まるで水平線が浮かんでいるようにも見える、空と海だけを切り取った窓。窓台の高さを630mmと低めに抑えることで、家と海が一体になるような不思議な感覚を生み出しています。

そんな大きな窓が印象的なここは住居スペースである2階部分。
窓辺にかかる簾や籐の収納扉、サイザル麻のカーペット、重厚感のある梁…。色々な素材が混在しながらも素材感のある質感やトーンが共通しているので、ひとつの空間の中でうまく調和しています。

部屋の中央にはラワン材で造作されたキッチンがあります。
他の造作家具とマテリアルを統一していたり、吊り戸棚には抜け感を作り軽やかに仕上げていたり。キッチン然としておらず、まるでひとつの家具のように空間に馴染んでいます。

窓際になぞるように添えられた飾り棚。端の納まりまで繊細で美しい。壁に溶け込むようになめらかに、視線をスーッと窓の向こうへと導いてくれます。

キッチンに立っているときも視界の隅に覗き込むのは青色の景色。普段の暮らしから、時間の流れや季節の変化をより繊細に感じることができそうです。

シンクの幕板についているのは味わいあるテクスチャが印象的な『溶融亜鉛メッキの把手』。もう何年もここにあったかのように空間にスッと馴染んでいます。

赤みのあるラワン材と相性抜群の異国情緒漂うカラー

ダイニングの壁には弁柄を混ぜた左官材を使っています。淡路の左官職人さんが搔き落としで仕上げたという壁。東南アジアなど異国のエッセンスを感じながらも和室の土壁のような懐かしい雰囲気も漂います。

この住まい、ディテールにも注目なんです。
リビングとダイニングの間に取り付けられた手すりは真鍮製。日々の中ですこしずつすこしずつ、味わいが増して住まいに溶け込んでいきます。

そしてもうひとつ、一般的な住宅には欠かせないスイッチがどこにもない…と思ったら発見。なんとラタンの中にトグルスイッチが仕込まれていました。納まり上生まれたデッドスペースを活用するときに生まれたアイデアだそうで、設計者の一色さんのセンス光る遊び心には脱帽です。

この建物1階の一部は一色さんのお知り合いがやっているというカレー屋さん。
新規につくられたRの効いたエントランス、土壁の質感、年季を感じる既存残しの柱…。過ごしてきた時間は違えど、ひとつの要素として共存し、空間に奥行きを生んでくれています。

住居兼事務所との間仕切りは簾をはめ込んだ建具を使用。
視界を遮る役目は果たしつつ、奥まった日本家屋にも光や風を家全体に届けてくれます。カレー屋さんがオープンしている時には香辛料の香りも風に乗って運ばれてくるそうで、暮らしにほんのすこし異国のエッセンスを添えてくれます。

光の当たる方向で視界の抜け方も変わってくる

カレー屋さんの床には瓦が敷かれています。この建物がある地域はかつて瓦の一大産だったことから、中南米の街で見た溶岩の石畳のイメージを重ねたものを、淡路の瓦職人に手仕事で作ってもらったそう。もちろんひとつとして同じものはなく、夕暮れや朝陽など日の入る時間によって様々な表情を見せてくれます。

日本家屋のなかに佇む異国の文化、既存の柱に入り混じる新規の柱、時間の経過とともに育っていく手摺、職人さんの手仕事が光る敷瓦の床…。住まいの中に時間の流れやストーリーが感じられる素材・仕上げを取り入れることで、空間に奥行きが生まれ、ずっとここにあったかのような懐かしくて新しい住まいができあがっていました。

慌ただしくすぎていく日々の中でも、この住まいはゆっくりと変化していく。
1階で仕事をして、一区切りついたら2階に上がってほっと一呼吸。目を向けた先には青とオレンジのグラデーションの空が広がり、真鍮の手すりは先週よりも少しだけ古美色に変わっている。美しく変化していくこの住まいでは、そんな日々の些細な変化にも気付ける豊かな暮らしが育まれていくのだろうと思います。

この建物の1階にある「カレーハウスバブルクンド」は毎週土曜日11:00〜15:30で営業中。
気になる方はぜひ、足を運んでみてください。

 

(写真提供:大竹 央祐)

一色暁生建築設計事務所

兵庫県の海のそばに佇む設計事務所です。

毎日新しい発見があり、日々昨日とは違うストーリーが生まれては消えてゆく建築。土地の持つ空気、施主の心理を丹念に読みとり、その人にとっての楽園となるような建築をつくりたい。そんな思いで設計をしています。

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テキスト:しもむら

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