今回ご紹介するのは、三重県鈴鹿市にある、ご夫婦二人が暮らす平屋建てのサロン併設住宅の事例です。
三重県は旦那さまの出身地。東京での下積みを経て、いつか故郷に戻り、夢のマイホームを建てる構想を描き続けてきた旦那さまの思いが実を結び、仕事と暮らしが程よい距離感で共存する素敵なお住まいが誕生しました。
こちらのお住まいの魅力は、なんといっても窓の向こうに広がる茶畑の美しい景色です。全国でも有数のお茶の産地である、鈴鹿市ならではの贅沢な眺め。一年を通じて、この素晴らしい借景を楽しむことができるのだそう。
住まいの一部は、周囲の景色をゆったり楽しめるよう、南向きにほんの少し角度がつけられています。隣家の存在を建物の影にそっと隠すことで、視界いっぱいに豊かな景色のみが広がります。
借景の美しさもさることながら、室内もまた、魅力的な空間が広がります。
スタイリッシュなお二人の雰囲気や好みのインテリアが映えるよう、緻密にデザインされた落ち着いたトーンの内装。整然と保たれた室内には、お二人がこだわり集めたセンスの良いインテリアが、まるでギャラリーのように飾られています。
天窓から柔らかな日の光が降り注ぐリビングの一角。スポットライトのように猫ちゃんをやさしく照らし出しています。(いい仕事をしてくれてるなぁ…と絵になる猫ちゃんたちに、つくづくうっとり)
キッチンは空間にあわせて造作したオリジナル。黒の面材が空間をキリッと引き締めます。
キッチンの上部には、ダクトごとアイアンで囲むように造作したオリジナルのレンジフードが、空間の一部として自然に溶け込んでいます。
冷たい印象になりがちな色調の内装でありながら、どこか柔らかな雰囲気が漂っているのは、タイルや木、アイアンなど、異なる表情を持つ素材を組み合わせつつ、全体のトーンを整えているから。さらに、キッチンの袖壁や背面の棚板に丸みを帯びたデザインを取り入れるなど、輪郭へのこだわりが、空間全体にやさしい印象を与えています。
空間に漂う雰囲気を作り上げているのは、内装だけではありません。目を見張るのが、お二人のこだわりが詰まった素敵なインテリアの数々。
ひとつひとつのアイテムがそれぞれ存在感を放ち、空間の質を高めながら、訪れる人の目を楽しませてくれます。
リビングの一角に設けられた洗面は、空間の雰囲気に合わせ、モルタルで天板を造作しスタイリッシュに。リビングの建具はガラス扉を造作。玄関からリビングを通して、茶畑の景色が一望できるように設えてあります。
外観の写真を見ていただくと分かりますが、こちらの建物は住居とサロンが独立したボリュームとして建ち、屋根でひとつながりとなっています。右側が住居、左側がサロン。
また、住まいとサロンの間にはバッファーゾーンが設けられており、そこから広がる美しい景色を楽しむことができるようになっています。あえて無彩色で仕上げた外壁が、周囲の自然美を際立たせます。
店舗内部は、ヘアサロンだけでなく、ネイルサロンが併設されています。旦那さまがヘアサロンを、奥さまがネイルサロンを担当しています。
中央に配置したレセプションを挟み、それぞれのサロンを左右に振り分けることで、パーソナルスペースを確保。プライベート性が確保されたそれぞれの空間で、リラックスしながら特別な時間を過ごすことができるようになっています。
足元に広がる茶畑の景色を独り占めしながら、贅沢なひとときを過ごすことができる。プライベートサロンならではの魅力あふれる空間に。
サロンもお住まいと同様、無機質な背景に個性豊かなインテリアがアクセントとして散りばめられ、独創的な世界観がつくり上げられています。
「サロンを訪れるお客様は、ただサービスを受けに来られるだけではなく、お二人の人柄に惹かれ、交流や会話を楽しみに来られる方が多いと思うんです。
ですから、お二人の個性や雰囲気と調和し、ご夫婦が持つ素敵な世界観が、自然と空間に息づくように意識して設計しました」そう語るのは、この建物の設計監理を担当されたécrit architectsの薮下さん。
周囲の情景や内装、細部のディテール、インテリア、そして、そこに住む住まい手の持つ世界観、人柄。さまざまな要素が空間に奥行きを与え、その印象を形作っているのだなぁ…と改めて感じさせられます。
(写真提供:KENJI MUTO)
株式会社 建築士事務所エクリアーキテクツ
écrit architects とはフランス語でそれぞれ「文字」と「建築」を意味します。それらはどちらも「想いを残す」という共通点があります。想いを残し伝えることで時を越えて特別な存在になる場所。そんな建築を志している建築士事務所です。
住宅・リノベーション・プロダクトの設計、ランドスケープの企画・計画なども手掛けています。