燦々と光が注ぐこの場所は、サンルーム……?ではなく玄関土間!

もともと和室だった場所の間仕切り壁を取り払い、ひと繋がりの土間空間にしています。玄関扉だけでなく、2面の掃き出し窓からも出入りができるように。

日当たりも良く、スペースもゆとりある土間では、植物の世話をしたり、畑で採れた野菜を広げておいたり。そんな土間本来の使い方だけでなく、客間としても機能するようにと考えられました。

「立ち話もなんですから」と促す先には、こちらのベンチ。

腰掛けて、外を眺めながらお茶を飲む。気づいたら2時間3時間と居座ってしまいそうですね。昔の玄関は近所の人との交流の場でもあったと聞きますが、そんな機能が現代にも活かされています。

玄関土間から続くのは、フレキシブルボードの床。同じモルタル色が室内まで繋がり、外の小道が伸びていくような感覚になります。

その先は行き止まることなく、扉を開けて、また家の外へ。家の中を路地が貫通しているようなつくりになっているんです。

この家に暮らすのは子育てがひと段落したご夫婦と、社会人のお子様の3人家族。施主の親からこの家を引き継いだことをきっかけに、リノベーションをして住み替えることになりました。

施主側からの希望は「それぞれの個室と客間、日々の営みを受け止めるスペース」。その希望を満たすのに必要なスペースを配置したところ、既存の床面積の半分程度になったため、各スペースを土間と路地で繋ぐプランニングが生まれたのだそう。

2階の間取りも、個室を設ける代わりに、大きな吹き抜けをつくって上下階にも開放感と繋がりをもたせています。

面白いのは、建物の短辺方向にも新たに出入り口を設けたこと。洗濯機置き場と物干しスペースを最短距離で結ぶ動線になっています。

こちらのお家は、庭に囲われた立地の利点を最大限に活かすため、4方向に外へと繋がる扉を設けています。外へのアクセスがしやすい動線は、暮らしやすいだけでなく、庭を家の中の延長として積極的に使いたくなるような……心理的にも庭との距離感を近づけてくれる気がします。

吹き抜け部分の壁と引き戸はガラスに。

引き戸の枠は細く、壁は床と梁下いっぱいまでガラス部分を広げることで、最大限に向こう側の景色を透過させています。足元も天井も、ガラス越しに同じ見た目が続いていくため、部屋の内側と外側が溶け合うような見た目に。

外の緑と青空、陽の光がパキッと反射している様子も美しいですね!スーッと斜めに伸びる階段がまるでショーケースの中に展示されているようにも見えてきます。

「こんなにスケスケだと落ち着かないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらのお家、プライベートな場所は、閉じたり開いたりを自在に選択できるようになっていました。

例えば、先ほどの玄関土間と繋がるリビングの壁面。

壁のように見えていた部分は実は引き戸で、このようにガラガラと閉じておくこともできるんです!

玄関でお客さんをもてなしつつ、リビングでは他の家族が気兼ねなく過ごせるように。また、普段は扉を開放して、玄関土間をリビングの延長のように使ってみたり。扉一枚で使い方を変えられる気軽さがいいですね。

その上部にある2階の個室も……

壁の一部がクルッと回転する開口部になっていました!個室にある既存の窓に加えて、もう一つの景色を取り入れることができるひと工夫。個人的には、大きな声で叫ばなくとも、1階で過ごす家族にすぐ声が届くのがいいなと思ったりします。

お風呂やトイレなど、扉で閉じる必要のある場所は、壁の厚み分を後退させた引き込み戸にしています。そうすることで、扉を開いている時はただ一枚の間仕切り壁で仕切られているような印象に。

目を凝らして見ていただきたいのが、トイレの引き戸。受けとなるストライクが手洗いカウンターに付いているんです!

手洗いカウンターの幅を確保できて、扉を開けている時の見た目も気にならない。こんな引き戸の納め方もありなんですね。

本来建具につきものである、枠やレールの存在を感じさせないことで、壁なのか建具なのかが分からないつくりに。家の中の繋がりを柔軟に選びとれる設計だからこそ、壁と建具の役割を区別せず、境界を曖昧に見せることが大切なのかもしれません。

そんな境界を曖昧に見せるつくりですが、壁と建具だけでなく、意外な場所にも潜んでいます。

2階路地の床仕上げに寄って見てみると……

ガラスの間仕切り壁の外へとわずかにはみ出しています。壁の厚みも55mm程度と、極力薄くしているため、床面が室外へと滲み出でいくような見た目に。

また、梁と1階天井もピッタリ合わせずに、あえて隙間を空けています。上から注ぐ光や風を届ける効果もありそうです。

引いてみるとこんな仕上がりに。普段は壁の内部に隠れてしまう断面を、そのまま仕上げとして見せているのも面白いですね。

改めてあたりを見回してみると、既存の柱や梁も覆い隠すことなく、新しい仕上げの一部として共存していることに気づきます。

「ここってこうなってるんだ」とついつい近づいて見入ってしまいそう。

材木に書かれた印やほぞ穴など、日々の暮らしのふとした時に、建物が繋いできた痕跡に気づくことができそうです。

最後に紹介するのは、こちらのお家で導入いただいた、toolboxのアイテムたち。

パッと見ただけでは気が付かないほど、さり気なくキッチン上空に浮かんでいるのは『フラットレンジフード』。キッチン本体と同じラワンの面材でお化粧され、変身しておりました。

そしてダイニングテーブルには『角パイプフレーム脚』。木の要素が多い中で、溶接跡もそのままなスチールの脚が際立っています。

家の内側と外側、室内の構造や新旧の境界までも曖昧にした家。

リノベーションと聞くと、家の内側をどう更新していくか?に目が向きがちですが、きっちり別つことなく、境界の引き方から捉え直してみる。そうして生まれた空間は、家族や近所の人との過ごし方、そこから見える日々の景色まで更新されていくようです。

※こちらの事例はimageboxでも詳細をご確認いただけます。

須藤剛建築設計事務所

「建築を通して日常に新しい価値をつくる」
わたしたちは、建築の設計をベースに、社会や暮らしに新たな価値を生み出し、身近な生活を豊かに送れるよう、既製概念にとらわれないものづくりを行っています。
建築は竣工して完成なのではなく、人を招き入れたくなるような、また自然に人が集まってくるような、人と人とをつなぎ、人が集うことで完成すると考えています。
そのために対話を大切にし、価値観を共有し、理解を深めながら、そこにしかないものをつくっていきたいと考えています。

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テキスト:岩崎

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