南北の掃き出し窓をつなぐように配置された「通り庭」ならぬ「通り部屋」。

今回ご紹介するのは、名古屋市にあるヴィンテージマンションをリノベーションした事例です。

明るい南側のリビングに対して、日が入りにくい北側の個室。「日中はなるべく灯りをつけずに過ごしたい」という施主の希望を叶えるため、設計者が考えたのが、京長屋の「通り庭」にヒントを得た、南北に貫通する「通り部屋」です。

壁の中にパコっと書斎をはめ込んだようなユニークなデザイン。

廊下を無くし、南側の窓から北側の窓へとつながる「通り部屋」を設けました。この部屋は、家全体に心地よい光や風を届ける役割を果たしつつ、特定の用途に縛られない、家族全員が自由に使える憩いの場。

「通り部屋」の木の壁はすべて収納のための建具になっていて、その一部には書斎が組み込まれています。この大容量の収納のおかげで、すっきりと見通しの良い開放的な空間が実現しています。

リビング側、寝室側それぞれに、二本の引き込み建具が仕込まれています。

引き戸の開閉によって、各部屋の大きさを自在に変化させることができる仕掛け。時にリビングが、時に寝室が、時に書斎が、必要に応じて拡張したり独立したり、可変性の高い間取りのアイデアが光ります。

特定の用途に縛られない、「通り部屋」は、昼間は子どもの遊び場として、夜は大人の書斎として、時間帯によってさまざまな使い分けができる柔軟な空間に。

木の壁の対面の位置にあるホワイトのキューブには、玄関や水回りが収められています。白く仕上げたのは、光を反射させ、奥まで明るさを届けられるように、という配慮から。

細かいディテールにもこだわりが。この把手のデザイン、しびれます…。

ホワイトキューブの把手や蝶番には真鍮を採用し、壁の高さに合わせてライン状に仕込むことで、空間に洗練された印象を与えながら、全体のデザインに統一感をもたらせています。

表情の異なる直線のデザインが至る所に散りばめられています。

木の建具は、90mmと150mmという幅の異なる板をランダムに貼り合わせ、リズミカルな表情に。

フローリングによって自然と視線が奥へと導かれ、明るさと広がりを感じられる気持ちの良い空間が広がります。

床材にもひと工夫。「通り部屋」の奥行き感を強調するため、フローリングを進行方向に沿って張り、他の部屋はタイル張りにすることで、視覚的な広がりをより感じられるようにしています。

日本人たるもの、やっぱり畳に寝転びたい。こんな畳の取り入れ方もあるのかと参考になります。

キッチンにあわせて造作したというダイニングテーブルの隣には、畳敷きの小上がりを設置。

畳に寝転んでテレビを観たり、家族みんなで日向ぼっこをしながらお昼寝したり、ベンチとして利用することもできるなど、いろいろな過ごし方が楽しめる空間に仕上がっています。

住む人の心を穏やかにしてくれそうな、心地よい素材感が漂う空間。時間とともに移り変わる光の陰影が、素材の特性を際立たせます。

同じ素材を散りばめることで、空間全体に統一感を。

洗面や玄関にも『メタルスイッチプレート』や『把手の金物』など、真鍮素材のアイテムが取り入れられています。毎日触れる把手やスイッチのプレートに、経年変化を楽しめる素材を用いる。日々少しずつ変わっていく風合いや、使い込むほどに手に馴染む感触が、暮らしに温かみをもたらし、自然と家への愛着を深めてくれるはず。

部屋のどこにいても光や風を感じられる、心地よい空間が広がる一方で、時々のライフスタイルやニーズの変化に応じて柔軟に変化させることができる住まい。新たな空間の可能性を感じさせてくれる、素敵な事例です。

 

設計事務所:border design architects
担当建築家:鳥居信貴
施工:阿部建設株式会社
カメラマン:植村崇史

border design architects

愛知県名古屋市を拠点に活動する設計事務所。
様々なコミュニケーションを大切に設計をしています。お客様とのコミュニケーション、新しい住まいでの家族間のコミュニケーション、周辺環境とのコミュニケーション。様々なコミュニケーションを縦断しながら、毎日が楽しいと思える家づくりのお手伝いをさせていただければと思います。

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テキスト:八

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