あらかじめリノベーションが施された状態で販売される「リノベーション済みマンション」。物件の立地や面積によってターゲティングはされるものの、住まい手の好みや価値観で空間づくりをするオーダーメイドのリノベーションと違い、リノベーション済み物件はどんな人が住むかがわからない中でつくられます。それは目線を変えて言えば、「どんな人も住みやすさを感じられるよう考えてつくられた空間」とも言えます。

今回ご紹介するのは、現地でインスタライブもさせていただいた、株式会社リビタが企画したリノベーション済みマンション。都心に近い住宅地にあり、床面積は約68㎡。二人暮らしや小さなお子さんがいるファミリーを想定してリノベーションされた、2LDKの住まいです。暮らす人への気遣いがそこかしこに施された空間は、オーダーメイドのリノベーションを考えている方にも参考になるポイントが盛りだくさん!早速、見ていきましょう。

まずは、元々は狭く暗い場所だったという玄関。扉のない下足棚と、棚の上に設けられた室内窓が、明るく広々とした空間にしています。印象的な壁のアールは、壁の出っ張り感をやわらげるための工夫。迎え入れられているような気持ちになりますね。

建具にも工夫があって、個室の出入り口は開閉に場所を取らない引き戸をセレクト。実は、奥のLDKとホールの間には引き込み戸が仕込まれていて、玄関からLDKを丸見えにしたくない時や冷暖房効率が気になる時は、閉じることができます。

宅配の荷物の一時置き場にしたり、ベビーカーも置いても使いやすい広さを備えた土間玄関。下足棚の上部をよく見ると、カーテンレールが仕込まれていて、下足棚を隠したい時にも応えられるようになっています。

室内窓に使われているのは『室内アルミサッシ』の回転窓。採光だけでなく、通風もできます。玄関の下足棚部分の上は、個室側からはちょっとした物が置けるスペースになっていました。

洗面脱衣室の床は、掃除がしやすい塩ビタイル仕上げ。タオルが複数枚かけられるよう、ステンレスの『ハンガーバー』を2本使いしているところにも、気遣いを感じます。

そして洗面台には、『人工大理石の洗面カウンター』を使っていただきました。「洗面室は、ここから空間づくりを始めていくことはほとんどなく、残されたスペースの中でやりくりすることが多い場所。幅がサイズオーダーできてシンクの位置も指定できる『人工大理石の洗面カウンター』はそんな場面にぴったり。他の案件でもよく採用しています」とは、この物件の設計を担当したstudio nikoの笹本直裕さん。

洗面台は、右側に作業面が確保されているのが嬉しいですね。下部をオープンにして壁排水にしたことにも理由があり、下部に収納を置くことも、椅子を置いて座って作業することもできるようにという配慮。洗面脱衣室の使い方って、家族構成やライフスタイルによって大きく違うと思うんです。こんなふうにオープンにしておいて、必要に応じて使い勝手をカスタマイズしていくやり方もありですよね。

水掛かりがある部分は『古窯70角タイル』を貼り、洗面水栓には『壁付けセパレート混合水栓』をお使いいただきました。「気が利いてる!」と思ったのは、ミラーボックスの下面に取り付けられた『ハンガーバー』。洗面台の上でタオルが手に取れるので、床や壁に水が飛んでびしょびしょ、なんてことがありません。ドライヤーを吊り下げてもいいですね。真似したいアイデアです。

トイレには『木のペーパーホルダー 棚付き 右』と『木のペーパーホルダー タオル掛け W250』が取り付けられていました。「こういった、普段から手に触れたり目に入りやすいパーツには愛着が湧きやすいものをと思い、木の素材を選びました」(笹本さん)

約18帖あるLDKは、床にナチュラルなトーンのフローリング、壁にアースカラーを取り入れた空間。グレーの壁は塗装壁のようなマットな質感、サンドベージュの壁はざらりとした左官壁のような質感で、どちらも調湿・消臭性能を持つ壁紙を使っています。収納扉のブルーもアクセントになっていて、ただの真っ白な壁の空間よりも、落ち着いた居心地を感じる空間になっています。

そんなLDKの中心として据えたのが、『木天板キッチンⅡ型』。リノベーション前は、コンロがある側に壁付けのI型キッチンが設置されていたそうで、同じスタイルにするのでは、キッチンの手前に冷蔵庫や収納カウンターが置かれて空間が分断されてしまう。かといって対面式のI型キッチンにするのも、長さ的に窓と干渉してきてしまう。そこで、間口が狭い場所にもハマりやすい「Ⅱ型」のスタイルを採用することにしたそう。

