のパーケットフローリング。そしてダイニングキッチンの壁は、深いグリーンと白の半円パターンがユニークなタイルで仕上げられています。

このタイルは、ベトナムでつくられている伝統的なハンドメイドタイル「セメントタイル」。現地のメーカーにオリジナルパターンのタイルをオーダーして作ってもらい、施主支給したのだそう。

フランスの植民地だったベトナムは、入植国と母国の建築様式や風土が混ざり合って生まれたコロニアル様式と呼ばれる建築デザインが特徴。ヨーロッパを感じさせる寄木の床と、ベトナム生まれのセメントタイルを使って、そのスタイルを取り入れています。

セメントタイル仕上げの壁には、『工業系レセップ』が付いていました。

リビングとキッチンの間に作ったダイニングカウンターの天板も、床と同じヘキサゴンタイルで造作。柄と柄の組み合わせは一見、うるさくなりそうにも思えますが、どちらもクラフト感を感じる素材だからか、お互いを引き立てあっています。

キッチンは、リビングから廊下を回ってアクセスする間取り。まるでこの家に合わせて造作したかのようなキッチンは、『木製システムキッチン』のラワンです。『ラーチの吊り戸棚』と『ブーツ型レンジフード』も使っていただきました。

木製システムキッチンの特徴は、木ならではの、緊張感のない気軽に付き合える雰囲気を持っていること。東南アジアの住まいのようなリラックスした空気を感じさせるこの空間に、そんな特徴がばっちりハマっています。

壁や本棚など、東南アジア産であるラワンを使っていることも、エスニックな雰囲気づくりを手伝っています。天井いっぱいまで造作した本棚は、天井を高く感じさせてくれますね。

模様が細かく柄が多方向に向いているパーケットは、空間の奥行きを強調しないので、この家のようなコンパクトな空間に馴染みがいいですね。

洗面のミラーにちらりと映り込んでいる照明は『モデストレセップ』。

洗面の壁にもセメントタイルが使われていました。立体的な柄と独特の色合いがかわいい!コンパクトですが、使うたびにテンションが上がりそうな洗面空間です。

1階の駐車場は、お施主さんがベトナムをはじめとする各国で買ってきた家具が並ぶアトリエに。こちらの床にもセメントタイルが使われ、インナーテラスのような風情をつくっていました。

東南アジアの街で見かける、店や家の軒下で、工作仕事をしたり、茶飲み話をする人々の光景。そんなイメージが浮かび上がってくるスペースです。

旅先での思い出や、現地で過ごした空間の空気感を、暮らしに取り入れたい。そんな想いを、その土地を感じさせる素材を内装に取り入れて叶える。内装材選びでできることの可能性と、それにこだわる楽しさを改めて感じる事例でした。

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

ANCHOR DESIGN

東京都調布市を拠点として活動している、星野晃範が主宰する設計事務所。建築設計、リノベーション、インテリアデザイン​等を手掛けています。

テキスト:サトウ

関連する事例記事

辿り着いたレンジフード解
辿り着いたレンジフード解
天井スリットファンひっくるめて吊り天井に、こだわりたかったのは必要なものと抜け感のバランスでした。
眺望への期待感を高める、アール天井
眺望への期待感を高める、アール天井
大阪府の中でも豊かな自然が息づく寝屋川市。その高台に佇む一軒家には、眺望と静寂に包まれた特別な空間がありました。
光と風が通り抜ける。「通り部屋」のある暮らし
光と風が通り抜ける。「通り部屋」のある暮らし
多くのマンションでは、明るい南側にリビング、北側に個室を配置するスタイルが一般的で、北側はどうしても暗くなってしまいがち。部屋全体に光や風を行き渡らせるためには。間取りのヒントとなったのは、京長屋の「通り庭」でした。
くぐる楽しさが毎日を彩る。アーチでつながる3棟構成の住まい
くぐる楽しさが毎日を彩る。アーチでつながる3棟構成の住まい
今回ご紹介するのは、敷地の境界線沿いに隣家が建つ立地条件の中で、家族のプライバシーを守りつつ、自由にのびのびと過ごせるようにと計画された、新築戸建ての事例です。