ご紹介するのは、京都市内に建つ、築45年のRC造テラスハウス。元々の空間は、時代を感じさせる古びたレトロな内装だったそうですが、リノベーションで激変!
玄関を入ると、そのすぐ横はオープンな洗面空間。靴の脱ぎ履きをするスペースの段差や区切りもなく、広々とした空間になっています。
モルタル仕上げの洗面台はスペースの幅いっぱいに造作されており、明るく開放的な場所でのびのび身支度する時間は気持ちが良さそう。大きなミラーを取り付けていることも、空間を広く感じさせています。
洗面空間を仕切る扉もなければ、玄関ホールとLDKとの間にも扉はなし。パーティションのような壁越しに奥の空間がちらりと覗き、視線が奥へ奥へと誘われていくのがワクワクします。
このテラスハウスは壁式構造。扉や引き戸をつけず、壊せない構造壁を使ってスペースをゾーニングしながら、床を全面モルタル仕上げにすることで、フロア全体をひと繋がりの空間にしています。
スペースを広く使えるよう壁付け型にしたキッチンも、収納扉を付けないオープンなスタイル。天板だけのキッチンは圧迫感がなく、軽やかです。『フラットレンジフード』の下、ステンレスを貼った壁には、ツールバーとして『オーダーマルチバー』を使っていただきました。
二つ並んだ水栓の小さいほうは、浄水用の水栓。水道水用には『ハンドホース水栓』をお使いいただきました。キッチン上のオープン棚には『棒棚受け』も。よくある三角形の形状の棚受けと違って、置きたいものの邪魔にならず、見た目的にも邪魔をしない存在感が特徴です。
施主のリクエストは「生活感を感じさせない家にしたい」だったそう。と、聞いて気づいたのが、この家は普通の家にあるもの、つまり「家らしさ」を感じさせるものが少ないということ。空間を仕切るドアや引き戸、モノを隠す収納の扉、フローリング、玄関の区切り、など……。各所に使われたモルタルも、お店や施設など非住居的なイメージを抱きます。
人が暮らせば「生活感」は自ずと出てくるもの。それを扉や収納で無理やり隠して否定するのではなく、空間が持つ「家らしさ」をなるべくなくすことで、そこで営まれる生活がアートのように映える空間にする。使う素材や色の数を絞ってミニマルにつくり上げた住まいは、こだわりを持って選んだ暮らしの道具を置いて、愛でるように過ごしたくなりそうです。
2階も、まるでギャラリーのような空間が広がっていました。こちらも部屋を閉じる建具や収納はなく、モルタル床のホールとフローリングの居室が緩やかに連なっています。
ホールに面したアーチ型の開口は、個室とフリースペースへの出入り口。扉ではなく段差と出入り口のデザインで、境界をつくっています。
天井は既存仕上げを撤去して、頭上の開放感を感じる勾配天井に。のびのび広がる空間は、ホールを書斎にしたり、フロアの一角をキッズスペースにしたり……。家族の成長やその時々の気分で、家具の配置やスペースの使い方を変えていくことを考えるのが楽しそうです。
そんな用途不確定なスペースで気にかけておきたいのは、コンセント類の位置。フロアを見渡すと各所にコンセント類がきっちり備え付けられており、将来の使い方変更への対応はバッチリです。
閉じない開放的な空間は、視覚的な気持ちよさがある一方、熱効率が気になるところ。この家はリノベーション時に断熱性能もアップデートしており、外壁面には断熱材を充填、昔のアルミサッシだった窓は断熱性能の高いアルミ樹脂複合サッシに交換しています。2階の勾配天井にはシーリングファンも備えるなど、快適に暮らすための工夫をしっかり施して、空間を閉じない暮らしを成立させています。
この家唯一の閉じた空間、トイレと浴室も新しい設備機器を使って再生されています。トイレと洗面脱衣所が一体になった空間ですが、双方が死角になるようL型のレイアウトにしているのがポイント。
外観も、サッシの交換と手摺の撤去、外壁塗装でガラリと変貌。窓は一部を塞いだりサイズを変えたりもしています。団地型のテラスハウスなどは外装の改修に制限が設けられているケースがありますが、物件によってはこんなふうに外装もリノベーションできる場合があります。
長年空き家だったというこちらの家。築年数は古く内装も経年劣化していたものの、構造がしっかりしていたことや、間取りに可能性が感じられたことから、リノベーションに踏み切ったそう。築45年というプロフィールを感じさせないアーティスティックな空間に生まれ変わったテラスハウス。施主家族の暮らしに彩られて変わっていく様も見てみたいと思わせられる事例でした。
※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。
株式会社アトリエイハウズ
新築・リノベーションの設計施工を行う工務店。デザインだけでなく、耐震や温熱環境に配慮した建築も得意。リノベーションでは、性能向上をベースに「アップサイクル」「ネオクラシック」をテーマに掲げ、オンリーワンな空間を提案しています。京都・西京極にある自社ビルには珈琲焙煎所「WESTEND COFFEE ROASTERS」を併設。