「物件を企画したリビタからは、『キッチンが暮らしの主役になる家にしたい』とリクエストをもらいました。人がここに集まって会話したり、家族の居場所になるようなキッチンをつくりたかったんです」と話す笹本さん。対面式を取り入れることができ、木天板がリビングダイニングとの一体感も高めてくれる『木天板キッチンⅡ型』が、思い描く暮らしにぴったりきたと言います。

「納めたい場所や物に合わせて、コンロ側キッチンのサイズをオーダーできることも良かった」と笹本さん。コンロ側キッチンの収納部分は、大型のオーブンレンジも置けるサイズで計画。天板面にキッチン家電を置くスペースが確保できて、キッチン本体に収納力があることも、このキッチンを採用した理由だそう。

レンジフードは、『フラットレンジフード』。コンロ側の壁面には洗面脱衣室と同じ『古窯70角タイル』が貼られており、ステンレスの『ハンガーバー』をキッチンツール収納として設置しています。パーツや仕上げ材に共通性を持たせて、家全体に統一感をつくっているところも参考になります。

この物件は床下に配管でき、配管をやり直す際、キッチン周りの床を上げる必要がなかったことも良かったそう。家中をお掃除ロボットで掃除できるように、家の中の段差を無くしているんです。

キッチンとリビングダイニングの目線高さが揃っていることも、つながり感を高めていますね。コンロが壁側にあるので、レンジフードが視界を邪魔しないこともポイントです。

リビングの奥にはもう一室、大容量のクローゼットを備えた個室があります。この個室の出入り口にも「住みやすさ」のための気遣いがあって、引き込み戸にすることで「壁面」を活かしているんです。梁の下にはピクチャーレールも仕込まれており、壁側に家具を置いたり絵を吊るして飾るなど、リビング空間を自分らしく彩って楽しむことができます。

細かいのですが、テレビのアンテナ端子を数箇所に設置していたり、フロアーコンセントも仕込まれているなど、「そうそう、コンセント類の位置って、住んでからここに欲しかったー!ってなること多いんですよね!」と、まだ見ぬ住まい手の暮らしを考えて、そんなところまで気を配っていることに感嘆しました。

見晴らしの良いバルコニーに面した窓には、『木製カーテンレール』が。木の額縁に絵を飾るように、窓辺の景色を引き立てています。ちょっとした小物を飾れることも、リビングに楽しみをプラスしてくれます。

そして、物件販売時のスタイリングアイテムには、『CNCオーダー家具』がダイニングテーブルとして使われていました。この家具はオフィスでのミーティングテーブルを想定したものなんですが、こんなふうにロングサイズのテーブルをリビングダイニングに置いて、食事をしたりデスクワークもできる場所にするアイデア、良いですね。

住む人が自分だけで考えるのでは、なかなか思い至らないような工夫が随所に施された空間は、数々の物件を企画・設計してきたプロ同士がチームを組んでリノベーションしたからこそ生まれたもの。表層を仕上げ直しただけの物件とは違う、「リノベーション済み物件」の魅力を改めて感じました。

購入目的の物件探しはもちろん、自分の理想の住まいのイメージや空間づくりのアイデアを探しに、リノベーション済み物件を見てみるのもとても楽しいと思います。

※今回ご紹介した物件は販売を終了しています。
※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

株式会社リビタ

「くらし、生活をリノベーションする」をコンセプトに、既存建物の改修・再生を手がける会社として設立。
「次の不動産の常識をつくり続ける」を経営ビジョンに掲げ、一棟、一戸単位のマンションや戸建てのリノベーション分譲事業やリノベーションコンサルティング事業、シェア型賃貸住宅や商業施設の企画・運営、PM・サブリース事業、ホテル事業を手がけています。

studio niko / 笹本直裕 + 佐藤研也

東京と故郷である仙台の二拠点を中心に活動する二人組。
賃貸物件の1棟改修、分譲住宅、シェアハウスといった事業性とデザインが複雑に絡む案件から、拘りを実現する戸建て住宅や飲食店、アートギャラリー、展覧会の会場構成まで。分野に限定されない設計活動を続けています。

「多層的な発想と経験をもとに1件1件の企画・設計を丁寧に進めたいと考えています。」

テキスト:サトウ

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